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3.おうこくぐんの、まほうつかいたち。

 王国軍野営地、将校用天幕内。

「雪がやんだよ、姉さん」

「……んっ。

 どうせまだ、進軍なんかしやしないわ……」

「だ、駄目だよ、姉さん。

 せめて服くらい着ないと……」

「いいじゃない。

 テリスだって、ほぉら、こんなにしてるのに……」

「ほ、本当に駄目だって……そんなことされると、我慢できなく……」

「しなくていいの。我慢なんて。

 テリスが望むことなんか、なんだってしてあげちゃうんだからぁ……」


 港町デラルデラム、某茶店。

「王国魔法軍でも、一、二を争う実力者だあ?」

「姉と弟、どちらが一で二なのかは判然としませんが……とにかく、使用できる魔法の量と出力、知識、技巧……あらゆる面で、この二人は他の魔法兵の追随を許していません。

 王都での魔法の名門、パスリリ家に生まれた双子の姉弟。いわば、生粋の魔法使いですね」

「そんな純粋培養、よく派遣軍に組み込めたもんだな」

「その……能力は別にして、性格や性癖に難がありまして……。

 まず、パスリリ家とは、自らの子孫の魔力を高めることを狙って、十代以上にも渡って近親婚を重ねてきた家系です。この姉妹もご多分に漏れず、そういう関係です。

 魔法使いの倫理は常人のそれとは隔絶することがある……その見本みたいな家系ですね」

「それが、性癖ってやつか?

 まあ、あの塔の魔法使いをみているだけでも、魔法使いが常人とは別種の倫理を持っていることには深く頷けるところだが……。

 でも、それ……確かにどっか壊れているとは思うが、別に他人にとって害があるわけでもないだろう?」

「ええっと、ですね……。

 その性癖とは、別に……。

 彼らはね、すっごい、わがままで、癇癖持ちなんですよ」

「癇癖?」

「いわゆる、ヒステリーってやつです。

 ちょっとでも気に入らないこと、自分の思い通りにならないことがあると、とたんに、ばぁん!

 前にもはなしましたっけ?

 軍事の上では、魔法兵は一人で一軍にも匹敵する、って言葉があります。

 彼らはただ一人でさえも、通常の魔法兵の二、三人分に匹敵する攻撃力を持ちます。

 そんな存在が、ちょいとしたことで時と場合もいっさい弁えずにヒステリーを爆発させるような気質の持ち主だったとしたら……」

「それで……これもいい機会とばかりに、やっかい払いされてきた、と……」

「今の派遣軍でも……よほどの用件でなければ、彼らの天幕に近寄ろうするする者はいないそうです。

 そうですね。

 今頃も、さぞかし盛大に、二人だけの世界を築いていることでしょう。

 そのほかで、今回従軍している有名な魔法使いといえば……」


 王国軍野営地。

「……あー。

 そこの、兵隊さんや。

 わしのめしは、まだかいのう?」

「はっ!

 さきほど、お召し上がりなったばかりであります!」


 港町デラルデラム、某茶店。

「……老境に入った賢者様、だあ?」

「往事は、王国にその人ありとうたわれたほどの賢者フラニル。

 現在、テリスとパニスのご姉妹を下す可能性がある魔法使いは、この方くらいなものでしょう。

 魔力、知識、人格とどれをとっても欠けることなく、一時は王室の相談役を務めるほどの……通りなの通り、自他ともに認める賢者であらせられましたが……今では、すっかり惚けが入ってしまわれた、との、もっぱらの噂で……」

「その人も、いわゆるやっかい払いってわけか?」

「いえ、そうではなく……とうの昔に隠居生活にはいっていたものを、どこからか迷宮の噂を聞きつけて、ご本人たってのお願いということで志願なさってきた、とか……」

「それはそれで……迷惑なはなしだなあ」

「ええ。

 かのお方の栄光も今は昔、すでに過去の人となっていたところに、ふいに現れてむりやり従軍を申し出てきた形で……。

 ただ、王室にしても、これまでさんざん世話になってきている関係上、無碍にすることもできず……」

「はなしを聞いていると、なんだか……王子様なんぞより魔法使いたちのが、よっぽど扱いに困る気がしてきた」

「ぼくもです。

 さすがにあとは、有名といえるほど名を馳せた方はいらっしゃいませんが……それでも、貴重な魔法兵があと十名も派遣軍に所属しています」

「しかしまあ、有名どころだけをざっと聞いただけでも、一口に王国軍といってもいろいろだなあ。

 そうだ、レニー。

 王国軍、あんだけの人数がいるけど、ちゃんと食わせていけているんだよな?」

「そこは、それ。

 さきほどもいったように、かのヘレドラリク卿の差配ですから、今のところ問題はありません。

 王国からここまで、長大な補給線をよく維持していると思いますよ」

「現地での徴発……とまではいかないまでも、食料をいく先々で買い上げていないのはなぜなんだ?

 その方が、手っ取り早いだろうに?」

「その質問はごもっともですが……何しろ、あの人数ですからね。

 あれを満腹にさせるだけの食料をいちいち買い上げていたら、その土地で食料品が高騰し貧しい者から順番に飢え死にすることになるでしょう。

 今の様子をみてください。

 この港町に全軍を入れきれないから、郊外に野営している有様ですよ」

「それで、よけいな人手や費用をかけて、王都から長い補給線を引いている、ってか……。

 いや、理屈はわかるんだがな……それって、とんでもない金がかかるんじゃないのか?」

「かかりますね。

 ですが、今の王国は、迷宮のおかげでかかる費用以上の税収を得ています。

 逆に、このタイミングで軍隊を駐留させないと、これ以上迷宮の利権に食い込めない」

「その……この港町に入りきれないほどの大軍が、だな。

 これから、あの小さな町に恒久的に駐留することになるとして……それでも、補給線は維持できるもんなのか?

 いや。

 食料だけのはなしではないや。

 日用品や各種消耗品、衣服とか……軍隊だって、生きた人間で構成されているんだ。必要になってくる物資ってのは、どうしたって出てくるだろう。

 今現在の町の人口よりも大勢の軍人が詰めかけて半永久的に駐留すると……仮に軍隊の方針が良心的であったとしても……いろいろと、この先、支障が出てくるんじゃねーか」

「それは……どちらかというと、ぼくよりはコニスちゃんの領分ですね」

「はいはい!

 それはもう、シナクくんのいうとおり、あの町全体のこれまでの経済構造が激変するほどのインパクトがあることは、間違いないね!」

「今のあの町の生産力では、吸収しきれないほどのインパクトになりますか?」

「吸収……は、まずできないと思うね。

 今でさえ、かなりぎちぎちだしね!

 派遣軍が居座ることになったら、あの町に膨大な物資が流れ込んでくることになると思うよ! 派遣軍目当ての商人も、多数、出入りしはじめるはずだね!」

「今までは、あの町は、迷宮からの産物を売る一方だったからな。

 でも、その手の物資を買うのは、もっぱら軍のやつらなわけだし……」

「それでも、これまで出入りのなかった商人が行き来するようになれば、従来の住人たちも利用するようになるでしょうし……地元の商人たちにも、当然、影響は及んでくるでしょう」

「ええっと、つまり……結局、どうなるの?

 派遣軍があそこに来るのは……いいことなの? それとも、悪いことなの?」

「そのどちらとも、いえますね。

 混乱は必至ですし、最終的にどういう形で落ち着くのか、明言はできませんが……」

「……今までと同じではいられなくなる、っていうことだけは、確かだね!」

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