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4.でんせつのまじょがあらわれた。

「わはははは。

 もうこんな時間だ。ぼちぼち帰らねーとかーちゃんにどやされる。

 おれはこのへんで」

「煮込み詰めておいたから、この壷もってけ。

 家に帰るまでには冷めないと思う」

「いつもすまんな、マスター」

「いいってことよ。おかみさんによろしくいっておいてくれ」


「それでシナクくん、吹雪の前後数日、宿屋にもいなかったようですが、いったいどこにいっていたんですか?」

「……いやー、その……森で迷って、そのあとある人の世話になってって……」

「迷いの森に向かったらしい、ってのは、噂聞いてしっているけどね。そのあとどーしたのかなーって。

 ここにいるってことは、あそこで遭難しなかったってことでしょ?」

「遭難したかしなかったかっていえば……そのぉ……しました。

 で、救助された」

「シナク、救助された先で、新しい趣味に目覚めた? メイドさんプレイとか?」

「目覚めてない!」

「あんな不気味なところ、地元の猟師さんでも滅多に足を踏み入れないんだけどね……。

 亡霊とかモンスターが我が物顔で歩いているって噂があるし、なにより昔っから塔の魔女の土地ってことになっているし……」

「塔の魔女、ねえ……。

 それって、有名なはなしなのか?」

「有名っちゃ、有名だけど……そっか、シナクくんは流れてきた口だから、地元の噂には疎いか。

 あそこの森にはねー、大昔っから強力な魔女がいて、不用意に近づくと捕えられて人体実験の材料にされるとか……」

「日によって現れたり消えたりする、天にも届くんじゃないかという高い塔に住んでいるとか……」

「このへんの子どもは、悪いことをすると塔の魔女にさらわれるぞ、と脅されて育つ」

「実在の人物というよりは、たぶんに幻想を含んだ存在として認識されていますが、あそこに不可解で強力な能力を持ったナニモノかがいる、という認識が、この地域では共有されています。

 いわゆる、さわらぬ神に祟りなし、ってやつですね」

「だから、わざわざあの森に足を踏み入れようとする者は、いない」

「まああれ、そうい情報に疎い流れ者でお調子者の冒険者なんかが弱い酒をしこたま飲まされておだて上げられ煽られでもしないかぎりは。

 ましてや、こんな寒くていつ雪が降り出してもおかしくない季節に、街着のまま身ひとつで森に入るなんて無謀な真似をすることは、まず、ないだろううねー」

「すまん。正直、おれが悪かった」

「いや、こうして生還してきたんだから、それはもういいんだけどさ。

 実際のところ、なにがあって誰に助けられたの?

 はなしたとおり、少なくとも地元民は、あそこにいく人はいないんだけど」

「いや……まあ……」

「ペロリ。

 シナクの顔、女の人の味がする」

「ルリーカ、おま……おおお女の味なんかするわけないじゃん!

 それと、いきなり顔舐めるな! 勝手におれの膝の上に座るな!」

「ルリーカさんがこれだけじゃれついてもいっこうに手を出す気配がないシナクくんがいきなり女性とうまいこといくとも思えないんですが……」

「いや、女性いうても必ずしもそういう関係とは限らないわけだし。

 ルリーカ、他になにか気づいた点はない?」

「左手の小指についていた傷跡が消えている件。

 というか、右手も左手も、赤ちゃんみたいなつやつや肌になっている」

「どれどれ。

 駄目! シナクくん。

 いまさら手を隠そうとしない!」

「そ、そうだ。

 コニス、お前、武器フェ……いろいろな武器を集めてたよな?

 珍しい武器を手に入れたんだけど……」

「なになに?

 って、短刀かぁ。わかりやすい剣とかでないあたりが渋いねどうも。

 見せて見せて」

「おう。で、な。

 こいつが恐ろしい切れ味で、クマの分厚い毛皮もワニの鱗も一刀両断、今日一日でだいぶ使ったけど、脂がついた様子もないという優れもの」

「ほうほう。

 ずいぶんと薄くて軽いなあ」

「そういや、それくれた人も、扱いが難しいとか力を入れる方向がずれるとポッキリ折れるとかいってたな」

「ほー……。

 レニーくん、ぼちぼち捨てようとかいってたナマクラ、あったでしょう。

 あれ、ちょうだい」

「どうぞ。ニコスちゃん」

「こう、刃を上に向けて、構えて持ってて。

 よっ!」

 キン!

「すごい! 鉄の剣が軽くまっぷたつ!

 シナクくん! これ……」

「やらんぞ」

「けちぃ」

「それで、シナクくん。

 こんなわざもの、いったいどこで入手したんです? さきほど貰った、とかいっていたようですが、ひょっとすると、その短刀もシナクくんを助けた人から貰ったんですか?」

「えーと……。

 それは、その……」

「ルリーカもシナクに質問。

 いつの間にか椅子のすぐうしろにうずくまっているこの大女は……だれ?」


「へ?」

「え?」

「あれ?」


「えぇーと……マスター!」

「い、いや……誰も入ってきてないぞ。

 すくなくとも、入り口からは!」

「黒のローブととんがり帽子……」

「格好からすると、魔法使い……ですよね」

「でも、ルリーカ、こんな人は知らない。

 近隣の魔法使いの情報は、だいたい、把握済み」

「あー……はっはははははは。

 あー。もう、ごまかせねーな!

 なんだってこんなタイミングでこんなところに沸いてくるんだかな、この人は!

 えー、この人が、噂のおれを助けた恩人でその短刀をくれた人だ。

 それで……」


「なんてこった!

 そういや、おれ、まだこの人の名前を聞いてないっ!」

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