65.がーるずぱーてぃ。
「おう、ルリーカ。
どうだ?
素質がありそうなやつ、みつかったか?」
「今のところ、見つかっていない」
「そっか。
なかなか、うまくいかないもんだなあ」
「それより、シナク。
案内の仕事はもういいの?」
「ああ。
なんか、模擬戦がきっけになって、やつらもうちの教官とか新人たちとすっかり打ち解けているみたいだし、案内はもう必要ないんじゃないかな?」
「今、新人たちのパーティ対地の民一人の試合になっている」
「あちこちで、盛大にやっているな。
ありゃ?
あっちじゃあ、グレシャス姉妹まで参戦してるわ。対戦相手が粉まみれになってる。演習用に殺傷力がない弾、わざわざ作ったのかな?」
「あっちに、一人で地の民に挑んでいる者がいる」
「実習組の誰かかと思ったら、女子かよ。
無謀……でも、なかったか。
ちゃんと攻撃、受け流せているし、おれなんかよりもずっときちんと剣を使えているや。長年修練を積んできた動きだな、あれは……。
いい前衛になるわ、あれは」
「その前に、単身で挑戦したのは、軒並み叩きつけられてあそこに寝ている」
「ああ。あれ、実習組だわ。
まあ、今のままだとまだまだ放免できないやつらだから、いい薬にはなるだろう」
「戦闘能力不足?」
「それもあるけど……やつら実習組の場合は、戦闘以外の分野が極端に弱いからなあ。
座学を軽視する傾向とか、それ以前に、自己評価が実力と不釣り合い高くて挫折に弱いところとか……精神面での脆さが心配だな」
「冒険者向きの性格ではない」
「うん。
臆病すぎるくらいでちょうどいいくらいなんだけど……ま、性格は、なかなか修正きかないだろ。
今、研修を受けている中では、あいつらが真っ先に放免されるんじゃないかっていわれているわけだけど……実際には別のやつらにどんどん追い越されるかも知れないな。
おれは、それを確かめられるまで、ここにはいないと思うけど」
「シナクのここでの仕事は、もう終わる?」
「約束では、リンナさんが動けるようになるまで、ってことだから、まだ日数はあると思うけど……。
最初、手探りだった新人さんの研修も、おおざっぱな枠組みはかなり出来てきた感じだし、教える側の陣容もかなり充実してきたし、これ以上、おれがここにいても、今までの繰り返し仕事くらいしかやることがない。
それが悪いとは、いわないけどさ……なんか、今までのパターンでいくと、一つの問題が解決すると、別の問題が持ち上がって、そっちを解決するためにお呼びがかかるから、ここで仕事をする日々も、案外、残り少ないんじゃないかな、って……」
「ギリスからの、呼び出し」
「そう。それ。
このまま呼び出しがなく、リンナさんがこっちに来るまで今の仕事が続くのなら、それも平和でいいんだがな」
「シナク教官!」
「はい?」
「自分に、一手、ご指南を願います!」
「え? おれに?
ええっと……ああ。さっき、地の民といい勝負をしていた子か。
剣の稽古なら、かなり達者な人がメイドさんたちの中に何人かいたと思うけど……そっちの専門家に任せておいた方が、いいと思う」
「はっ!
教官方には普段からご指導いただいております!
が、自分、シナク教官にはご指導いただく縁がいままでにありませんでした! この機会を逃すと永遠にまみえることはないのではないかと思いまして、図々しくもお願いに参上した次第です!」
「あー。
きみが熱心で、礼儀をわきまえていることも、よくわかった。
おれのは我流もいとこだし、正直、きみみたいなきれいな剣に触れさせて、変な癖をつけたりしなくないんだけど……。
実戦ではなく、あくまで剣を交えたい、ってことなんだよね?」
「は!
是非、お願いします!」
「正直、気が進まないんだけど、ここで断っても、きみ、かえってしつこくくらいついて来そうな顔をしているからなあ。
……しかたがない。
これ一回、こっきりにしてくれよ。
ルリーカ、少し、離れていて。
ん。
いつでも来ていいよ」
「はっ!」
きーん!
「これでいいかい?」
「……え? え?」
「剣、あっち。
弾き飛ばした」
「手筋が、まるで見えませんでした」
「今の時点であれが見えるようなら、そもそも研修なんて受ける必要ないよ」
「そ、そういうことでは……」
「一回だけ、っていう約束だよね。
きみは現状でもかなりいい筋をしているし、無駄な寄り道をせず、このまま正当派の剣術を極めていけばいい。
その方が早く強くなるタイプだから、安心して今まで通りの修練を積んでください。
……あっ! あれか。
きみ、カスカさんが前にはなしてた、ハシハズさんって子かな?」
「あっ。はい。
自分、ハシハズといいますが……」
「……ちょっと、ここで待ってて……」
「……え? シナク教官!」
「お待たせ。
ちょっとこの子たちを紹介したいと……。
なにやってんの?」
「ええっと……さっきの模擬戦で負かした方が、再戦をしろとしつこくて……」
「あれ? きみ、地の民に勝っていたの?
いい勝負をしていると思っていたけど、それはすごいなあ」
「それよりもシナク教官、この子、何とかしてください!」
「そういわれましも、ねえ……。
あー。
地の民の方。少し落ち着いて」
「ふんがー!」
「いけねえ。すっかり興奮して、はなしどころじゃない。
……もう一度だけでも、つきあってあげたら?」
「……また勝つと、もっとつきまとわれませんか?」
「小電撃」
ばばっ!
「ぴぎゃっ!」
「これで、静かになった」
「ルリーカ。
……そういう過激な手段は、以後控えるように」
「シナクがそういうのなら、そうする」
「ええっと、大丈夫ですか? 地の民の人」
「その人、ザルーザさんとおっしゃる女性だそうです」
「そうなの? まあいいや。
ザルーザさん、大丈夫ですか?」
「……うーん。
今、地獄のように甘美な猫が……」
「……大丈夫じゃなさそうだな。
気つけ薬でももらってくるか」
わし。
「だい……じょうぶ。
ヒトに何度も負けないなー。
恥、ないなー。
不覚、ないなー」
「ハシハズさんとの模擬戦はともかく、ルリーカの電撃は完全に不意打ちで、勝ち負けの問題ではないと思いますが……。
意識がはっきりしたのは、まずよかった」
「ザルーザさん、こちらのハシハズさんは、再戦を望んでおりません。
このまま、静かにお引き取り願えれば幸いです」
「……だめかー」
「うわっ。
予想以上にしょんぼりしてる!
あー。
ハシハズさんでなくとも、教官をはじめとして剣に強い人はいくらでもおりますので、そんなにがっかりすることも……」
「……だうなー……」
「あ。
これは、駄目かも知れない」
「シナク、しばらく一人にしてあげた方がいい」
「そだな。
もう落ち着いてるようだし、このままにしておいても問題ないだろう。
ええっと……ああ、そうだ。
ハシハズさん。
きみ、所属するパーティを探しているんだったよね?
もしまだ決まっていないのなら、この子たちと一度組んでみないか?
この子たちはグレシャス姉妹といって、ちょうど前衛を探していたところなんだ。試しに一度、実習という形で……」
はしっ。
「前衛、やるなー」
「ええっと……ザルーザ、さん……と、いいましたっけ?
なに?
つまり、きみも……」
「パーティ、組むなー」