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64.きょうかんたちのみせば。

「シナク教官。

 呼んできましたけど……」

「あ、どうも。

 ええと、忙しい中、お集まりいただいて恐縮です。今回、集まっていただいたのは、彼ら、地の民のお相手をみなさんにやっていただこうと思ったからです。

 彼らも、これからしばらくはみなさんが面倒をみることになるわけですから、まず最初に、自己紹介がてら、一度やりあってみてはどうかな、と……」

「い、いいですか、シナク教官」

「カラスラさん、なんでもどうぞ」

「か、彼らは、ギルドの賓客にあたるわけで……」

「兄貴は、どこまで手加減すればいいのかと聞きたがっている」

「彼らはヒトよりは頑丈そうだから、多少のことなら大丈夫そうですが……。

 とりあえず、故意に大怪我をさせるのは論外ですが、彼らが自分から敗北を認めざるをえない状況まで、追い込んでみてください。

 そうですね、おれが先陣をきって、手本を見せることにしましょう。

 おれ、このガタイですし、かなり弱そうにみえるでしょうから……。

 これで答えになっていますでしょうか? ラスレさん」

「結構だ。

 下手な手加減は無用、ということだな」

「ええ。

 いつも新人さんたちに対しているようにお願いします。

 というか、彼らもここで学ぶために来ているわけですから、教える側が差別や依怙贔屓をしてはいかんでしょう」

「シナク教官は、おれたちが怯むとか逃げ腰になるとは思わなかったのか?」

「あなた方が怯むなんて、ご冗談でしょ、フレスヌさん。

 あなた方はそれぞれ立派な経験と戦績をお持ちの冒険者でいらっしゃる。基本も出来ていないようなひよっこ相手ならともかく、彼らのような戦い方を知っていて武装した相手に、及び腰にはならないでしょう。

 現場ではもっと強い相手に、不意にぶつかることなんてざらにある」

「それに最近、表面が妙に硬くて刃が通らないモンスターが多く出没する傾向がある。

 彼らの重装甲は、その手のモンスターの相手を想定した訓練として有効だ」

「そういうことです、タイレフさん。

 それでは、これより一対一の模擬戦という形で、地の民と教官との親善試合をおこないます。

 やっているうちに、メイドさんたちとかすでに実習まで進んでいるやつらが乱入してくるかも知れませんが、そこは流れに任せましょう。

 見学する新人さんたちにとっっても、得るものが多くなると思います」


「試合なー」

「試合するかー」

「殺せないなー」

「こちらから申し出たことですから、そちらの過失について問題にすることはありません。

 ルールはとりあえず、一対一の決闘方式ではじめましょう。

 先に相手の戦意を喪失させた側が勝ち」

「でもなー」

「事故がなー」

「殺すのはなー」

「ちょっと、騙されたと思って、まずはどなたか、おれの相手をしてください。

 そこでそれ以降の試合は無駄だと判断なさったら、すぐさま中断なさっても結構ですので」

「あんたかー」

「そこまでいうならー」

「無碍に断るのもなー」


「どうやら、乗ってくれました。

 さっきいった通り、おれが最初にいきます。

 あっ、と……すいません、セルニさん。

 これ、預かってもらえませんか?」

「え? これ……シナク教官のメインウェポンじゃないんですか?」

「いや、おれのメインは、こっちの短剣だし。

 第一、魔法を知らない彼ら相手に、最初から術式付加の武器をぶつけるのは、いくらなんでも不公平ってもんでしょう。

 それじゃあ、いってきます」


「ちょっと、セルニちゃん。

 シナクくんはああいってたけど、本当に大丈夫なのん?」

「ええっと……シナク教官が、噂通りの方でしたら、まず、問題はないと思いますけど……」

「その割には……特に武器に手をかけることもなく、普通にすたすた歩いて近づいているけど……」

「向こうの方も、ありに無防備なんで、なんだかあっけに取られているようですね……。

 あと、何歩かで、相手に間合いに……」

「あっ!

 シナクくん!」

「……大剣の一撃をかいくぐって……すれ違い様に……。

 なにかを……手にとって……」

「……髭ねん。

 編み込んだ髭を一房、斬って取ったみたいねん……」

「……なんか、泣き出しましたね。

 髭を切られた、地の民の方……」

「そりゃあ……彼らにとってお髭は、重要なチャームポイントだもん。

 戦闘中にむざむざ切られたってこっと、大事なお髭を切れたって屈辱で、二重の衝撃よねん」

「……そういうもんなんですか。

 確かに、よくお手入れされていましたけど……。

 で、この勝負は……」

「シナクくんの勝ち、ねん。

 髭を斬られた子、精神的ダメージで戦意を喪失しているし……」


「……とまあ、このような感じでお願いします」

「やつら、よほど髭が大事なんだな」

「そういう文化なんでしょう。

 今のはこちらの能力に対して向こうさんが懐疑的な状態でしたが、これからは彼らも本気を出してくるでしょう」

「そうでなくてはな。

 次は、おれがいこう」

「お願いします、トエルさん」


「次はトエル教官ですか……」


 「次に髭を取られたいやつはどいつだー!」


「……な、なに挑発なんかしちゃっているんですか、トエル教官……」

「ありゃりゃ。

 今度は、ダガールくんが来ちゃったん」

「強いんですか?」

「今回、地上に出た中では、一番の力持ちねん。

 だいぶん、頭に血が昇っている様子だけど……」


 ひゅん。


「……両端に重りをつけた鎖を投げつけられて、いきなり身動きが出来なくなってますけど……」

「……彼ら、飛道具は卑怯者の武器だって、軽視しているのよねん。

 実際、あの重装甲でしょう?

 下手な弓矢なんか、ろくに効果はないんだけどねん……」

「構えた大楯ごと鎖が体に巻きついて、ろくに腕も動かせなくなってますね。

 あっ。

 トエル教官が、足下を蹴飛ばした」

「……痛ったそぅ……」

「あの総重量で、身動きとれない状態で転がったら……」

「……自力であ起きあがれないでしょうし、この勝負もここまでねん」


「ナジク教官、自分に斬りかかってきた腕を取って、そのまま相手の体を自分の背に乗せて……地面に叩きつけました」

「……気を失ったかしらん?

 彼ら、拳闘術みたいなのは知っているけど、あの手の格闘術、知らないみたいなのねん」

「それよりも、あの重量を軽々と投げ飛ばしたナジク教官のが、すごいと思います」


「今度のラスレ教官は、ちゃんと剣を持ってますね」

「ゴーズルちゃん、いきなり剣を落としているけどん?」

「……剣の横面で、相手の方の親指を強く殴っていました。

 おそらく、しびれて握り続けることができなくなったのではないかと……。

 あ。

 楯の中、相手の懐にはいりました」

「……二人一緒に、倒れてない?」

「でも……楯の中から、ラスレ教官だけが出てきました」

「ゴーズルちゃん、動く様子がないけど……。

 あれは……白目を、むいているのかしらん?」


「……地の民二十名、全員分、終わりましたけど……」

「ええ。

 途中から参加してきたメイドさんたちなんか、かなり苦戦していたけど……」

「結果としては、教官側が圧勝していましたね」

「見物してした子たちの歓声も、すごかったのねん」

「……ははは。

 こういってはなんですか、われわれ臨時教官の実力を見くびっている子も、多かったですから……」

「意識を取り戻した地の民の方に、今度は実習組が挑戦しているし……」

「地の民側にしてみれば、雪辱戦にちょうどいいんじゃないのん」

「ですね。

 新人の子たちが、彼らに勝てるとも思いませんし……」

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