3.ぼうけんしゃたち。
「うぃーっす」
「お。来たか。
随分とご無沙汰だったな」
「どうも。
ちょっこら離れたところで、何日か足止めくらててね。
マスター、いつものやつね。あとなんか腹にたまるもの、適当に見繕って」
「そっちに同業者が来て、先にやってるぜ」
「んー。はいはい。いつものやつらね。
こっちは病み上がりで早めに切り上げてきたのに、それよりも先にここに来てるからな……」
「わははははは。
来た来た。本日のMVP!」
「ギリスさん、てんてこ舞いになってましたよ。
肉屋と皮職人とかの手配、大変だったようで。あ。クマの内臓とかは薬になるとかで、呼んでもないのに薬師も来てましたね」
「そうそう。わたしたちが出てきたとき、ちょうどオオカミの死体の山が外に運び出されてきたところで……」
「そのあと、クマがでて来て、もっと大きなワニも奥に残っているとか」
「わははははは。
相変わらず一人勝ちだなあ、シナク!」
「ぼくなら、あんな難敵、絶対、一人で相手にしたくはありませんね。それを、一日のうちの三度も片づけてしまうしまうなんて。
運がいいのか、悪いのか」
「運以前の問題として、シナクの単独行動は危険。
これからは、誰でもいいから最低限二人以上の人数で挑むべき」
「もう何度もいってるんだけどね。
絶対、一人でいこうとするからね、シナクくんは……。
モンスターは強大化してきているし、意地を張るのも、もうそろそろ限界かと思うけど……」
「だー!
挨拶をする前から雁首揃えて好き勝手にわめいてるんじゃねー!」
「わっはははは。
痛い。痛いぞシナク。そのこめかみグリグリは正直しゃれにならん。痛い。痛いって。いたたたたたた……」
「昨日からお前は一度泣かすって決めていたんだよ! バッカスッ!」
「なんだかよくわからんけど、いい加減、やめてあげなよシナクくん。
こんなごつい大男が涙目になっているのを目の当たりすると、お酒がまずくなるしさ」
「まあ、一応泣かしたからよしとするか。
てめーらも、病み上がりで軽く流してきたおれよりも先にあがってんじゃねーよ」
「こっちはこっちで大変だったんですよ。
強敵モンスターとの遭遇こそなかったけど、ロストしていた元同僚たちの亡骸と立て続けに遭遇しまして……」
「いつものとおり、お助け人夫の人に伝言して貰って、ギルド職人に身元の確認をお願いしたんだけど……一日に三度も遭遇すると、さすがに縁起が悪い気がしてねー……。
早々に切り上げてきた」
「身元は割れたのか?」
「魔法剣のリンナさんと、ガラッドのご老体でした。
もうひとりは、記録がたどれなかったんでギルド無所属の冒険者か、たまたま迷い込んで遭難した人か……」
「どっちも、滅茶苦茶強いやつらだったんだがな……」
「わはははは。
戦闘能力だけでは生き残れないからなあ。とくに迷宮では。
傭兵上がりとか元宮仕えとかは、腕に覚えがあるほど勘違いして早死にしやすい」
「その点、バッカスは安心」
「わはははは。
嫁とガキどもを残してロストするわけにはいかんからな。慎重にはなるさ」
「いや、お前、もともと弱いから勘違いする余地がない。
夫婦の方はそれでよいとして……もう一組の方、そっちはなんで早上がりしたんだ?」
「カンテラの火がいきなり消えたから、あわてて引き返した」
「お前らが潜ってたの、K地区だったけか? あそこらへん、地盤はどうなんだろうな? 硬かったら発破で横穴あけて換気するんだけど……」
「そのへんの調整は、ギルドに任せましょう。
それよりも気になるのは、シナクさんのところだけ妙に大型で強力なモンスターが出没していることですね。オオカミやクマはまだしも迷い込んだ可能性も否定できませんが、ワニにいたっては言語道断なほどに不自然です。あれは、本来ならもっと温暖な気候のところにしかいない動物なんですから」
「ああ。
おれも実物ははじめてみたし、遭遇したときは結構あわてた」
「あわてても、その場でなんとか始末つけちゃうんだもんな、シナクくん。
こっちに来たばっかのときは、単独行動ばっかとりたがるから、てっきり早死組だと思ったんだけど……」
「おれが一人で潜りたがるのは、お前らの足が遅いからだよ。
これでも、生き残るための準備は万事怠りがない」
「わたしに魔法光に頼るのではなく、カンテラを使うように助言してくれたのもシナク。おかげで、今日もロストせずにすんだ」
「わはははは。
あと、この毎晩のミーティングもな。誘われた当初はなんでこんなことをするのかわからなかったが、一度習慣になってみると、実際に参加したやつらの生存率があがっている」
「情報交換の重要性、ですね。
それまでの冒険者たちは、どうも、競争意識が強すぎて、必要以上に馴れ合いを拒んでいた」
「今日見つけたリンナとかガラッドとかも、その手合いだったね」
「そういや、あいつら、縁者とか遺族は?」
「リンナさんは、いるのかも知れませんが、ギルドの誰も把握していないので訃報の届け先がないそうです。噂では、かなりの遠国から流れてきたってはなしですし……。
ガラッド老は、もともと某国のかなり偉い人だったらしいですが、政変に巻き込まれたとかですでに故国と家族を失っている、と、聞いています」
「じゃあ、二人がギルドにため込んでいた報酬はお前らの夫婦の総取りだな」
「こんな儲け方をしても、ぜんぜん、嬉しくはありませんよ」
「そうなんだよねー。
たしかに、二人分の遺産を合わせると、かなりの財産になるんだけどさー。素直に喜べないっていうか……」
「いっそのこと、ギルドに託して後続の冒険者たちを訓練するための基金にでもしようか、とか、はなしていたところです」
「ああ。それ、いいんじゃねーの?
今の迷宮の様子だと、今後も使えるやつなら人手は多ければおおいほどいいみてーだし、ここ最近のロスト率はちょっとしゃれにならねーし……」
「なにを他人事のようなことを。
シナクさん、そうなったらあなたこそが、新人訓練講師の最有力候補なんですよ」
「……へ?」
「いやね、シナクくん。
きみねー、自覚はあんまないよーだけど、的確な状況判断と多種多様な難局を自力で乗り越える能力はダントツなの。少なくとも、うちのギルドの中では。
で、今攻略中のあの迷宮では、ただたんに強いだけの馬鹿よりは、とっさの機転が効く人のが、よっぽど生還率が高いわけ。
実際、きみとのミーティングに参加したわたしら以外、ほとんどの人が脱落しちゃっているでしょ?
その知恵を後続に……せめて、同時期に一緒に攻略に参加する冒険者たちと、シェアしない手はないじゃない!」
「ちょっと待ってください、コニスさん。
いきなりそんなに捲したてても、シナクくんも困ってしまうではないですか。
今の時点では、そのような話しもでているとさえ、伝えておけばいいことです」
「おっ……おう……」
「はなしは一段落したか?
じゃあシナク、いつものガラムのお湯割りな。
それに、なんか腹に溜まるもの、だったな」
「ステーキと、なんかの煮込みか……」
「ああ。今日は肉が安かったんでな。買い込んで、いろいろ試してみた。
ステーキは薄味だったんで、香辛料効かせている。煮込みの方は、そのままだと肉の匂いがきつくて癖がある肉質だったんで、香味野菜と一緒くたに煮込んで濃いめの味つけにしてみた」
「そうだな。ステーキの方は、薄味っうか、ほとんど味しねーけど……煮込みの方は、確かに味つけが濃いな……。
酒のつまみには、これくらいがちょうどいいかもしれないけど……」
「こころして食えよ、シナク。
それ、お前がとってきたワニとオオカミの肉なんだから。
クマの肉は、ヤクゼンとかなんとかいいながら薬師が買い占めてたんで市場にはでてなかった……」