62.ずれずれー!
「……だからなー。
これは、モンスターの死骸から取った玉子を積んで置いておいたら、孵ってのでなー。
今はまだこんなに小さいけど、成長したらこーんなんなるんだなー」
「こんなんかー」
「なるんかー」
「何匹か孵ったから、ひょっとすると増やすことが出来るかもしれん。
前、食べたが、肉もいけるぞ。
そこそこになー」
「いけるかー」
「そこそこなー」
「なんか、いきなりダウドロ一家の末子と意気投合しているし……」
「だからいったでしょ?
みんな、いい子だって」
「そのかわり……思いっきり、フリーダムですけどね……」
「……レキハナさんの疲労の原因、これかぁ……。
確かに、フリーダム。
全員、即座に散らばって、各自興味の赴くまま、手当たり次第に手直にいる冒険者に話しかけたり、騒いだり……。
周囲の空気を読もうなんて配慮は、まるでなし。
……考えてみると、やつら、あの悪戯通路、わざわざ作ったやつらだもんな……」
「とにかく……シナクさん。
地の民、男女十名づつの計二十名。
確かにお連れしましたからね」
「なんで、おれに……って、ギルドの人たち、撤収しているし……」
「シナクどの。
これは……」
「ああ。
彼らは害にはならないと判断して、面倒をみるのは教官に丸投げにされたっぽい」
「……どうします?」
「しばらく、彼らの気が済むまで、やりたいようにさせておきましょう。
一段落してから、集合してもらって、一通りの案内、ということで……」
「それは、よいとしても……誰が?」
「……」
「……」
「……くじ引きでもして、教官二名、これから彼らが利用する宿舎や浴場などもありますから、男女一名づつを、この場に残すというこで」
「……禍根を残さない、いい方法ですな」
「……それでは、シナクさん。
ぼくは、そろそろ自分の仕事に戻らなければならないので、このへんで……」
「あっ。はい。
お疲れ様です! レキハナ官吏!
ああ……あの人の背中が煤けてみえる……。
先生。
リリス博士は、しばらく彼らに付き添いをしてくださるんですよね?」
「ええ。
だってその方が、面白そうなんですもの」
「しばらく、よろしくお願いします。
うちら教官たちの精神のためにも」
「シナクどの。
くじができたが……」
「おれは、一番あとで引きます」
「案の定……当たった……。
なんとなく、そんなことになるような気はしたんだ……」
「そんなに落ち込まないのー、どーぞくくぅん」
「あのぉ……シナク教官をリリス博士がそのように呼ぶのは、なにかわけが……」
「ああ、この、耳のせいですよ、セルニさん。
この先生によると、おれと先生とは森の民ということになるんだそうです」
「あー、はい。
子どものころ、うっすらと聞いたことがあります。歌がうまかったり、魔法や弓が得意だったりする種族ですね。
実物は、はじめてみましたが……」
「おれも、自分がその森の民だって自覚はまるでないんですけどね。
根拠は、この先生の言葉と、この耳だけだし……」
「ぶぅー。
あたし、嘘なんかいってないもん」
「シナク」
「ん。ルリーカ、来たのか。
それはいいけど……まだ、彼らの案内に時間を取られそうな感じだ。
悪いけど、そっちは……」
「いい。
どのみち、今日は一日オフにした。
彼らやシナクと、一緒に過ごすことにする」
「シナク教官、そちらの方は、ひょっとして……」
「ああ。冒険者のルリーカ。
この格好をみればわかると思うけど、魔法使い」
「やっぱり。
ギルド唯一の魔法使いとか……」
「魔法剣のリンナがいるので、すでに唯一の魔法使いではなくなっている」
「リンナさんは、今、休養中だけどな」
「流石はシナク教官、ギルド内の有名人の方々とも親しくていらっしゃるんですね」
「親しい、ってか……普通に、知り合いってだけなんだけどな。
おれは基本ソロでやっているから、特定のパーティに所属していないやつらと横の繋がりができやすい、ってのは、あったかも知れない」
「そうですね。
パーティのメンバーが固定されていると、つきあいがそこだけで完結してしまいがちな面もありますもんね」
「例の掲示板のおかげで、これからはそれも少しづつ、変わっていくとは思うけどね」
「あれのおかげで、喧嘩別れは気軽にしやすくなりましね」
「シナク、この人は?」
「ああ。臨時教官のセルニさん」
「セル二、臨時の割には、表情に陰がない」
「ちょ、ルリーカ。
初対面の人に、不躾にいいすぎ!」
「いえ、いいんですよ、シナク教官。
臨時といっても、わたしの場合はギャラをピンハネされていただけで、虐待とかはありませんでしたから。
笑っちゃいますよね。
わたし、間が抜けたことに、他のメンバーが捕まるまで、自分の取り分が長いこと誤魔化されていることにさえ、気づいていなかったんですよ。
てっきり、対等な立場の仲間たちだって思いこんでいました」
「さて、ぼちぼち、落ち着いてきたかな」
「落ち着いたというより、彼らの質問責めにあった他の人たちが退散して、いなくなっちゃったようねん」
「先生。
彼らを一カ所に呼び集めたいときは、どういう合図をすればいいんですか?」
「両腕を大きく上にあげて、ずれずれー、って叫べば集まってくるわん」
「……先生」
「なに、その目。
嘘じゃないわん。
そういう文化なんだから、しかたがないじゃない」
「では……まず、先生がお手本をみせてください」
「いいわよん。
せーの……ずれずれー!」
ざっ。
ざざざざざ……。
「すげー。
本当に、あっという間に集まって、整列してくれた」
「ね。
いったとおりでしょ?」
「はいはい。
ええ、どうも。
おれがいっていること、理解できますか?
本日、みなさんの案内役をさせていただくことになりました、冒険者のシナクです」
「いいか。質問。ひとつ。
小さい。そこ。人。何者か?」
「ええっと、ルリーカですか?
ルリーカも、冒険者です。魔法使いの、冒険者です。
よかったら、今日一日、みなさんと同行させてあげてください」
「魔法使い?」
「魔法使うなー」
「使うかー」
「使えなー」
「先生、彼ら、魔法ってものを知っているんですか?」
「知っては、いるみたいね。
ただ、どうやら彼らには魔法が使えないらしくて、あくまで架空の存在だと思われているみたい」
「シナク。
自己紹介代わりに、魔法を見せてみる」
「……見せても、差し障りはないですか? 先生?」
「大丈夫なんじゃない?
驚きはすると思うけど」
「業火」
どっごぉぉぉぉぉん。
「人。手。火を噴いたな。天に」
「大きな火な」
「鍛冶場に欲しいな」
「あれが魔法な」
「魔法かー」
「……おれがみたなかで、一番でかくて派手なルリーカの攻撃魔法だった件」
「わたしも、攻撃魔法を間近でみるのは初めてです。
確かに、威力がありそうですね」
「ええ。
これで、ルリーカが魔法使いであることが、納得できたかと思います。
ええっと……彼女を同行させても、よろしいでしょうか?」
「魔法。すごいなー」
「いいなー」
「ほしーなー」
「あれ。ともにいくかー?」
「いくなー」
「いいなー」
「とくに異論がないようですので、これよりみなさんのご案内を開始させていただきます。
まず最初に、みなさんの当面の生活の場となる、迷宮内の宿舎から……」