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60.ていこくかんりは、かろうぎみ。

「……レキハナ官吏ぃー!」


 ばたん。


「呼びましたか?」

「あっ。

 ……本当に、来た」

「これから寝に帰るところだったのですが……。

 ふぅ。

 リリス博士、また、あなたでしたか……」

「また……普段、レキハナ官吏にどんな迷惑をかけているんですか、先生。

 レキハナさん、ちょいとみない間にげっそりとやつれているじゃあありませんか」

「……べっつにぃ」

「いえ……リリス博士おひとりののせいばかりというわけではなく……。

 その……とにかく、外交とはなにかと心身を消耗いたしますので……ええ……」

「……本当に具合悪そうですね、レキハナさん。

 マスター、こちらに何か精のつくものを!

 ささ。

 こっちにお座りになって。

 お疲れのところをまことにすみませんが、レキハナさん。

 地の民を地上に出すってはなしについて、少々、お聞きしたいことがあります」

「ああ。

 あれですか?

 ぼくにお答えできることなら、なんなりと……」

「……よかった。

 レキハナさんが把握しているということは、少なくとも先生の独断でやっているわけではなかったんだ……」

「……ぶぅー。

 あたし、そんなことはしませーん!」

「それでは、レキハナさん。

 本当に言葉が通じるかどうかも気になるところですが……彼ら、地の民とつきあう上で、なにか気をつけること……彼らの前でこれだけはやっちゃあいけないってこととか、なにかありますか……」

「あ、ああ……。

 そう……ですね……。

 やっちゃあいけないこと……というのは、特にないかと思いますが……。

 はぁ。

 彼らとまともにつきあうのは……その、とにかく、こちらの忍耐力が試されますねえ。

 なんともうしますか……ええ……言葉は通じても、はなしが通じないときがある、といいましょうか……。

 そうですね。

 言語の問題は、ほぼ無視していいかと思います。

 彼らは、こちらがいっている内容を十全に理解できますし……しゃべる方も……あの独特の癖さえ飲み込めれば、ええ……そんなに、不自由をすることはないと思います……」

「言葉は通じても、はなしが通じないと……というあたりに、なんとはなしに不安を感じないでもないのですが……。

 一応は、了解しました。

 つまり……当たって砕けろ、ということですね」

「身も蓋もない結論だね!」

「……よくよく考えてみれば、冒険者の仕事って、本来そんなもんだよなあ……。

 ここ数日、ガラにもなく教官なんてものをやっていたから、なんとなく普段の覚悟とか勘所を見失っていたわ」

「わははははははは。

 それでこそ、シナクだ」

「ええ……。

 彼ら、地の民が……怒るなんてことは、まずないかと。

 だからこそ、かえって怖いという側面もあるのですが……」

「ええー。

 みんな、いい子だよー」

「……悪いけど、おれ、レキハナさんと先生を比較したら、レキハナさんの言葉の方を信用する」

「……ぶぅー」

「まあ、まだまだなにを用心すればいいのかわかりませんが、せいぜい用心してかかることにしましょう。

 それよりも、レキハナさん。

 大丈夫ですか?

 顔色、悪いですよ?」

「だい……じょう、ぶ……。

 ただ、ちょっと……疲れているだけでして……」

「……ちょ、ちょ……レキハナさん!」

「おいおい。

 本当に、大丈夫か?」

「いえ……。

 ちょっと、眠気がさしただけですので……」

「先生!

 レキハナさんの宿舎は?」

「はーい!

 案内しまーす!」

「さ、レキハナさん。

 今からお送りしますから、肩をおかしください。

 バッカス!

 ちょっと、手を貸してくれ!」

「わはははははは。

 心得た」


「……このお屋敷が、官舎になるわけですか?」

「帝国の領事館としてみると、ちょっとしょぼいんだけどねー。

 でも、不動産の出物がほとんどなくて、これしか借りられなかったのん」

「いえ、このあたりの土地柄を考えれば、これでもかなり上等で立派な部類に入ると思いますが……」

「今、門をあけるねー」


 がちゃん。


「……この広い屋敷に、お二人で住んでいるんですか?」

「今の住人は、そう、この二人だけねん。

 今、明かりをつけるねー……。

 あと出入りがあるとすれば、通いの使用人くらいかなー。

 明日あたり、折衝官を補佐するスタッフとか学者とかが何名か、ここに入ることになるはずなんだけど……。

 ええっと……玄関の鍵は……」


 がちゃ。


「あ。

 こっちに、入って。

 レキハナくんの寝室は、この奥……。

 レキハナくぅん、ここの鍵、出してえ。

 ……目を、醒まさないか。

 シナクくん、右のポケットの中にはいっているはずだから、鍵、だして」

「……いいんですか?」

「帝国官吏様を、床やソファの上に転がすわけにもいかないでしょう?」

「……そうですか……。

 はい」


 がちゃ。


「はい。

 そこの寝台に転がしておいて。

 あとはどうせ、朝早くに使用人が定刻通り、起こしにくることになっているから」

「ここの鍵は?」

「そこのサイドボードの上に転がしておけば、目に入るでしょ」

「はい」


 がちゃ。


「……ふう。

 お二人とも、ありがとうございました」

「いえいえ。

 なんか、お疲れのところ、無理に引き留めてしまったこちらの責もありますし……」

「わははははは。

 まあ、お互い様ということだな」

「……お茶くらい、飲んでいく?」

「いえ、遠慮しておきます。

 もう遅いですし、明日もなんだかばたばたしそうですし……」

「そう?

 それじゃあ、せめて門まで……どうせ、鍵を閉めなければならないし……」


 がちゃ。


「それじゃあ、シナクくん、バッカスさん。

 おやすみなさい。

 また、明日」

「はい。

 おやすみなさい。また明日」

「わははははは。

 おやすみなさい」


「……帰るか」

「わははははは。

 ……そうだな」


 商人宿、飼い葉桶亭。

 

 どさ。


「……ふぅ。

 いつものことながら、ばたばたして、わけがわからない一日だった。

 明日も……ふぁぁ。

 なんか、いろいろ、忙しくなりそうだし……。

 んん。

 せめて……服を、脱いで……。


 ぐぅ」


 どさ。


「ふむ。

 今夜も、帰ると同時に沈没、か……。

 最近は、こいつもなかなかの激務らしいな」


「……」


「……寂しくなんか、ないぞ……」


「……いかん。

 本気で心細くなってきた。

 まずは、この、脱ぎかけの服を、脱がして……。

 よっ、と……」


「うん。

 これでよい」


「……さて、寝るか」


 翌朝。

「……毎日、律儀に全裸だなあ……。

 さて、この腕を……引きはがして……」

「……抱き枕……」

「なんだ?

 おれはもう出るけど、まだ寝ていていいぞ」

「最近、出番が、もとい、会話が少ない」

「……そう、いわれてもなあ。

 時間があわないってか……あんた、いつもおれが寝てから出てくるようだし……」

「……」

「……無言で睨むなよ。

 ああ。

 わかった。

 今度、ちゃんとはなす時間作るから、それで勘弁してくれ。

 んー。

 でもなあ。

 あらかじめいっておくと、職場のあれこればっかで、あんたが興味を持ちそうな話題はあまりなさそうだぞ」

「……はぁ」

「なんだよ。

 いきなり深いため息なんかついて」

「本当に、女の扱い方を心得ていない男だな」

「余計なお世話だ。

 ってか、あんた、自分を女性扱いして欲しかったのかよ」

「そういう問題ではない。

 もういい。

 さっさと仕事でもなんでも、いってしまえ」

「いわれずとも、いくけどね……。

 ああ、そうだ。

 あの、おれが魔力を貯める体質だってのは、本当なのか?」

「ああ……そういわれてみれば、そうだな。

 このわたしの魔力と比較すれば実に微々たるものなので今まで気にかけもしなかったが、いわれてみれば、そういう体質ではあるな。

 お前さん、しっかりした師について学べば、魔法も使えるようになるぞ」

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