54.ぱーてぃめいくけいじばんしまつ。
「はい。
新人研修を受講中のみなさん、今、集まっていただいたのは、パーティ編成用の人員募集掲示板の利用を、いよいよ解禁したいと思ったからです。すでに短期仕事募集掲示板のとなりに設置されていますので、すでに目にしていた方も多いかと思います。
この掲示板を解禁するにあたって、無用なトラブルを回避するため、ギルドからいくつかの、利用のさいのルールを、いくつか、提示させていただきます。
ひとつ、パーティ成員の加入に関しては、募集者と応募者、両者の合意を必須とす。
ひとつ、途中、当初に約束した条件とは違った場合、あるいはパーティ内でのトラブルなどの理由により、ギルドは、応募者がパーティから離脱する自由を保証する。
ひとつ、該当掲示板は、パーティ間の人材流動化を目的のひとつとする。
よって、研修受講者のみではなく、ひろくギルド所属の冒険者全体の利用を許可する。
ひとつ、募集者と応募者の両者、あるいは一方が希望したときのみ、面接時、または契約時にギルド所属の教官、ないしは職員、ないしはそれに準じる者を、立会人として要請することができる。
これは、どちらか一方に対して著しく不公正な関係の締結を防止するための措置である。
ひとつ、この掲示板を利用している、していないに関わらず、所属パーティ内で不当に不利益を強制されている構成員は、いつでもギルドに訴え出ることができるものとする。
この際、訴えをうけたギルド側は直ちに該当パーティの内情を精査しなければならない。その際、不正が発覚した場合、該当パーティを強制的に解散する権限を持つ。特に悪質な冒険者に関しては、ギルドからの登録を永久に抹消することができるものとする。
これと同じ文章は掲示板の横に張り出してあるので、掲示板を利用する人は、よく読んでおいてくださいね。
特に、最後の条文は、この掲示板を利用しない冒険者にとっても、重要な意味を持ちます」
「しかし、思い切ったルールを打ち出しましたっすね」
「ああ、キャヌさんか。
どうだい? あれの、反響の方は?」
「あの条文の意味するところを、ようやく理解しはじめたようで……一部の冒険者が、騒ぎはじめているところっす。
特に、あの最後の条文は……強烈っす」
「あれは……ギリスさんの、英断だったな。
今までのギルドは、どちらかというと日和見で、みて見ぬ振りで、ここまで強権を発動しようとはしていなかったんだけど……」
「ギルドも、急激に規模が膨れ上がっていますからね。
最低限の秩序を守るためにも、ある程度、枷にはめようとする力は必要になるのかもしれないっす」
「ま、普通にしていれば、全然、なんともないんだけどな。
で、キャヌさん。
ここからが、お願いなんだけどさ。
困っている人がいたら、新人さんの宿舎か修練場を駆け込み寺にするといいよ、って、噂を、それとなく流してくれないかい?
あそこには剣聖様配下のこわーいメイドさんたちが詰めているから、よほどの命知らずでなければ取り返しにもこれまい」
「そういうことなら、了解っす。
それ、他の事務員さんたちにも……」
「もちろん、噂話として広めてもらっているさ。
ギルドの事務員さんたちは、冒険者と接触する機会も多いからな。
捕り物に備えて、人狼とか吸血鬼とかバッカスとか、規格外のやつらが控えているそうだし……」
「シナクさんは、いかないっすか?」
「呼ばれればいくことになるんだろうけど……今のところ、呼ばれてないしなあ。
まあ、しばらくは新人さんの相手をしていろ、ってことなんだろうよ」
「……で、メンバーの募集かけてみて、どうだった?」
「あっ。
シナク教官。
その……応募者の方が、多すぎて……」
「ま、グレシャスさんのところは、女子だけのパーティだしな。
下心こみで、こんなもんだろ」
「シナク教官。
その……こういうときの、選ぶコツというのは……」
「……ずっとソロでやっているおれに聞くなよ。
それはともかく……うーん。
とりあえず、妹さんたちと相談して書類選考で数絞って、その後、姉妹みんなで面接してみるしかないんじゃないか?
怖いようだったら、メイドさんに相談して、面接時に立会人になってもらえばいいだけだし……」
「そう……なりますよね」
「そうさな。
あるていど数を絞れたら、一度、一緒に訓練をするなり、迷宮の比較的浅い場所とかに潜って巡回してみるとか、してみたら?
そういうとき、普段とは違う顔が見られるかも知れないしさ。
なに、あの条文にも書いてあるとおり、自由に離れたりくっつたりできるんだから、あまり深刻に考えすぎず、本当に気があう人に出会えるまで何度でも失敗してやる……ってくらいの気持ちで、気軽にいってみようよ」
「は……はい。
そう、ですね。
別に、失敗しても、いいんですよね」
「うん。
とくに最初のうちは、あまり深刻にとらえず、軽くお試ししてみます、ってくらいのスタンスでちょうどいいんじゃないかな?」
「ちょっと待てよ!
おれは、おれたちは、こいつを、こいつだけを呼んだんだ!」
「んふふふふふふふふふ。
呼ばれたこちらの新人さんが、立会人を求めた。
だから、このわたくしがここにいるのよぉ?
おわかりぃ?」
「カスカ教官。
やはり、このおはなし、なかったことにさせていただこうと……。
どうやらこちらの方々は、自分に冒険者以外の役割を求めていらっしゃるようですので……」
「んふふふふふふふふふ。
そうねぇ。
わたくしも、同じ意見ですわぁ。
それを別にしても……この腋臭だけでも、いっしょのパーティになるのはご遠慮したいものよねぇ。
ええ。
それでは、みなさま。
この子とのパーティ結成のおはなしは、なかったということで……」
「こ、こら! てめぇ!
いったい、なんの権限があって……」
「んふふふふふふふふふ。
権限?
これでも、新人教育をギルドから委託されている、職員に準じる者ですがなにか?
あら、あなたたち……ひょっとして、まだあの条文、読んでいらっしゃらないの? それとも、読んでも内容が理解できないほどにお馬鹿なの? 腋臭だけでなくて、頭も悪くていらっしゃるの?」
「いいたい放題いいやがって!
腋臭は関係ねー!
もうかまわねえ!
相手は女二人だ!
野郎ども! やっちまえ!」
「んふふふふふふふふふ。
あら、まあ。
いかにも三下がいいそうな、独創性のないセリフ。
さあ、シズハズさん。
この間の護身術の復習といきましょうか?」
「はい、教官!」
「んふふふふふふふふふ。
少し、やりすぎちゃったかしら?
……殺さないでしとめるって、案外、難しいものねぇ……。
あとでシナクどのに絞られないといいけど……」
ギルド本部。
「わはははははは。
斜視のズルリハ、以下三名、連行してきた!」
「お疲れ様です、バッカスさん。
しばらく、そこに待機してくださいね。
さて、ズルリハさん。
あなたには、一括して受け取った賞金を長年、パーティ内で不公平に分配した疑い、こちらのカラスラ氏とラスレ氏のお二人に対して度重なる暴行を行っていた容疑がかけられています。
パーティ周辺の人たちの証言を総合すると、どちらの容疑も否定しきることは難しいものとギルドは判断いたしました。
よってギルドは、本日、本時刻をもってズルリハさん、グレルさん、ズープルさん、バスボサさんの四名を冒険者登録から抹消し、以後、半永久的に再登録できないものとします……」