52.ぱーてぃしどう。
「シナクさん、ちっす」
「お、キャヌさんか。
さっそく取りかかってくれたようだね。
ありがたいな」
「これくらい、なんでもないっす。
それより、設営している間に、顔見知りの冒険者から何回か問い合わせがありました。
やっぱりこれ、シナクさんが想定した以上に、反響、ありそうっす」
「そうかそうか。
で、その問い合わせのとき、活きがよさそうな若いの、取っといてくれよ……みたいなことも、いわれただろ?」
「それは……。
あ、はは」
「やつらの思考パターンはわかっているから、ごまかさなくてもいいよ。
冒険者の風習について無知な下僕をいい条件で調達できると思っている手合いが、これからもちょっかいかけてくると思う。
まあ、その手のは、うまいこと受け流してくれると、ありがたい」
「仮にそういってくる人がいたとしても、受諾に関してはこちらにはなんの権限もありません! と、いっておくっす」
「ん。
それでいい」
迷宮前広場。
「すでに迷宮に入っても問題がないと判断されたパーティについては、今、メイドさんたちの監督のもと、迷宮にはいって実戦訓練を行っている最中です。
つまり、ここに残っているのは、現時点でそこまでの戦闘能力を獲得できなかったパーティということになります。
これまでの経験や仲間内で意見を出し合って自分たちに足りないものがなんなのか、わかっているパーティは、すぐにでもこの場から離れて弱点克服のための自主訓練をおこってください。
弱点の自覚はあっても、その改善方法がわからないパーティ、あるいは、自分たちのパーティのどこが悪いのかよく理解できていないパーティは残って、個別の指導を受けてください。
この場に残ったパーティ、一つ一つの指導を行っていくので、順番が回ってくるまで時間がかかることがあります。その時間も無駄にせず、ミーティングや個別のトレーニングにあててください」
「……結構、残るもんだな……」
「ついこの間まで、いや、今でもずぶの素人同然なのが、ほとんどだ。
無理もなかろう」
「アイハナさんがパーティごとに整理してくれた資料をみながら、手分けして順番に指導していくよりほか、ないですね」
「大半は、単純な鍛錬不足だ。
どこを鍛えろ、ここをもっとのばせ、で終わるであろう」
「だと、いいんですけどね」
「さて、敵、ではなかった、相手をしなければならない数を、順当に減らしていくことにしよう」
「はいはい。
……そこの人たち、こっち来て!
きみたちは、自分らの弱点がわからないのか、それとも弱点の克服方法がわからないのか、どちらだ?
そうか。
長距離での打撃力が不足している、と。
弓の担当を変えてみるとか、やってみた?
きみたちの資料は……これか。
みんなの成績をみると、よくいえば平均的、悪くいえば突出したものがない、と。
今の装備は……まあまあ、悪くはないのか。
このまま迷宮に入れるのには貧弱だけど、そっちの改善は、もっと武器の扱いに慣れてからだな。
現在、弓を担当している二名だけでなく、他の全員も含めて、これから三日間、弓の稽古だけに専念してみて。
三日後、改めて全員の適性を見直してみよう」
「自分たちの弱点がわからない、か。
つまり、戦闘方面に関しては、自分たちはそこそこいけていると思っているわけね。にもかかわらず、今回の実習からからはずされた、と。
資料は……うーん、これか。
よし、わかった。
じゃあ、これから軽い模擬戦、やってみようか。
これから、おれがモンスターの役をやってみるから、きみたちパーティでそれを迎撃してみて。
手加減抜き、真剣勝負でいいから。ていうか、真剣にやらないと、きみたちの方が怪我するから。
んじゃあ、準備はいい?
いくよ!」
ざっ、ざざっ。
とん。
とん。
「はい、前衛二名、首をかみ切られた」
ひゅん。
とん。
とん。
とん。
とん。
「残り四名も、あっという間におれの毒牙の餌食になったね。
はい。
これで、きみたちの問題点、よくわかったかな?
まず、長距離組。
当たらない、射撃の間隔が空きすぎ……といった基本以前に、動く的を狙うことを想定した訓練、していないでしょう?
この中で、対人戦の経験者は?
ん。六人中、四人か。
では、狩りの経験者は?
皆無、ね。
山狩りとか野党狩りの経験はあるようだけど、大勢で少数を追いつめるのと、少数で野生の獣を相手にするのとでは、まるで違うから。
今のおれの体勢が、思いっきり低いのと、動きの速さに戸惑っていたようだけど、四つ足ってのは、本来、おれの動きなんかよりも、もっと低くて速いもんだよ。
で、その低くて速いの、実際に狙ってみると……実に、当てにくいだろ?
同じ平面上にいる場合、弓矢ってのは、自分の腰から下の位置にいる的には、非常に当てにくくなっているもなんだ。いわゆる、射角の関係だな。ましてや、相手が素早く動くとなれば、ますます当たらない。
遠くに見えるうちに着実にダメージを与え、動きを遅くする。あるいは、近づいてきたら、すぐに近距離用の装備に持ち変え、即座に対応できるようにすること。
そんで、今度は前衛二人な。
全然、前衛としての役割を果たしてないじゃん。楯役が楯として機能していない。
そのクソ重たい武装は、飾りか?
最低限、いざってときに即応できるようにしておくこと。
まあ、きみたちの場合は、あれだ。
全員、圧倒的に鍛錬が足りてない。
各自、個別に、各武器の扱いについて習熟するための基礎訓練から、やり直し。
今の実力でパーティを組むのは、時期尚早ってもんだな」
「次は……おっと、例のグレシャス姉妹の、パーティか……」
「はい。
お願いします」
「確かに、筋力不足で打撃力は足りていないんだけど……。
その他の成績は、割といいんだよな、きみたち。
剣や槍の型はそつなく反復できるし、弓だって、命中率は決して悪くはない。非力で弓を引くのに時間がかかるから、速射性がネックになっているけど……。
うん。
これは、最初に実地で試してみるか。
さっきと同じ、少し離れた場所から、おれがモンスター役としてきみたちパーティを襲うから、きみたちなりのやり方でそれに対応してみて」
「はい」
「ん、じゃあ……いくよ!」
ざっ。
ざざっ。
「ん。
ここまででいい。
だいたい、わかった。
全員、今朝渡したばかりのスリングを装備したのね」
「ええ。
シナク教官がおっしゃった通り、自分たちの売りとはなにかを考え、それに特化しました」
「ん。
いいね。
前衛抜きの編成は、リスクを承知の上であえて選択、と。
きみたちだけでは全然不安だけど、きみたちに信頼できる前衛が何人か加わると、ちょうどいいパーティになると思う。
なんだかんだいって、おれに攻撃をあてることができたのは、きみたちがはじめてだもんな。
これが雪玉ではなくて、特殊弾頭だとかだったら、おれは確実にやられている。
きみたちはこのまま、スリングの腕を磨いておいて。あとで各種特殊弾の使い方や注意事項を教えにいく。
今の四人だけでは実習には連れていけないけど、その判断力も含めて、きみたちのパーティは十分、合格点に達しているよ」