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51.ちのたみ。

「……本当っすか、それ?

 あれから、まだ何日もたっていない気がするんですが……」

「そうねん。

 全く未知の言語を一から修得するのにはあまりにも短いんじゃないかって意見は、もっともだけど……。

 どうも彼らは、あたしたちの言葉にまったくなじみがなかったわけではないようなのねん」

「でも……帝国は、今回はじめて彼らと交渉もったんすよね?」

「ええ、帝国は、ねん」

「大陸共通語を知ってて、なおかつ、いまだに帝国と接触しないでいられる場所って……今時、あるもんなんですか?」

「だからあ、彼らが知っていたのは、現在の大陸共通語ではなくてえ、それに類似した言語。

 文法はほぼそのまんまだけど、動詞の活用なんかが現行のものよりもかなり煩雑で、発音なんかも、かなり違う。

 あたしはぁ、現行の大陸共通語よりももっと古い、いわば、源大陸共通語なんじゃないか、って睨んでいるわけだけどぉ……」

「ちょ……ちょっと、まってください。

 言葉を調べただけで……そこまで、わかるもんなんですか?

 その……昔の言葉とか、って……」

「わかるわよん。

 それが学問ってもんだしぃ、このあたしは仮にも専門家なんだからぁ。

 ここで、ある仮説を当てはめると、彼らが地の民の古語に近い言語をはなしていたことについても、すとんと腑に落ちるのよねん」

「……いや、だって……」

「シナク。

 この博士とやらは……つまり、こういいたいわけか?

 その、迷宮の中でみつかった地の民とやらは……大昔のどこかから、集団で現在の迷宮の中に流れ着いてきた、と……」

「あらぁ。

 他ならぬあなたが、そこに疑問を持っていいのか知らん?

 別の世界から来た、この世界には決していないはずの魔法剣士さん。

 あなたや、別の世界からわんさかモンスターを吐き出す門がすでにあるんだもん。あの迷宮ならそれくらいのことは十分、ありなんじゃない?

 今、ここから直接時間をさかのぼった場所……というより、リンナさぁん、あなたがそうであったように、こことほとんど同じだけど、微妙に異なった世界の過去から来た、って線も考えられるわけだけどぉ……ま、これから地の民を専門に研究している人たちがわんさか派遣されてくることになっているから、もっと正確なところは、これからいやでも判明するわん。

 そういう細かいことはともかく、彼らが敵対的な行動をとっていない以上、帝国の方針としては、可能な限りすみやかにお互いにとってよい取引をしておきたいそうよん。

 それでぇ、レキハナくんにも、彼らの出稼ぎをサポートしてくれないか、って頼まれちゃってねん。

 彼らの一部でも迷宮の外にでれば、こっちの文物に触れれば、それなりに刺激を与えるところもあるだろうし……そっちの意味でも、期待されているわん」

「帝国官吏の意向もあるのでしたら、おれなんかがとやかくいうまでもないよな。

 協力……といっても、当面は、ギリスさんとの交渉の橋渡しくらいしかできませんが……」

「それでもう、必要にして十分十分」

「なあ、シナク。

 その、地の民というのは……おまえの目からみて、どうだ?」

「冒険者、ないしは、戦士として、ですか?

 そうですね。おれがまともに接触してたのはせいぜい三日くらいなもんなんで、戦力としては正確に評価できませんが……。

 背は、ルリーカより若干低いくらい」

「ずいぶんと、小さいな」

「背は、ね。

 そのかわり、幅と厚みは通常のヒトの倍くらいはゆうにある。

 男女とも、長い髭を蓄えていて、それをきれいに手入れして編み込んだり飾りをつけたりしている。

 清潔好きで、おしゃれで、陽気で、悪戯好きで……まあ、そんな種族です」

「補足しておくと、名誉や法を重んじ、高い知性を持つ。

 彼ら独自の文化や価値観があって、われわれとは微妙にはなしがあわないことはあるけど、基本的には、みんな、いい子よん。

 特に、戦士階級は……彼らにとって、貴族の血統に生まれることは、男女問わず戦士として育てられることを意味するわけなんだけどぉ……高潔な人格と高い戦闘能力を維持し続けないと、とたんに部族内での特権を取り上げられて村八分にされる体制を、何十世代も保っている。

 いわば、生粋の戦士ってわけねん」

「そんなのが、今の大陸共通語をおぼえて、冒険者としてギルドに加入したいといってきているわけか……。

 戦力としては、期待できそうだ」

「ふん。

 制度や精神性に関しては、こちらの貴族や冒険者たちにも見習わせたいものだな」

「まったくです。

 さて、さっそくギルド本部にいってきましょうかね……」

「シナク、今やっていた仕事は、いいのか?」

「ああ。

 それは、午後にやるパーティー単位の個別指導の準備ってやつで、新人さんたちの成績をチェックしていただけです。

 たまたま時間が空いていたから目を通していただけで、急いでやらなければならないって仕事でもありません」


 ギルド本部。

「おい、フェリス。

 今日も出番だ」

「ちょ、シナクさん。

 フェリスはまだ昨日の分の書類を……」

「いいから来い」



「……と、いうわけでして、リリス博士をお連れいたしました」

「はい。

 おはなしは、よくわかりました。

 ただ、わからないのは……なんで、ここに、リンナさんまでいらっしゃるんですか?」

「リンナさん。

 ……なんで、いらっしゃるんですか?」

「だって……なあ。

 いつまでもひとり休養っていうのも……退屈で、寂しいもんなんだぞ?」

「それでも、体を休めて少しでも早く現場に復帰するのが、リンナさんの今の仕事です」

「それは……その……」

「好奇心を満足させたのなら、すぐに帰って横になってくださいね?」

「……あっと……」

「すぐに帰って横になってくださいね?」

「は、はい」

「それでは、あとのおはなしは先生とギリスさんで詰めてください。

 受け入れ方針とか細かいところが決まったら、教官たちの方にもご一報を。

 午後からも訓練の予定が入っているので、おれはこれで失礼します。

 さ、リンナさん。いきますよ」

「あっ。ああ……」


 ばたん。


「なあ、シナク。

 こっちのギリスって、なんか、迫力が増していないか?」

「あれでも、常時多大な重圧にさらされているんです。

 そりゃ、迫力も増すでしょうよ」

「そうかあ……。

 こっちのギリスは、もう一事務員ではないのだな……」

「そんなことより、さっさと迷宮に帰りますよ。

 ギリスさんにいわれたとおり、今度こそおとなしく休んでください」

「ああ、それはかまわぬのだが……。

 その前に、途中で少し買い物を……」


 迷宮前。

「……そんなに、両手で抱えきれないほど買い込んで……いったい、どうするつもりですか?」

「どうするって……もちろん、食うに決まっておる」

「ほとんど駄菓子や屋台料理じゃないですか。

 それ、全部、食べられるんですか?」

「昨日あたりまでは少量、口の中にいれただけでえづいたものだがな。不思議と今朝ほどから腹が減ってな。

 それも、以前なら受けつけなかった甘いものとかが、無性に欲しくなった」

「……食べきれなかったら、適当に他の人にお裾分けしてくださいね。

 それでは、おれは午後の仕事があるので……」

「うむ。

 職務に邁進してくるがよい」

「はいはい」

「あと、見舞いにくるのなら、みやげは食い物か仕事の資料がいいぞ。

 とくにおぬしの口述筆記物は、妙に読みでがある」

「ええ。

 余裕があったら、おじゃましますよ」

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