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49.じゃくしゃのぶき。

「扱っているよ!

 深窓のご令嬢ご用達しの豪奢なレイピアとかね!

 でも、今、シナクくんが求めている商品は、こういうものではないと思うね!」

「おう、その通りだ。

 もっと実用的な、小さな女の子でも迷宮でバンバン使えるようなの、ないか?」

「小さい子が使うの前提なら、やはり投射武器になると思うね!

 体格的に小さい人は、近接戦ではどうしても不利になるし!」

「ただ……弓の成績もみてみたんだけど、彼女らの体格や筋力にあわせた得物にすると、どうしても射程距離や貫通力が問題になってくるんだよなあ……。

 ボウガン、って手もあるけど……」

「あれは、貫通力はすごいけど、再装填に時間がかかるから、実戦慣れしていない初心者にはおすすめできないね!

 機械や発条仕掛けで弓を引くものもあるけど、あれは力がいらない分機構も複雑になり、もの自体も高額で、メンテナンスが面倒で故障に弱いんだね!

 なにより、迷宮内で長期間に渡って運用するのには向かないと思うね!」

「……だよなあ。

 弓の威力は現状のままと割り切って、矢の方を工夫してみるか……。

 普通の矢と比べてみるとかなり値段が張るけど、以前、薬師のじいさんのとことで見せてもらった、先に発破がついているのとか毒矢とかをうまく使えば、なんとかなる……かなぁ……」

「弾を工夫して、そのコストを覚悟するのが前提なら、別に弓矢にこだわることはないと思うよ!」

「え?

 コニス、お前も、今、投射武器がいい、って……」

「弓矢だけが投射武器ってわけではないんだね!

 消耗品の弾は別にして、初期費用がバカ安。

 非力な女子どもでも、扱いに慣れれば十分なな戦果があげられる、由緒正しい、おそらく人類最古の投射武器っていうのがあるんだね!」

「……そんなに都合がいい武器、あるもんなのか?」

「シナクくんも、試してみるといいよ!

 詳しいはなしはそれからだね!」


 翌朝。

 迷宮前広場。

「ええ。

 本日は、武術関係の成績が思わしくない人を中心に、集まってもらっています。

 昨日、知り合いの武器商人にいろいろ聞いてみた結果、筋力に自信がない人には、この武器が向いているのではないか、という結論に達しました。

 ものは試し、これからみんなで使用してみましょう。

 さきほど配った武器は、みなさんに行き渡りましたね?」

「は、はぁ……」

「ですが、シナク教官。

 これ……本当に……。

 武器……なんですか?」

「……長い革紐にしか、見えないんですけど……」

「長い革紐ですが、同時に、武器でもあります。

 この武器を紹介してくれた商人の言葉によれば、人類最古の投射武器、とのことです。

 百聞は一見にしかず、実際におれが使ってみましょう。

 まず、この紐を二つ折りにして、真ん中の部分に、投射する弾を置きます。今回は、初めてということで、当たってもあまり害のない雪玉を使用します。

 次に、この雪玉を乗せたままの紐を、回します。そのまま雪玉が、重りになるわけですね。さほど力をいれなくても、結構な速度で回すことができます。

 で、ほどよく遠心力が発生したところで……よっ! と。

 どうです?

 結構、飛ぶもんでしょ?

 リーチがかなり長くなる上、遠心力で発生した力も上乗せするので、飛距離は弓矢にもそうそう、劣るものではありません。

 これは、投石器、スリングという道具……いや、武器だそうです。

 古代から現在までにかけて、最も多用された投射武器。

 弾頭を工夫すれば、かなりの戦力となるはずです。普通の質量弾はもとより、この前その威力をみた催涙弾、陶器製の弾頭に発破を詰めた炸裂弾、当たると中から神経性の粉末毒が飛び散る麻痺弾など、応用もかなり効きます。

 知り合いの薬師にも相談しましたが、その手の特殊弾頭に関して、大量発注してくれる当てがあるならば、単価はかなり下げてくださるそうです。

 これで、今まで武術関連の成績が思わしくなかった人たちも、かなりの打撃力を持つことが可能となりました。

 あとはこのスリングの扱いに慣れ、命中率と速射性をあげることに専念しましょう。今配ったスリングは、そのまま使用していただいて結構です。材料をみればわかるとおり、さほど高価なものではありませんし、もちろん、きみたちにの手でだって簡単に作れます。

 さあ、あとはしばらく各自でスリングの練習に励んでみて、この武器が実用にかなうものかどうか、判断してみてください」


「……どうです?

 メイドさんたちの目から見て、このスリングってやつは?」

「確かに、体格や膂力にあまり威力を左右されない投射武器……という点では、みるべきものがあるが……」

「しかし、パーティ全員がこれで武装するのは……あまりにも脆いし、危ういな」

「そうですね。

 こいつはあくまで遠距離用と割り切って、近接戦が得意な者と組ませるべきでしょう。

 ここで重要なのは……これで、彼らが単なるお荷物から脱する目が出てきた、ということで……」

「うむ。

 これから組むべき相手が誰であるにせよ、それだけ自分の立場を強く主張できるようになる」

「あれは……弓と比べて、性能としてはどうなのか?」

「どっちもどっち、いや、一短一長ですね。

 速射性と命中率に関していえば、純粋に扱う者の熟練度の問題です。

 ただ、弓は、引くために相応の膂力を必要としますが、その点、このスリングはその障壁が低い。

 強いていうのなら、貫通力に優れた弓矢は対人戦に強く、より大きな質量を扱えるスリングは、対人戦よりも対物戦に優れている、ということになりますか」

「スリングというのか?

 この武器が古くから、広く実戦の場で使われてきた、というのは……事実、なのか?」

「知り合いの武器商人の受け売りになりますが、どうも、事実のようですね。

 合戦が盛んな時期の記録をたどると、どうも、矢や刀剣よりもこれによる負傷者のがよほど多かったようです」

「に、しては……あまり、聞いたおぼえもないのだが……」

「こういってはなんですが……いわゆる、名のある武人が使う武器、ではなかったみたいですね。

 だって、石投げですよ?

 剣の上手とか弓の使い手ならともかく、石投げの名人って、どうしたって、格好が……ねえ。

 後世に、名を残しようがないです。

 まあ、高価な武装をそろえることができない下っ端の雑兵が、敵軍に向かってそこいらのがれきや石っころを布切れや帯を使って盲滅法にぶん投げていたんでしょうよ」

「そして、合戦の場では、名を残す武将よりも名もなき雑兵の方がよっぽど多数派であり、勝敗の行方を左右する存在であった、と……。

 合点はいくが、納得はしなくないな」

「事実なんてのは、たいがい、無味乾燥でおもしろみのないものですよ。

 今、練習している人たちがある程度、あのスリングを扱いになれてきたら、実際の効果や打撃力の判定をお願いします」

「そうだな。

 あれの扱いに熟練した者が増えてきたら、それも前提にしてパーティの編成を考えなければならないわけか……」

「それは、おれたちが考えるよりも、彼らの選択に任せましょうよ。

 どの武器を選んでどんな相手と組むのか、おれたちが考えるよりは、彼らが自分の判断で選ぶべきだと思います。

 なにせ、将来、その結果が降りかかってくるのは、彼ら自身の上……に、なるわけですからね」

「いわれてみれば、もっともだな。

 自分の頭で考え、決断し、その結果も甘受する。

 それが、冒険者の流儀というやつか」

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