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47.しどうようこう。

「で、そのダリルさんが、なにようで?」

「われらはおぬしに示唆され、仲間を引き連れ、一日迷宮に潜ってきたわけだが……あれは、いい場所だな。

 実に、いい。

 全力を出しきっても、誰からも文句がでない」

「……そう思う人の方が、少数派だと思いますけどね」

「で、実地に現場を経験して思ったことは、だ。

 確かにあそこは、単独で挑む場所ではないな。たとえ腕におぼえがあったとしても、一人ではちょいとした油断が隙となり、命を落としかねん。

 パーティを編成して挑む、という方針は、順当であり妥当なものだと感心した。

 おぬしのような、ずっとソロで潜り続けているのは、いってみれば一種の変態行為だ」

「最後の一行は余計だよ!」

「で、パーティ単位で戦力を増強する教育方針に異存はないのだが……それ、例の、おぬしが指揮をとって、うちのところのロディとカスカが大いに恥をかくこととなったあのときの記録を読んでな、この陣形は、十分、実習でも使えそうだな……と、思ってな。

 参加した人数が多かったこともあり、あの日、新人たちは、合計で三十体近くのモンスターを狩ることができた。

 実績を得ることができた、ということも大きいが、なにより、やつらにとり、予想外の実入りになった。未踏地域に出没するモンスターの賞金といえば、かなりの高額になる。参加人数が多い分、一人当たりに支給された金額は、それなりのものになるわけだが……それでも、今の新人たちにしてみれば、かなりな金額だ。あれでより性能のよい装備に買い換えることができた者も、多いと聞く」

「で……結局、なにがいいたいんですか?」

「おぬしが使用した、パーティを数珠繋ぎにする陣形で、実習をおこないたい。

 すでにメンバーが固定し、なおかつ、相応の実力をともなっているものを選抜した上で、だ。

 しばらくやらせてみて大丈夫そうなパーティから、順々に迷宮に送り出す。

 おぬしの、どんどん敵を減らす……もとい、相手をする人数を減らす、という方針にも、かなっておる」

「いいですね。

 しかし、あのときのおれは全体を指揮する必要があったから、一番背後に控えていましたが、実習の際には、先頭パーティと二番目のパーティ、その中間あたりの位置に実戦能力のある教官を何名か配置してください。

 迷宮ではなにが起こるか予測できない面があります。先頭で、新人さんたちが対処できないことに出くわしたら、即座に助けにはいれる体制を整えることが前提なら……その案には賛成します」

「それは、必要な配慮であるな。了解した」

「あと、今、打ち合わせしておきたいことといえば……うん。

 女子への講習を、みなさんにお願いしたい」

「女子のみ、か?」

「ええ。

 これはむしろ、実際に冒険者として働き出してからのことになりますが……。

 既存のパーティに組み込まれるにせよ、これからパーティを組むにせよ、女性というだけで格下にみられ、虐げられる可能性がでてくるわけで……」

「性的なものも含めた、虐待と搾取であるな」

「このうち搾取の方は、性別に関係なくこれから新人さんたちが現実にぶつかる問題だし、その場で対処していかなければならないわけですが……。

 みなさんにしても、同性の子がこれからむざむざ誰かの慰み者になるのを、よしとはしないでしょう?」

「無論だ。

 少しの想像力があれば、予測ができる事態だな。

 心得た。

 有効な護身術を、われらで教え込もう」

「助かります。

 実は、既存のパーティ内でも、仲間内での暴行やいじめ、搾取はさほど珍しいことではありません。パーティ内での問題はそのパーティの中で処理する、という不文律があるため、よほどの大事にならなければ、見て見ぬ振りをされることが大半です。

 残念なことですが、冒険者なんてのは、しょせん、薄汚い連中のが多いのが……現実です。

 そして、パーティ内での力関係が一度決定してしまうと、あとからそれを覆すことは難しい。つまり、最初が肝心ってわけで……」

「では、初見で舐められない方法とかも……」

「ええ、教授していただければ。

 こっちは、男女共通ですね」

「教えるのはかまわぬが……われらが教えるとなると、少々……いや、かなり荒っぽい方法になるぞ?」

「睨みを利かせすぎ、くらいでちょうどいい。

 自分の身を守るためのものですから、しっかり身につけさせてください」

「では、カスカ。

 女子組への護身術指導は、今後、おぬしの担当とする」

「んふふふふふふふふふふ。

 よろしいので?

 わたくしが教えるとなると……少しばかり、やりすぎてしまうかも、しれませぬ」

「だ、そうだが?

 いいのか? シナクどの。

 念のためにいっておくが、カスカは元暗殺者だぞ」

「骨の一本や二本までは可とします。

 命に別状がなく、後遺症を伴わない限りにおいては。

 新人を虐げて自分の思い通りにしようなて半端者は、半月や一月そこいら仕事ができなくなったとしても……そいつは、自業自得というものです」

「んふふふふふふふふふふ。

 ぞんがい、シナクどのは理解がおありになりますのね」

「一種の示威も含んでいる、と、思ってください。

 うちらの門下生に手を出せば痛い目をみる、という評判が早めに広がれば、あとでわれわれも楽ができますし、多少なりとも冒険者の悪習を絶つことになり、長い目で見ればギルドも助かります。

 ところで……今の時点でメンバーが固定しているパーティって、どれくらいいるんです?」

「アイハナ、出番だ」

「はぁいぃ。

 メンバーが固まっているパーティは、こちらが把握しているのだと、四十二組になります」

「意外に多いんだな」

「同郷で、まとまって出てきたりとか、あと、同門とか……とにかく、ここに来る前からの知り合い同士、というのがほとんどですね」

「そのうち、ある程度仕上がっているの……今のはなしにでた、ダリルさんの実習に即座に出しても問題なさそうなのは、どれくらいになります?」

「戦闘能力のみでみれば、二十組前後になりますかね? ただし、戦闘能力だけが突出したパーティも多いので、実習はともかく、単独で迷宮にいれるのにはまだまだ不安があります。

 昨日のロディとカスカが、いい例ですね」

「そっちは、まずは実習で自信を持たせて装備を充実させ……それから個別にみて、足りないスキルを補完するよう、指導をしましょう。

 あとは……純粋に非力で、他のパーティに入れるにせよ、見劣りがする人たち、か……。

 例の、グレシャス姉妹のように」

「どうするつもりだ、シナクどの。

 こちらに関しては、先日おぬしが指摘したように、今日明日のうちに実力をつけてやるわけにはいかぬぞ」

「これについては、少々、考えていることがあります。もう少しお時間をください。

 パーティメンバーが固定していて、パーティ全体の戦闘能力がまだまだ足りない場合の指導要綱などは、もうできていますか?」

「一応、作ってはみたのだけれども……わたしたちにしてみてもパーティ単位での戦闘に熟練しているわけではないので、実際の効果のほどは未知数ですね。

 はたしてこれでいいのかどうか、判断がつかないっていうか……」

「手探り状態は、お互い様です。

 明日、実際にその指導要綱にそった指導をみてから、改良点について意見を出し合いましょう」

「それでは、そちらはアイハナに担当してもらおう。新人ども一人一人の細かいデータを一番よく把握しているのは、アイハナだからな」

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