46.じゅようときょうきゅう。
迷宮前某所。
「……といった具合で、キャヌさん。
いくつかそちら経由で仕事を発注したい。それと、細かい情報をいくつか確認させてもらったり、なんだり……」
「了解っす。
今の流れだと、仕事といってもそんなに大きな規模にはならなさそうだし、ほかの業務を圧迫しすぎない程度あれば喜んで協力しますっす。
だけどシナクさん、こういってはなんだけど、うまく使われているっすね」
「……おれも、だんだんそうなんじゃないかって、思えてきたところだ。
で、まず仕事のことだがな……」
「簡単な掲示板っすね?」
「そうそう。
そちらの、仕事を発注したり受けたりするのに使う掲示板、あれの類似品を作ってもらいたい。
場所は……どこがいいのかな?
できるだけ、新入りさんたちの目に入りやすい場所がいいんだけど……」
「それなら、うちの掲示板のとなりで十分だと思うっす。
たいがいの新入りさんは懐が寂しい状態だから、頻繁にうちの掲示板で細かい仕事をチェックしているっす」
「んじゃあ、それで。
大きさは、そんなに大きなものでなくても……」
「いや、それは思い違いっす。
これ、すぐに誰もが使いたがるはずっすよ」
「ん?」
「うちもよく新人さんたちにお仕事を紹介しているからわかるんすけど、こっちに来たばかりで日が浅い人でも、すぐに知り合いを作って二人組とか三人、四人組くらいの小グループは、速攻で作るんす。
たった一人でくる人っていうのは案外少なく、最初からそんくらいの少人数でこっちに出てくる人が多いってこともありますけど……でも、それ以上の人数となると、とたんに難しくなる」
「おお、さすがに現場で面倒みているだけあって、よく観察しているな。
それで?」
「少人数対少人数、グループ同士の結合となると……とたんに、好き嫌いやえり好みが激しくなり、人づき合いの難しさが出てくるっす。
おそらく、小グループのくっついたり離れたりが激しくなるんじゃないか……と、自分なんかはそう思うっす。
そういうのをくぐり抜けて、メンバーが固定できたパーティから順番に、本格的に稼働できるんじゃないかと……」
「で……今、作ろうとしている掲示板も、最初からキャパに余裕を持たしておいた方がいい、と?」
「そういうことっす。
あと、こういう掲示板ができるとなると、すでに動いているパーティからの勧誘や引き抜きも、活発になるものと思われます。
転移陣網が整備され、医療キットなどが普及したおかげか……大小の負傷者がこのところ、増えているっす」
「どうにかなるって安心感から、油断するのがではじめたかな?
こうなってくると、バックアップが頑張って、補償を厚くするのも善し悪しだ……」
「で、新人さんたちの中から、有望そうな人に声をかけ、早めに確保しようとするパーティーがでてくるんじゃないかと……」
「ん。わかった。
じゃあ、掲示板自体の詳細はそっちの判断に任せるわ」
「了解っす。
バリケード用の資材が流用できますし、こちらの人夫さんたちにしてもその手の作業にはなれたものなので、明日にでも用意できるはずっす」
「優先度はさほど高くないけど、早い方がいいことは確かだな。
こっちとしては、教える人間が増えすぎて、どんどん仕上げて送り出したいんだ。
で、この件は終了ね。
次の案件。
あのさ、キャヌさん。
うちの新人さんたち……できるだけそっちで、うまい具合に誘導して引き抜いてくんない?」
「……は?」
「別に、冒険者だけが、生計を立てる道ってわけではないだろう?
事実、そっちはそっちで、それなりに人手が不足しているわけだし、これからだってもっともっと不足していくはずだ。
稼働する冒険者の数が増えるということは、その後をフォローする人夫の仕事も増えていくってことだよな?」
「そ、そりゃあ……今でも、人夫さんの頭数は、ぜんぜん、足りていない現状があるっすけど……」
「たぶん、こっちに出てくる人たちってのは、冒険者の華々しいイメージに釣られてきた人たちが大半だと思うんだよねー。
それが悪いって、わけじゃあないけど……キャヌさんの目から見てもさ、今の冒険者って連中の大半は、ガラの悪いゴロツキみたいなもんだろ?」
「は……はは……。
そ、れは……」
「絶えず生死すれすれの場所で生活するわけだから、気が荒みやすいのは事実なんだわ。
こういってはなんだけど、あれも冒険者の現実、少なくともその一面ではあるわけで……。
で、おれとしては、未来ある有望な若者たちには、そうした荒廃した進路ではなく、別の、もっと堅気な職に就けるようにしたいかなーって希望もあるわけよ。
そこで、キャヌさんの出番だ。
キャヌさんから見て、性格がよさそうだなーって子から順々に割がいい仕事をどんどん与えて、
『あれっ。
これなら……別に、冒険者でなくても余裕で生活できるんじゃね?』
って、思うよう、しむけてくれないかな?
なに、やることは、仕事の斡旋。
いつもやっているキャヌさんのお仕事でしかないわけだから、誰にはばかることもない。
んで、おれたち教員も、脱落者が大量に出てくると、面倒を見なければならない人数が減るわけだから、大いに助かる」
「さてはシナクさん、最後の一行が重要で、あとの理由はあとづけですね」
「フェリスは、黙ってる」
「……シナクさんのおっしゃりたいことは、理解できたつもりっす。
自分としては、今までのとおり、自分の仕事に邁進して、仕事を求める人にはできるだけ応えようとするだけっす」
「ん。はなしだけでも聞いてくれて、助かる。
で、最後の案件。
おれの教本を写本化するってはなしがあるはずだけど……あれの関連も、こっちで仕事回しているの?」
「そうっす。
でもそっちも、ぜんぜん手が足りていない状態っすね。
まともに長い文章を書けて、手が空いている人っていうのが、かなり限られているっすから……」
「それ、うちの新人さんたちに、優先的にまわしてくれね? いや、何十部とかの単位でまとめて、うちの新人さんたちに丸投げしてくれてもいいや。
初心者用の教本も、まあ、準備する時間がなかったから当然なんだが、ぜんぜん足りていないんだよね。今、十人に一冊も行き渡っていない。おかげで座学は、ほとんど成果をあげていないわけだ。
人数が人数だから、印刷に回すことも考えたんだが……それよりも、教本を丸写しさせた方が、あくびをかみ殺して講義を受けるよりは頭に入るだろ。それで後進に渡せる教材が増えるんなら、一石二鳥だ」
「これについては、諸手をあげて賛成っす。
すぐに手配するっす」
「ん、あんがと。
おれの用件は、とりあえず以上だけど……いきなりやってきて、長いこと時間とって悪かったね。
またなんかあったら来るけど、そのときはよろしく」
「……ということで、ギリスさんへはなしを通して、いくつかの手配をしてきました」
「シナクどのは……」
「どうやら、動きが早いのは、手足のみではないようで……」
「相手をしなければならない新入りさんたちはあれだけの大人数なんだ。やれることはちゃっちゃとやっちゃいましょうよ。
大量の敵に囲まれたときのいい対処法は、わざと狭い場所に身をおいて個別に撃破、相手の数を減らしていくことです。
効率的に、指導する相手を減らしていきましょう」
「それはいいのだが……シナクどの」
「ああ。
ええっと……豪腕の……」
「ダリルだ。
名前ぐらい、まともにおぼえろ」