44.しつぎおうとう。
「ええと……この場にいる人たちは、だいたい、昨日の捜索活動に参加しているのかな?」
「だいたいは。
このうち二十名くらいは、今日からの参加です」
「そうか。
昨日、参加した人はわかると思いますが、おれは直接、戦闘や捜索には関わりませんでした。
ひたすら、あれをしろこれをしろときみたちを使っただけです。ですが、おれぬきで、きみたちだけで、昨日と同じ成果を上げられると思う人はいますか? いたら、ここまで出てきてください。おれの代わりにみなさんの教官をやっていただきます。
この例からわかるとおり、直接、戦闘に加わらなくても、実質的戦力を増大させる方法とか人材というのは、確実に存在します。
ええっと……質問をした女子、これで答えになりましたか?」
「あっ。
はい、ありがとうございました。
非力は非力なりに、自分の売りを作れ、ということですね?」
「いいまとめですね。
ほかに、質問は?
はい、元気がよかった、そこの人」
「シナク教官は、普段、ソロの冒険者として活躍しているそうですけど、自分らにも同じことができますか?」
「はい。
これへの回答は、
迷宮を舐めるな!
ないしは、
十年早い!
に、なります。
無論、きみが最初からパーティを組まずにソロで活動したいのなら、無理に止めやしません。
しかし、おれはともかく安否を気遣わなければならないギルドの人たちやきみの係累が可哀想なので、できればやめておいて欲しいところです。
この講習も、あくまで希望者にのみ、ギルドが行っているわけで、決してすべての冒険者志望に強制しているわけではありません。
なんなら今からでもここを中座して、一人で迷宮にはいってきてください。
ほかに質問は?
はい、きみ」
「パーティについてなんですけど……すでに存在するパーティにいれてもらうのと、自分らだけでパーティを作るの、どちらがいいと思いますか?」
「うん。
これは、いい質問ですね。
すでに活躍している古参や中堅どころのパーティに拾ってもらうか、それとも、全部新規メンバーで立ち上げるか……。
既存パーティに中途からの参加なら、おそらくはじめのうちは荷物持ちどの下働きをさせられた上、ギャラもかなりピンハネされることは必須です。彼らにしては、ろくに役に立つスキルを持たないど新人を抱えておくメリットなどないからです。しかし、その反面、経験が浅い者だけでパーティを組むよりは、安全でロストする危険性が減ります。また、長いこと働いて彼らのやり方を学び、パーティに貢献していることを証明し続ければ、そのうちギャラを上げてくれるかもしれません。
新規の人材だけでパーティを組むメリットは、なんといっても気楽さです。既存パーティの中に入っていくよりは上下関係が緩く、精神的にも楽でしょう。しかし、どうしても能力的には劣りますから、一日の仕事で獲得できるギャラは、必然的に割安になります。全員の経験が等しく浅いので、その点でも危険性は割り増しになります。と、こう並べていくと、デメリット面ばかりのようですが……そのかわり、まっさらなところからはじめるので、古い因習にとらわれることなく、新しい発想や方法を、気軽にいろいろ試しやすいというメリットもあります。それがうまくいくのかどうかは、実際にやってみないとなんともいえませんが……ひとつ、いえることは、既存のパーティの歯車になるよりは、はるかにのびしろがある、ということです。
どちらを選択するかは、みなさんの判断力に任せます。
これで、答えになってますか?
ほかに、質問がある人」
「今のおはなしを聞くと、今、活躍している冒険者の人たちは、ほとんど同じパーティで活動している、と考えていいんでしょうか?」
「ああ、そこを説明していませんでしたね。
そうです。
たいていの冒険者は、だいたい、メンバーが固定されたパーティを組んで活動をしています。
若干、流動的というか、あっちこっちのパーティを渡り歩いているのと、そのときの気分により組む相手を変えている人もいますが、そういうのはあくまで少数派です。
なぜかというと、やはり信頼性の問題が大きいのではないか、と、おれは思っています。なにしろ、生死をともにするわけですから、背中を任せられない相手とは組めません。
メンバーが固定されたパーティというのは、血縁者であったり同郷であったり夫婦や恋人であったりで、ここに来る以前からそれなりに関係があった人たちが組んでいることが多いようです。
これでいいですか?」
「重ねて質問……というか、確認です。
そうすると、既存のパーティに入るということは、すでに完結しているかなり濃厚な人間関係の中に、飛び込む形になると思うのですが……」
「はい。
まったく、その通りです。
そういうのを不得手とする方は、できるだけ今のうちにここにいる人たちと仲良くなって、独自にパーティを編成することをおすすめします。
ほかに、質問はありませんか?」
「また、パーティ関連の質問になりますが……パーティの構成員を流動的にするしくみとか、ギルドの方で用意する予定はありませんか?」
「うーん。
それは……そのような構想は、今の時点では、おれの耳に入ってきていません。
しかし、アイデアとしては……ありだな。
自分以外の全パート募集! みたいなのばかり増えても困るんだろうけど……こんだけ大勢の志望者が集まるようになると……流動性を確保するのは、有効だし必要……か。負傷して、一時的にメンバーが欠ける場合もあるだろうしな。
おれはずっとソロでやってきたんで、こうしてみなさんの質問を受けつけるまで、パーティについてあまり深く考えてきませんでしたが……パーティ構成員の流動性を確保するしくみ、というアイデアは、今後、重要になってくると思います。
うん。
あとで、おれの方からギリスさんに提案しておきましょう。
いいアイデアをありがとう。
はい。ほかに質問は?
あ。最初の女子の人ね。どうぞ」
「はい。
最初の質問と関連するんですけど、女性のみのパーティ編成は可能ですか?」
「ここで可能です、といいきれると格好いいのですが……ここは慎重に、可能性はあります、とだけ、いっておきましょう。
なんといっても、個人の能力差を無視して断言はできませんから。
しかし、そういうということは、きみは、すでにパーティを組む相手を決めている、ということなのかな?
ああ、そう。
ちょっと、この人と組む予定の人、手を挙げてくれるかな?
はい、わかりました。
おれは今日の、つい、今しがた、ギルドの偉い人に、おい、いってきてくれと命令されてなんの準備もなくここに来たので、きみたちのことをなにも知りません。
ですから、今手を挙げた人たちは、あとでメイドさんたちと相談して、個別に指導したいと思います。個々人の資質を見極めた上でのパーティ内での有効なフォーメーションや戦闘方法など、指導できるかと思います。
ほかにも、すでにパーティを組む相手が決まっている人がいたら、早めに教官の誰かに相談してください。教官なんてのは、自分らの生存率を高めるためにどんどん使うためのものです。
相談や希望、質問は、積極的にいってきた方がいいです。お得です。
はい。ほかに質問は?」