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1.やどやにて。

「まずは、ここに座る。

 違う。

 正座」

「うむ」

「あー。

 順序として、まずは、借りを返しておくか。一応、今日、昼間、ギルドで全財産おろす手配をしてきた。いろいろあって全額は無理だったみたいだけど、出せるだけ出してもらって、持って帰ってきたのが、これ。

 おれの命を救ってもらった礼として、持って帰ってくれ。

 おれもまだまだ稼げるし、残りはまた後日、ということで」

「ミスリルのインゴット……か。

 結構な量じゃないか。この田舎町に、よくこれほどの備蓄があったな」

「そうなのか?

 実のところおれも、ここまで報酬を貯めていたとは思わないでもなかったんだけど……いくらなんでも、それはいいすぎだろう。

 多少貯めこんだとしても、冒険者ひとりの報酬なんてたかがしれたもんじゃないのか?」

「このインゴットひとつ分あれば、田舎の方ならちょいとした屋敷が買える。これだけの本数があれば、寂れた小さな村なら丸ごと買えるな」

「そういう考え方をしたことはなかったなあ……。

 迷宮に潜って町に帰ってきて、必要な生活費と装備代だけを引き出して、あとの残りはギルドに預けっぱなししておいただけだから……」

「うむ。

 お前さん、この町に来てからどれほどになる?」

「ええっと……今年の夏のから……だったから、半年くらい前、だったかな? ここに流れ着いたのは。

 新しく出来た迷宮からなんかやたら強い、モンスターが出てくるって噂を聞いてやってきたんだ。そんなら、食いっぱぐれがないだろうと思って……」

「だんだんと、お前さんのことがわかってきた。

 本当のことをいうと、これくらいのミスリルでは超最先端技術を使ったお前さんの治療費にはぜんぜん間に合わないんだが……残りの謝礼については、こちらはいつでもいいし、形があるものよりもむしろ、お前さんに体を使って毎晩分割払いしてもらいたいと思っているくらいなんだが。

 このわたしにわざわざ全裸正座をしてまでして聞かせたい次の話題を聞こう」

「その全裸が問題なんだ。

 なんでそんな格好でいきいなりでてきた?

 宿屋のおばちゃん、あれ、完全に誤解しているだろう?」

「うむ。

 誤解されるのが問題なのだな? ではわたし自ら今から誤解を解いてこよう。全裸で」

「まて。まてまてまて!

 余計にややこしいことになるだろう! 宿屋の共用部分は全裸禁止だ! というか基本的に、プライベートな空間以外で全裸になる人はいません!」

「な、なんと!」

「なんでそこでショックを受けた顔をするかな」

「しばらく塔の外に出ない間に、外の世界はなんとも窮屈な文明が蔓延していたことか……」

「あんたが前に外に出たとき、外がどういう風だったのか一度詳しく聞いてみたい気もするが聞くのが怖い気もする。

 とにかく今じゃあ、普通、全裸になるのは風呂にはいるときと着替えるとき、それから……あー、男女が、とは必ずしも限らないか、とりわけ親密な二人ないしそれ以上の人数が、より親密な関係になるために共同で肉体労働をするときくらいなもんだ。

 つまり、一般的にいって全裸って卑猥でこっぱずかしいもんなのっ!」

「そ、そうなのか?

 それにしてはお前さん、わたしの全裸をみても最近はぜんぜん動じないではないか」

「はじめこそ動揺したけど、すぐに慣れた。

 あれだけ四六時中みせつけられればそりゃ慣れますとも。ええ」

「微妙に失礼な言い方をされている気がするが、流すことにしよう。

 では、公共の場では服を着る、ということでいいのだな?」

「はいそこ、当たり前のことを胸張っていわないように。

 ってか、これからもこっち来てうろうろするのかよ。おれの部屋の中だけではなくて」

「うむ。

 お前さんといういいガイドにも出会えたことだし、しばらく散歩コースに町中を加え始めもいいかな、とか思いはじめている。なにせわたしは好奇心の塊だからな。最初のうちは他人が怖いから、人通りのある場所ではお前さんの背中に隠れているけど」

「今更だけど、いろいろと面倒な人だなあ。

 まあ、助けてもらった手前、多少の案内くらいなら勤めますがね。

 でも、できるだけおとなしくして、問題を起こさないようにしてくださいよ」

「服を着る件ともども、了解した」

「これほど頼りにならねー受け合い方も珍しい」

「と、いうことはだな。うん。

 この部屋でお前さんと寝るのはいいんだな。全裸で」

「本音をいえばそっちもやめてほしいくらいなんですが、こっちももう慣れちまったからなあ。

 妥協して、よしとしましょう」

「妥協が必要なのか。

 なんとなく引っかかるが、その辺をつつくと割と面倒になりそうなのでやはり流すことにしよう。

 では、提案ついでに宿屋のおかみさんの誤解を誤解ではなくするというのはどうであろう? そうすればわたしも堂々とこの部屋に出入りできるし。全裸で」

「だが断る。

 いや、仮にそういう関係になったとしても、やはり全裸で出入りはおかしいです。

 あんたの頭はやはりおかしいと思います」

「直球で失礼なことをいうな。たかだか性行為ごとき、そこまで強固に抵抗することもなかろうに。

 ははーん。

 ああ。そうか。わかった。

 お前さん、いい年齢して経験がないのか」

「そそそそんなことはございませんですのことよ! ええ!」

「おおかたあれだろ。異性を下手に神聖視して愛のないセクロスなんて不潔です(キリッ)! とか本気で思いこんでいるクチだろ?

 あー。あれだな。童貞をこじらせたやつに多い例のアレだ。

 どうりで今までいくらでも機会があったのにわたしに手を出してこないわけだ。うん」

「いや、あの……。

 あんたに手を出さないのはもっと単純に、これ以上あんたと複雑な関係になりたくなかっただけなんだけど……」

「な、なんとぉっ!」

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