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魔法使い見習いの夜

作者: 4E

練習用として書き上げた一作です。

続きはありそうでありません。


「ふぁ~~~あ、お兄ちゃんおやすみぃ」

「…………おう、おやすみ」

 それはいつも通りの就寝前の一幕。

 大きなあくびをしながらおやすみを言う妹に対して、ぶっきらぼうに返事を返す俺。それは、どこにでもありそうなありふれた兄妹のやりとりだった。

 何もおかしなところはない。そう、何も問題は無いはずなんだ。……ただ一つを除いては。

「うぅ~、おふとんふっかふかだよぉ」

 布団に潜り込み幸せそうにつぶやく妹。

 そうかぁ、おふとんふっかふかかぁ、昼間ベランダに干したからなぁ、おひさまをたくさん浴びただろうし、さぞふかふかになってるんだろうなぁ。……それはそうとだな、


 な  ん  で  俺  の  布団  で  寝  る  ん  だ  よ!!!!


 ただ一つの問題。それは、妹が潜り込む先が俺の布団であるということだ。……いや、少し訂正しよう。正しくは俺の布団というよりも、俺と一緒の布団というのが的確だろう。

 つまり、俺と妹は一緒の布団で寝ているのである。そして、それも含めていつも通りの光景なのである。

……いったい、いつからこの習慣が始まったんだっけなぁ。あれは……そう、確かコイツがまだ小学校低学年だった頃か。

 テレビの洋画劇場で放映されたホラー映画。それを観た日の夜中、「怖い夢を見た」と泣きべそをかきながら、枕を抱えて俺の部屋を訪ねてきた妹。

 あれが、全ての始まりだった。あの時、妹を布団に招き入れてしまって以来、何か用事があって家を空ける時以外は、二人一緒の布団で寝るのがすっかり習慣になってしまったのである。

 思えばあれから十年。赤いランドセルがよく似合う可愛らしいちびっ子だった妹も、今ではティーンエイジャー、なんというかすっかりお年頃。かたや、俺のほうはというと、輝かしいティーエイジャーの時代は既に彼方へと過ぎ去り、魔法使いになる日が刻々と迫りつつあるのが現状だ。

 そう、俺は魔法使いになる資格を有しているのである。清い体と心の持ち主なのである。

 そんな魔法使い見習いとも言える俺にとって、年頃の妹と一緒の布団で寝るという行為はとてつもない苦行だ。

 正直、うちの妹は可愛い。とてもとても可愛い。ほんわかとした性格、どこかお人形さんみたいなルックス、そして日々のちょっとした仕草まで、何もかもが愛くるしくてしょうがないのだ。これは兄としてのひいき目では断じてない。もし、うちの妹を見て可愛くないとかぬかす奴がいるとしたら、そいつは間違いなく視神経か脳に障害を負っている。

「すぅ……すぅ……」

 布団のほうに目をやると、もう妹は寝息を立てていた。あいかわらず寝付きの良さは人一倍だ。

「はぁ……、俺も寝るか」

 色々と思うところはあるが、今さら別々の布団で寝ようと改めて切り出すのも、何だか妹を女として意識しはじめたみたいで少し気まずい。

(えぇ~、兄妹なんだから一緒の布団で寝たってなんの問題もないよぉ。それともぉ、お兄ちゃんはこのままだと何か問題を起こしちゃいそうだからそういうことをいうのかなぁ? お兄ちゃんってば、えっちぃ~ケダモノ~)

……コイツ、絶対にそういうことを言い出すよな。それも、いたずらっぽい笑みを浮かべながら顔を俺の鼻先まで近づけて。

 言っておくが、俺はえっちではあるかもしれないけどケダモノではない。いくら魔法使い見習いで日々悶々としているからといって妹に手を出したりはしないのだ。

「俺はケダモノじゃない……俺はケダモノじゃない……」

 そんな呪文をぶつぶつと繰り返し唱えながら俺は布団に潜り込んだ。

「ぐ、ぐわぁ……」

 妹の隣へ体を潜り込ませた瞬間、強いアロマの香りが鼻腔をくすぐった。妹の髪から漂うシャンプーの香り。これがまたたまらなくイイ匂いで、いつもこれを嗅ぐたびに頭の奥がクラクラしてしまう。そんな、理性にとっての難敵とも言える相手との遭遇に思わずうめき声が漏れた。

 お、落ち着け、落ち着くんだ俺。たかがシャンプーの香りじゃないか。こんなものはただの洗髪料に配合された化学薬品の匂いに過ぎない。そうだ、きっとこれを作ったのは研究者のおっさんだ。何日も風呂に入らず、無精ひげを生やしながら研究室に籠もって開発に没頭したに違いない。それを思い浮かべろ、妹のことは考えるな。

「おっさん……無精ひげのおっさん……」

 念仏のように唱えながら研究者のおっさんに思いを馳せる。

 こんなにイイ香りのするシャンプーを開発したにもかかわらず年頃の娘からクサイとか言われるおっさん。

 帰りの電車の車内で乗り合わせたOLたちの話題が自分が開発したシャンプーであることに感慨深げな笑みを浮かべていたら、変質者扱いされて駅員を呼ばれるおっさん。

 自分の開発したシャンプーの売れ行きが気になって化粧品店を覗き込むも、店員から訝しがられるおっさん。

……なあ、おっさん。あんた、そんな扱いされて悔しくないのか?

(いえ、自分はただの研究者ですから)

 いや、しかし、これだけ素晴らしいシャンプーを作ったあんたに対して世の女性はちょっと冷たすぎやしないかい。

(自分は賞賛なんかいりません。ただ、あのシャンプーの良さをわかってくれるお客さんがいればそれで満足なんです)

 おっさん……あんた、開発者の鑑だよ。

(身に余るお言葉、恐縮です)

…………おい、ところで俺はいったい誰と話してるんだ?

 ハッ、と我に返った俺は、心の中のおっさんに別れを告げ現実へ帰還した。

 ふぅ、危うく、よくわからない向こう側の世界へ旅立つところだった……。とはいえ、これでなんとかピンク色の衝動と理性との葛藤に勝利することが出来た。もし、あそこで衝動のおもむくままに行動していたら、妹の髪に直に鼻を近付けてシャンプーの香りをクンカクンカするという変態行為におよんでいたかもしれない。

 まずいな、今夜はなんだかいつもより気持ちが落ち着かない。そう思った俺は、せめてもの対抗策として妹に背を向けて寝ることにした。

「ふみゅぅ~~お兄ちゃん……」

 妹の寝言が耳に入る。コイツ、もしかして俺の夢を見てるのか?

 夢にまで登場するぐらい自分は妹から慕われている。そんなことを考えた途端、嬉しさが胸にこみ上げてきた。だけど、同時にその嬉しさの中にほんのちょっとだけ寂しさが混じっていることにも気づく。その寂しさの正体がなんなのか、本当は気づいているにもかかわらず、俺はそいつから目を背けた。

……だってさ、兄妹なんだぜ。

 そうだ、自分はコイツの兄貴なのだ。だから、誰よりも一番に妹の幸せを願わなければならない。傷つけてはならない。信頼に背くような真似は絶対にしてはならないのだ。

 ふと、なぜだか無性に妹の顔が見たくなった。俺は、理性を保つための対抗策もどこへやら、もぞもぞと布団の中で体の向きをいれかえた。

「くぅ……くぅ……」

 幸せそうな寝顔が目の前に現れる。正面から向き合う俺の顔との距離は、僅か一〇センチ。これが、狭い布団の中で取り得る、相手との精一杯の距離だ。

 妹の吐息がかすかに顔にふれる。なんだか妙にドキドキした。

「ったく……おまえって本当にガードが甘いよな」

 眠っている妹に向かってひとりぼやく。コイツはわかっていないのだ。今、自分と一緒の布団で寝ている男が魔法使い見習いであることを。

 魔法使い見習いの頭の中なんてのはエロい妄想で溢れかえってのいるものと相場がきまっている。なかには来たるべき魔法使いになる日に向けて、すでに悟りを開いている者もいると聞くが、俺は未だその境地に達してはいない。事実、視線がさっきから妹の柔らかそうな唇に吸い寄せられてしまっている。

……やっぱり、体の向きを変えるんじゃなかった。俺は少しだけ自分の行動を悔いた。

「むにゃむにゃ……お兄ちゃん……さぁ、めしあがれ……」

 何が召し上がれ、だ、バカめ。おまえは目玉焼き一つ焼けないどころか、玉子すら上手く割れんだろうが。いつも玉子かけご飯やスキヤキのたびに玉子を割ってあげてるのは誰だと思ってやがる。まぁ、可愛いからいいけど。

「おまえなぁ……そう無防備だと、兄ちゃんおまえのことを召し上がっちまうぞ」

 心の内側から沸き上がりつつあるえっちい欲望をはぐらかすためにも努めて冗談っぽく呟いた。

「う~~ん……むにゃむにゃ…………いいよぉ、めしあがれ」

 いやいやいや、よくねえ、よくねぇってばよ!

 思いがけない肯定の返事に頭がパニクる。いや、待て、落ち着け俺。今のは寝言だ、寝言にマジになってどうする。

「すぅーーはーー、すぅーーはーー」

 乱れた心を落ち着けるために大きな深呼吸を二つ………………ぐはっ! しまった、そんなことをしたらシャンプーの芳しい香りががが。

 取り返しのつかない完全な判断ミス。鼻腔を通過して脳にまで確実に達したであろうシャンプーの香りが俺の理性を激しく揺さぶり、リビドーを刺激。瞬間、妄想がはじけた。

(お兄ちゃん……その……やさしくめしあがってね)

 そう言って、真っ白なクロスが掛けられたテーブルの上に横たわる妹の姿を幻視する。もちろん裸だ。いや、シャツ一枚で前をはだけた格好というのも捨てがたい。でかいリボンを体に巻いた姿はどうか? いや、違うな、リボンは料理というよりプレゼントか。それよりは生クリ-ムで体をデコレーションしたほうが扇情的だ。

「な、生クリーム…………ゴクリ……」

 思わず唾を飲む。

(やぁん、だめぇ、お兄ちゃんくすぐったいよぉ)

 し、仕方ないだろ。そうしないと上手く生クリームを舐め……って、俺は何を考えてやがるんだっ!

「じゃ、邪念よ去れ! シャイニング・ブライトン!!!」

 なぜか、とっさに思いだした若かりし頃に考案した光属性の全体魔法の名を叫んでしまった。ちなみにこの魔法を発動するにあたっては『まつろわぬ者たちよ、光の彼方に去ね』という前おきみたいな呪文を詠唱しなくてはならない設定なのだが、あの頃よりも魔法使いに近づきつつある今の俺ならたぶん問題はない。

「ぜぇ……ぜぇ……邪念は去ったか」

 荒く息を吐き出しながらも、ホッ、と胸をなで下ろす。

……本当に危なかった。危うくピンク色の波動に飲み込まれるところだった。

 ふと、妹のほうを見ると、さっきまでとまったく変らない様子で寝息を立てていた。

「こいつめ……俺の気も知らずに幸せそうな顔をしやがって」

 何となく腹いせのつもりで、妹の頭からぴょんと生えたひときわ目立つアホ毛を軽く引っ張った。

「あっ! あんっ、あぅぅ……やぁ、だめぇ、そこは強くされると痛いから優しくしてぇ……」

 バッ、バカ、な、なんて声だしやがるんだよコイツ。

 妹の口から漏れた艶っぽい声に思わずドギマギする。いかん、このままでは追い払ったはずの邪念が再び俺の中に芽生えてしまう。

「去ね! 去ね!」

 布団の中でひとりじたばたと邪念と格闘する俺。

「うぅ~~ん」

 その時、ふいに妹が小さく寝返りをうった。

「え?」

 その光景に、俺は目を疑った。一瞬、理解が追いつかず思考が停止する。

 え? え? え? ええええええええええええええええええええええっ!!!!!!!!!!

 お、おおおお前、なんでパジャマのボタン全部開いてるんだよ! 女の子がおなかを冷やしちゃ駄目じゃないか! いや、そういう問題じゃねぇ! 見えてる! 見えてるんだってヴァ!

 寝返りをうった拍子にボタンが外れたのだろうか、前の部分がはだけたブルーのパジャマ。その奥から、二つの大きなふくらみが姿を覗かせていた。

 突如として目の前に現れた豊満なソレをまじまじと見つめるわけにもいかず、俺は慌てて妹に背を向ける。

 言わせてもらうと、うちの妹は幼い顔立ちに似合わずなかなかグラマラスだ。正確な大きさまではわからないが、俺のおっぱいスカウターによるとバスト九三は堅い。

……やべぇ、なんか本格的に頭がクラクラしてきた。

 なぜだか知らないが、今日は俺の理性を試すようなイベントがやけに多い。どうにもこの状況は泥沼だ。グダグダ考えるのは止めて、もう、このまま寝てしまうべきなのではないか。そう結論づけたいところではあるが、どう考えてもこの状況でぐっすり眠れそうにはない。それに妹が朝起きた時に、自分のパジャマの胸元がはだけていることに気づいたら間違いなく面倒なことになりそうだ。

「ええい、とりあえず事態の収束をせねばなるまいか……」

 何か重大な案件に向き合う指揮官を思わせる深刻な声色で呟いた俺は、意を決して体の向きを妹のほうへ戻した。

 目的はパジャマのボタンを閉めること。それ以外の思惑は一切ない。

……おなかをこわしたり風邪をひいたりしたらかわいそうだしな。

 そうだ、これは兄としての親切心ゆえの行動なのだ。途中、パジャマからこぼれた豊満な乳房を視界に収めることもあるだろうが、それもまた成り行き上仕方のないことなのだ。

 よし、自分自身への言い訳は完了した。さぁ、ミッションスタートだ。




 俺は、妹のパジャマへと手を延ばし、四つあるボタンを下から順に慎重な手つきで閉じてゆく。

 一つ……二つ……。ふと、へそ周りのおなかが目に入った。

「…………えいっ」

 プニプニと柔らかそうなその部分を興味本位でつついてみた。

「ひゃん!」

「!!」

 妹が上げたくすぐったそうな声に、心臓が止まりそうになる。

 あ、あぶねぇぇ! 何迂闊なことしてんだ俺はッ! ボタンに手をかけているとこで目を覚まされたら一発アウトだぞ!

 寝ている妹のパジャマのボタンへ手を延ばす兄。構図だけ見れば、どう考えても変態行動である。

……気をつけるんだ俺。お前は今、時限爆弾の解体にも等しいスリリングな作業に従事してるんだぞ。

 自分を戒め作業に戻る。

 さて、問題はここからだ。四つあるボタンのうち、下の二つはすでに閉じた。それと、一番上の首元のボタンは閉めずとも問題はないだろう。やはり、一番の難関は下から三つ目のボタンか。

 俺は、そのボタンが位置する胸元へちらりと視線をおくる。

…………ダメだッ!

 本当は見たい気持ちがないわけじゃないけど兄として見てはいけないものが目に入り、慌てて視線をそらす。

 しかし、ボタンを閉めるためにはどうしてもその部分を視界に入れなくてはならない。

 ク、クソッ! なんて困難なミッションなんだ。

 俺は心の中でぼやいた。思い切って、妹のオパイをガン見しながら作業に当たればいいのかもしれないが、そんなことをしたら今度こそ理性の鎖が切れてしまいそうだ。そうなってしまっては元も子もない。

……そもそも、理性の鎖が切れたらどうなるんだろ?

 激しく揉みしだくのだろうか。あるいは吸い付くのか。それか、顔を埋めてムニュムニュしたりするのかもしれない。何にしろ兄としてはあるまじきあさましい姿をさらすことは確実だ。もしかして、もしかしたらオパイだけでは飽きたらずその先も…………。

――――バカな!

 頭に浮かんだイメージを必死に打ち消す。

 俺が、コイツを、襲う? いや、それだけはあり得ない。そもそも俺はそういう鬼畜で強引なのは大嫌いだ。力ずくで関係を迫るなんて男のすることではない。まぁ、力ずくで関係を迫られるのならの話は別だが…………って、何を考えてるんだ!

 危うく、ピンク色の思考の泥沼へ沈んでゆくところだったのを、必死の思いで抜け出す。

 ダメだ、急がないと俺の理性が保たない。気がつけば、布団に入ってから既に一時間半が経とうとしていた。

「ええい、ままよ!」

 このままではらちがあかないと思い、行動に出る。たかがボタンを閉めるだけ、どなたでもできる簡単な作業だ。

 手が震える。――気にするな、武者震いだ。

 大きな膨らみ、そしてその先端にある薄桃色の突起に目を奪われそうになる。――そっちを見るな、塩の柱になるぞ。

 意図的に思考止めろ。今の俺はマシーンだ。ただ、パジャマのボタンを閉めるだけのマシーンだ。マシーンに心はない。マシーンにはリビドーもエロスも存在しない。

 ただただ機械的にボタンを閉める作業に没頭する。

――そして、マシーンは、その任務を達成した。

「ニンムカンリョウシマシタ」

 マシーンと化した俺は俺は機械的に告げる。しかし、ちょうどボタンを閉め終えたその刹那、妹が僅かに身じろぎをした。

――――――――――――――――――――ムニュリ。

 手に伝わる柔らかな感触。そして、どこかしっとりとした人肌の温もり。

……………………………………………………うわぁ、やぁらかぁい、マシュマロみたいだぁ。

 感情の存在しないマシーンに、エロスの心が芽生えた。

 状況を認識…………どうやら現在俺は、妹の乳房に触れているらしい。詳細に言うならば、世間一般的な触れるという概念から二ランク程度上の『握る』に近い圧力が掌に加わっている。

「あ……あ……あ……」

 どうしていいかわからず呆けることしか出来ない。思考回路はショート寸前だ。しかし、このままではいけないと思い行動を模索する。

……そうだなぁ、とりあえずはこのムニュムニュをもう少し堪能させてもらうか。

 そう思い、俺は掌に力を――――――――――

「ぬがぁっ!!!」

 邪念を払う、かけ声を一つ。俺は、すんでのところで正気に還った。

 な、なんてこった。今、俺はきわめてナチュラルにスケベな行動を取ろうとしていた。あれが理性から解き放たれた俺の姿だとでも言うのかっ!

 自分自身のやらしさに戦慄を覚える。

「はっ!!」

 ふと、自分がまだ妹のオパイに触れていることに気づき、慌てて手を離す。

「お、俺はなんてことを……」

 情けないが認めないわけにはいかない。どうやら俺の心は、ピンク色のフォースに染まってしまったらしい。今この瞬間、一見正気を保っているようにみえて、頭の中では次々とあふれ出るスケベな妄想の奔流が理性という名の堤防を完全に押し流そうとしている。

 きっと、俺のような人間は魔法使いになったとしても黒魔法しか使えないに違いない。白魔法を使おうにも心が汚れきってしまった。

 だが、汚れちまった俺にだって矜持はある。たとえ、エロスの塊になろうとも兄としての意地を捨てるわけにはいかないのだ。

 しかし、実際問題、俺のリビドーの高まりは有頂天でとどまることをしらない。これを自制心だけで制御しようというのは 、ことここにいたっては無理無謀な話だ。

……考えろ、考えろ、考えろ。最善を模索するんだ俺よ。

 理性と欲望の狭間で思考を巡らせる。

……よし、これだ!

 そして、結論は出た。要は発想の逆転である。沸き上がる欲望を過度に抑えつけるからこそ、反動で理性を振り切った変態行動に走りそうになるのだ。ならば、その抑制を適度に調節してガス抜きしてやれば、ぎりぎりのところで欲望を抑え込むことが可能に違いない。

 つまりそれは、妹に対して、一線を超えない範囲で適度に淫らな行為をするということを意味していた。

……すまない、妹よ。悲しいけど兄ちゃんは救いがたいエロだ。だけど、それもこれもお前が可愛すぎるからなんだ。そのことについては誇ってもいいと思う。それと、いまさらだけど、明日からもう兄ちゃんと一緒に寝るのはよしなさい。お前の兄ちゃんは妹に欲情する変態です。たぶん、このままだと兄ちゃんはいずれ大変なことをしでかします。そうなったら取り返しがつきません。実をいうと、本心ではそういうのにさほど抵抗感を抱いていないあたり、兄ちゃんは本当に救いがありません。でも、いまならまだ間に合います。兄ちゃんは立派な黒魔道士になりますからお前はお前で幸せになりなさい。そういうわけで、今からちょっとだけエロいことをさせてもらうよ。これは最悪を避けるために考えた最善の策なんだ。なあに、本当のエロいことに比べたら蚊に刺されるみたいなもんさ。だからもう少しだけ寝ていてくださいお願いします。お願いします。

 妹に対して心中で事前に詫びた俺は、自己弁護完了とばかりに、行動にでる決意を固めた。

 さて、適度にエロいことをするとはいっても何をしたらいいものか。もう一度胸でも揉むか?

 掌に触れたあの柔らかな感触を思い出す。アクシデントではあったがあれはよかった。マシュマロ、あるいはつきたての餅を思わせる柔らかさと弾力感、そして触れた者に安心感を覚えさせる人肌の温もりが生み出す癒しのハーモニー。世の中におっぱいフェチが存在する理由をはじめて理解できた気がする。

 さっきはパジャマ越しだったが今度は直に触らせてもらうか……って、いやいやいや、さすがにそれはまずいって!

 どう考えてもそれは適度の域を超えている。そもそも妹が目を覚ましてしまっては元も子もない。

 とりあえず胸は却下……と、なると……キス……か。

 妹の唇に目がゆく。薄紅色のそれは、僅かにしめっているように見えた。

………………ゴクリ。

 思わず唾を飲む。実は俺にはキスの経験もなかった。ついでに言うなら女と付き合ったこともない。つまりは、純粋培養の魔法使い見習いというわけだ。

「とはいえ、さすがに唇はまずいよな……」

 理性を失いかけてはいるが、それぐらいの分別はまだ有している。ならばいったいどの辺が適当だろうか。俺は、妹の顔を正面からまじまじと見つめた。

 ほっぺた……は、ちょっと物足りないか。じゃあ、首筋……は、跡が残ったらまずいしなぁ。

 よし! 俺は決めた。

「おでこにしよう」

 たぶん位置としては妥当だろう。それで俺の欲望もひとまず静まってくれるものと信じたい。

 目標を定めた俺は、一度目を閉じると軽く深呼吸をする。部屋を支配する静寂のなか、耳に届くのは、カチカチという壁時計の音と、妹の寝息。

「それじゃ……いただきます」

 誰にともなくそう告げると、俺は妹の額へ顔を寄せた。

 ドクン……ドクン……。

 自分の心臓が激しく鼓動しているのがわかる。

 これは成り行きではなく、俺が初めて自分の意志で起こす妹へのアクション。行為の内容に関わらず、妹に手を出したという事実は俺を苛み続けるだろう。……たぶん。

 実のところ、本当に罪悪感を覚えるのか自分でも疑わしかったりする。

……俺、何気に妹モノのエロゲとか好きだしなぁ。やっぱ、心根がやらしいのかなぁ。

 そんなことをグダグダ考えているうちに、唇が触れる寸前の位置まで顔を近づけていた。ここまで来たら、もはや後には引けない。

「……えいっ!」

 小さなかけ声と共に、顔を前へ突き出す。そして、俺の唇は、妹の額へと触れた。

…………………………うわぁ、俺、今、妹とキスしてるよ……。

 ついに、一歩を踏み出してしまった。これがマンガか何かだったら、CHU!! とかいう効果音が表示されたことだろう。唇から伝わる妹の体温。口の中に広がる甘酸っぱいようなしょっぱいような女の子独特の汗の味。それは、たまらなく甘美で、ついつい口付けしている時間が長くなってしまう。

 一秒……二秒……三秒……。だんだん頭の奥がジンジンと痺れてくる。きっと、妹の汗に混じったフェロモンが頭の中まで浸透してきたんだろう。なんだかとっても温かで幸せな気分だった。キスというのがこんなにも素敵な行為だというのをこのとき俺は初めて知った。

……すごいな。おでこに唇を触れているだけなのにこんなにも胸がドキドキしている。これが、唇と唇だったらどれだけすごいんだろう。さらにその先の行為だったらいったいどんなことに……。

 押さえつけたはずの、とりとめのない妄想が再びあふれ出しそうになる。目の前の少女がとても愛おしい。

「………………ぷはぁ」

 なんのかんので十秒近くは口づけしていただろうか、俺は名残惜しげに唇を離した。

「ごちそうさまでした」

 とりあえず感謝の言葉を述べる。性欲は満たされはしなかったが、それ以外の気持ちの部分はこれ以上ないほど満たされていた。

「おそまつさまでした」

 妹もまた言葉を返す。その響きはどこか嬉しげだった。


………………………………………………………………………………………………え?


「どうしたの、お兄ちゃん?」

 石像のように、はたまた出来の悪いOSのようにフリーズして固まる俺を、不思議そうに見つめる妹。その目は、しっかりと開いている。

「………………」

「……えへへ、なんか恥ずかしいね。お兄ちゃんにキスされちゃった」

…………………………………………き、緊急回避ぃぃぃぃぃ!!!!!

 突然の緊急事態に、俺は頭をフル回転させ窮地を脱するための方法を必死に模索する。

――よし、こうなったらこれでいくしかない。

 刹那の逡巡の後、俺がとった行動、それは、

「ぐぅーぐぅー、ぐぅーぐぅー」

 狸寝入りだった。

 いや、ちがうな、そもそも俺ははじめから起きてなどいなかった。これはきっと夢だ。そういうことにすれば何も問題はないはずだ。そうだ、それがいい、そうしよう。

「むぅ~、いまさら寝たふりなんて男らしくないぞぉ」

 ち、ちがうよ、寝たふりなんかじゃないよ。これは本当に寝てるんだよっ。

「妹にキスしたくせにぃ~、いただきますとか言いながら、キ ス し た く せ にぃ~~」

 う、うぅぅ……、そ、それはアレだ、寝返りをうった拍子に唇が触れただけなんだ。ほ、ほら、狭い布団で一緒に寝てるんだからそういうことだってありえるだろ。

「それにぃ、わたしのおっぱいをさわってたことだって全部知ってるんだぞぉ」

 ええぇぇっ! その時から起きていらっしゃったんですか!

「なんだかおなかがスースーするなぁ、って思ったら、お兄ちゃんがわたしのパジャマにいたずらしてるんだもん。びっくりしちゃった」

 ち、違っ、それはお前がだらしないせいでボタンが外れてたのを直してあげようとしただけで別に下心は……。

「わたしのおなかをさわったりぃ、おっぱいをムニュムニュ揉んだりぃ、ほんと好き放題だったよねぇ。エロいお兄ちゃん」

 確かにお腹を触ったのは事実だ。俺がエロであることも百歩譲って認めよう。だがな、胸を触ってしまったのはお前が体を動かしたからだろうがッ! いや、触るだけでなくちょっとだけ揉んだりしたかもしれないが、それは俺が心神喪失状態でしたことであって、自分の意志でしたことじゃないんだ。本当だよっ。

「お~き~ろ~、目を開けるんだエロエロお兄ちゃん~。起きてちゃんとごめんなさいしろ~」

 謝罪をせまる妹の声はどこか楽しそうだ。

「ぐがぁ~ぐがぁ~」

 それに対して狸寝入りを続ける俺。謝りたいのはやまやまだが、謝ったら最後、妹の胸を揉んだりキスをしたりしたことが既成事実として成立してしまう。それだけはなんとしても避けたかった。

「起きないなら、こうだっ。……えいっ!」

「げふっ!」

 妹が俺の上に飛び乗ってくる。いわゆる馬乗りの体勢、俗に言うマウントポジション。

「んっふっふっ、これで身動きはとれまい」

 妹が俺の上で勝ち誇る。下になった者が圧倒的に不利なこの体勢は、ブラジリアン柔術が生み出した格闘技における究極のシステムの一つだ。今でこそいくつかの対処法が編み出されはしたものの、柔術が世に姿を現したばかりのころは、数多の猛者がこのシステムに対応できずに散っていった。

――まずい、このポジションを取られてしまっては、煮るのも焼くのも上になった人間の自由だ。コイツ……、いったいどうするつもりだ?

「あのねぇ、お兄ちゃん」

 妹が、どこか改まった感じの口調で言った。

「わたしは別に怒ってるわけじゃないんだよ。ただね、ああいうことがしたいんなら、ちゃんと面と向かって口に出して言ってほしいの。そうしたら~、好きなこと、なぁんでもさせて、あ げ る」

 なん……だと……!? ならばッ! ならばならばならばッ!

『ぜひ、その柔らかい胸をもう二度、三度ッ!』

 そう口走りかけて、危うく踏みとどまる。

 いかん! 落ち着け俺よ! これは罠だ、悪魔の誘いだ!!

「ぐっ……ぐうぐう……ぐうぐう」

 再び狸寝入り。俺はひとまず誘惑に勝った。だが、無理に自分をおさえつけたせいか脂汗がひどい。表情もひどく歪んでいることだろう。それを悟られていなければいいが……。

「むぅ~、そんなに汗かいてまで我慢するなんて素直じゃないなぁ。わたしにいたずらしたいなら面と向かってそう言えばいいのにぃ」

 だ、誰が面と向かって言えるかそんなことっ! 俺は仮にも兄貴だぞ。

「仕方ないなぁ。それじゃあ、素直になれないお兄ちゃんのためにわたしがひと肌脱いであげるね。」

 そう言うと妹は、俺の上でなにやらもぞもぞと動き始めた。

「んっ……よいしょっとっ」

 衣擦れの音が耳に届く。

 こ、コイツ……いったい何をしてるんだ。まさかパジャマを脱いで……いや、まさかな。

「ふう……、さて、お兄ちゃんに問題です。わたしは今、いったいどんな格好をしているでしょうかぁ?」

 ど、どんな格好か、だと!? そんなの目を開けなければ確かめようがないじゃないか。くそう、なんてこった。

「うふふ、知りたかったら目を開けてもいいんだよぉ~」

 ぐっ……、し、知りたい。しかし、ここで目を開けるわけには……。そうだ! 薄目を開けて見ればいいのかッ!

 そう思い実行に移そうとした瞬間、手で目のあたりを塞がれた。

「おっと、薄目で見ようなんてズルはダメだよぉ」

 ぐぬぬ、無駄にするどい奴め。

「見たいなら、ちゃんと『手をどけてください』って言わないと、だ~めぇ」

 ギギギ、くやしいのう、くやしいのう。さて、どうするよ俺。素直にお願いするか? いや、なにバカなことを考えてやがる。ここで折れたら理性のタガが外れて一線を越える可能性大だぞ。堪えろ、堪えるんだ! 大丈夫、俺ならやれる。

 俺は、必死に自分に対して言い聞かせた。ここで、妹にしでかしたことを全部認めて流れに身を任せれば全て終わるのかもしれない。だが、そうすれば、俺たちが今まで続けてきた兄妹としての正しいあり方さえも終わってしまうような気がしてならなかった。

……それだけは避けないとな。

 兄妹として、家族として過ごしてきたこれまでの温かな日々が頭をよぎる。すっかり消えてしまったような気がしていた自制心という名の火が、今、再び灯り始めた。

「それじゃあ、わたしが今どんな格好をしているか、お兄ちゃんにヒントね」

……楽しそうなところすまないな妹よ。悪いが、兄ちゃんはもう大丈夫だ。一時とはいえ、お前に変な気を起こしかけたことは謝るよ。俺はやっぱりお前の兄ちゃんなんだ。それ以上でもそれ以下でもないんだ。だからさ、このまま寝たふりを続けさせてもらうよ。それが俺たちにとって一番いいんだ。

「それでは! ヒントいちぃ~」

 楽しげな妹の声が、どこか遠い。どうやら俺は本当に大丈夫になってしまったらしい。

「わたしは今、はだかです」

 えええええええええええええええええ!!!!!! それ、モロに答えじゃん!!!

 再び灯り始めたと思っていた自制心という名の火が、あっいう間に消えてゆく。俺はやっぱり大丈夫とはほど遠かった。

『手をどけてください』

 そう口走ってしまいたい気持ちが爆発しそうになる。しかし、それをギリギリのところで、そう、本当に本当にギリギリのところで踏みとどまった。

「う~ん……お兄ちゃんはエロだからすぐ根をあげると思ったのにぃ、意外としぶといなぁ」

 妹はそう言うものの、こちらの理性はもはや風前の灯火である。

「よぉし、これならどぉだぁ!」

 そう言うと妹は、俺の手を掴み持ち上げた。

 な、なんだ!? なにをするつもりなんだ。

「…………えいっ!」

――――――――ムニュッ。

 妹のかけ声とともに、俺の手に伝わる柔らかな何かの手応え。その感触には、覚えがあった。

――こ、これはまさか……ナマチチか!?

 先ほどとは違いパジャマ越しではなく直に触れているせいか、肌のしっとり感がよりダイレクトに掌に伝わる。

「ん……どお? お兄ちゃん」

 ど、どおって……言われても……、いや、その、すごくイイです。というか、なにやってんだ俺はッ!

 慌てて手を引こうとするが、混乱しているせいか、むしろそれを強く握りしめてしまう。

「やぁん! そんなに強く揉んじゃだめぇ!」

 妹の上げた嬌声がさらに混乱に拍車をかける。目を塞がれているため確認することはできないが、俺の手によって強く握られたたわわな乳房は、イイ感じにいやらしく形を変えているに違いない。

 その時、俺の頭の中にエマージェンシーコールが鳴り響いた。

――い、いかん! 俺の魔法ステッキに魔力が通い始めやがった!

 魔法使いに比べて、まだ悟りの足りない魔法使い見習いは、魔法ステッキの制御があまいのが通例である。ましてや、女人の乳房を生で触るなどしては、魔力が暴走を始めるのもやむ無しと言うほかない。

 ややや、やべぇ! 本当にやべぇ!!!

 魔法ステッキの暴走が露見しては一大事だ。俺は必死に魔力の暴走を抑えにかかった。

……ええと、こういうときは教科書の問題やなんかを思い浮かべるといいんだっけか。

 しかし、俺が教科書を開いていた時代はすでに遠く、とてもその内容なんか思いだせそうにない。そんな中、昔国語の授業で習った芥川龍之介の小説の一節だけが頭に思い浮かんだ。

 それは確か、杜子春とかいう題名の作品だったはず。前後のいきさつは忘れてしまったが、主人公の杜子春が仙人になる修行の一環として、何があっても口を聞いてはならないと師匠から言いつけられるのだ。

 今の俺の状況は、その時の杜子春によく似ている。俺もまた、何があっても口や目を開くわけにはいかない。

……でも、杜子春は修行を乗り越えれば仙人になれるかもしれないけど、俺がなれるのは魔法使いなんだよなぁ。とほほ。

 心中でため息をついた瞬間、気が抜けてしまったのだろう。努力の甲斐むなしく、ステッキは暴走の限界に達し、そして、最悪の事態は起こった。

「んん?」

 妹が何かに気づいたような声を上げる。俺の体に、得体のしれない緊張感が走った。

――ま、まさか。気づかれたのか!?

 妹はなにやら馬乗りの体勢から体の向きを入れ替えているようだ。

「………………」

 沈黙が、なんだかすごく気まずい。

……お、おい、どうしたんだよ。

 いったい今、妹の視線の先がどこに向いているのか。それが気になってしょうがなかった。

「お、お兄ちゃんの……変態……」

 妹が口にしたその言葉に、俺は全てを理解した。

………………………………………終わった。

 脱力感が俺を包む。兄としての威厳はもろくも崩れ去ったのだ。

「ほんと、変態だよぉ。わたしをはだかにさせて、おっぱいまで揉んで、そんで、こんなとこをおっきくさせてるなんてさぁ」

……色々とつっこみたいとこもあるけど、もうめんどくさいからいいや。変態な兄ちゃんですまぬ。

「お兄ちゃんのエロエロエロ~、どエロ~~」

 うぅ、面目ないでござる……。

「まぁ、それでもぉ~、意地っ張りで目も開けてくれないお兄ちゃんよりは正直者のこっちのほうが好きかなぁ…………えいっ!」

 うわぁぁぁぁぁ!!! こ、コラコラコラァ!!! 女の子がそんなところ触ったらいかんって!!

「うわぁ~すごいカチカチ~、それになんだかあっついねぇ~」

 だ、だめだってば。お願いだからもうよしてください。魔法ステッキから魔力があふれ出したら本当に洒落にならないんです。

 俺はもはや妹のなすがままだった。だけど、どこか心の奥にそれを不快とは感じていない自分がいるのもまた事実で、そのことを意識するたびに、自分が真性の変態であることを自覚せずにはいられなかった。

「あのねぇ、わたし知ってるんだよ。お兄ちゃんが魔法使いだってこと」

 妹は俺のステッキを手で弄びながら言った。その言葉にはどこかいやらしい響きが含まれていて、なんだか体がぞくぞくする。

……し、失礼な。こちとらまだ魔法使い見習いだい。魔法使いになるまでには数年の猶予があるんだ。

 心の中で虚勢を張るが、どうにも弱気だ。それもそのはずで、さすがにこの歳になれば、いずれ自分が魔法使いになるであろうことが薄々わかってしまう。

 俺が、そんなことを考えているとき、妹は、その言葉を口にした。

「でもねぇ、お兄ちゃんが魔法使いなのは今日でおしまい。わたしとしよ、えっち」

「……………………………………………………いいの?」

「うん、いいよ。ていうか、やっぱり起きてたね、お兄ちゃん」

 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 妹の口から飛び出した爆弾発言に、思わず俺は言葉を返してしまった。

「ばかばかばかぁ!!! 俺のバカぁ!!」

「お兄ちゃんってばおおげさぁ~」

 もんどりうつ俺をニコニコしながら見つめる妹。ふと気づいたが、その姿は、上半身裸だ。

「ちょっ、バカ、お前、服着ろ、服っ!」

「えぇ~~、どうせ今から脱ぐんだからいいじゃん。それともお兄ちゃんは着たままでするのがお望みなのぉ?」

「い、いや、そうじゃなくてだな。か、風邪とかひいたら大変だろ」

「人肌で温めてもらうからいいもん」

「温めてもらうって、誰に?」

「もちろん、お兄ちゃん」

 妹はニコニコ顔で俺を指さす。なんだかクラクラと目まいがした。

「あ、まず最初はキスからがいいなぁ。今度はおでこじゃなくてちゃんと唇にしてね」

 妹は嬉しげにそう言うと、俺に顔を寄せてきた。

「ま、待ってくれ! 心の準備が……」

「だめ、待たない~。ん~~、はやくはやく~~」

 妹は目をつぶり、唇を突き出す。

……さぁ、どうする。ここでキスをしたら間違いなく最後までいってしまうぞ。

 俺は決断を迫られる。その時、ふと、さっき思い浮かんだ杜子春の話のオチが頭によみがえった。

――ああ、そういえば結局、杜子春は声を上げちまって、仙人にはなれなかったんだよなぁ……。



 果たして俺は、魔法使いになるのだろうか、はたまたここで魔法使いの資格を喪失してしまうのか。そのさきはまた、べつのおはなし。



続きを読みたい方はわっふるわっふるとでも書き込んでくだしあ

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