8話:紫電襲撃
「何読んでるんスか」
紫のメッシュを髪に入れた、女学生風ファッションの少女は聞いた。
「『サングラスの素顔』。ことしー、すごい賞にじゅしょーだってー」
ホノカが本を一秒に二ページのペースで読みながら言葉を返した。ここは駅前のベンチ。ホノカはこのベンチが好きだ。特に理由はない。
「面白いッスか」
紫メッシュの少女が聞くと、ホノカは読み終えて本を閉じた。ホノカの見つめる先は、手元の本から遠くの空に変わった。
「なかなかよかったー、よむー?シデンレーザーさんもー」
紫メッシュの少女は驚いた。姿形が世間に公表されてないはずの自らの正体を当てられたからだ。しかし、シデンレーザーは次に、そういうこともあるかと思った。裏では自らの噂が出回っていることを彼女は知っていた。情報はどこから漏れるかはわからない。そんなものを気にしては戦えない。彼女はそう判断した。
「是非読ませてほしいッスね。殺して奪う。それで良いっスか?」
シデンレーザーは銃を構えた。ホノカは白い髪を揺らして立ち上がった。
「だめー」
ホノカは言った。シデンレーザーの発砲と同時にホノカは身をかがめた。彼女は拳銃を地面と水平に構えたまま、無線機を手に持った。
「もしもしスギさん?怪人少女ホワイトルールと交戦中。能力の使用許可求むッス」
シデンレーザーがそう言うと無線機は応答した。
「了解。監視用ボット、戦場中継モードに変更。記録開始。検討を祈る」
スギがそう言うと、シデンレーザーの胸ポケットから小さなカメラ付きドローンが飛び立つ。彼女は通信を切ろうとした。停止ボタンと指の間に挟まるように、スギは言葉を挟んだ。
「これもまた、シルバーライトに伝えないのか」
スギがそう言うとシデンレーザーは三秒ほど考えて、口を開いた。
「いや、こいつとセンパイの接点はあんまないッスから、殺したって何も気にしねぇッスよ」
シデンレーザーはそう言って、スギが何かしようとしているのを無視しながら通信を切った。
「お待たせッス」
シデンレーザーはホノカにそう言った。ホノカはもう目の前には居ない。しかし振り返らない。余裕だ。背後から十三本の触手が先端の注射針でその身を突き刺そうとしている事が肌の感覚で分かっていた。
シデンレーザーは腕を後ろに振るった。その腕は振り切る前に紫の煙になって霧散し空気に溶けるように消えた。次の瞬間ホノカの触手の先端も霧散した。そしてシデンレーザーの腕だけが元に戻った。
ホノカは脅威を理解した。詳細不明の不気味な能力!そしてホノカは奇妙な感覚に気づいた。消えたはずの触手の先端が『ある』という感覚だ。それは広がり風に吹かれ、ないはずの隙間を風が通り抜けていく。ホノカは怪人性の発露を止め、人間の体に引き戻し、触手を服の下に引っ込めて肌に戻した。
ホノカは再度触手を伸ばし、背後方向十四メートル後ろの電柱に巻き付けて引き戻し移動した。接近は危険だと判断したためだ。
離れていくホノカの眉間を狙ってシデンレーザーは銃撃する。ホノカは七つ触手を重ねて防ごうとする。銃弾は触手を五本貫いて六本目で止まった。銃撃で空いた穴にもう一発銃弾が撃ち込まれる銃弾は触手を貫通した。ホノカは首を傾け銃弾をかわした。顔の左端が切れた。
先端を電柱に突き刺す。すると『奇跡的に地盤が弱くなり』電柱が倒れる。これが怪人少女ホワイトルールの能力!触手で突き刺した物の『運命を固定』する!能力名は『傷ノ辿リ』(命名者:空徒夕子)!
「ずるい能力ッスねぇ」
シデンレーザーはぼやいた。電柱はシデンレーザーに当たる直前で縮んだ。
彼女は指先を気化させた。彼女の手元で三つの水滴が生まれそれが他の水滴に向かって伸びて、集まって、氷となる。氷と水滴はいくつも生まれ手のひらで雲を形作る。雲の中の空気が激しく揺れ氷同士がこすれあい静電気が生まれる。静電気は次第に紫の雷光となる。そしてホノカに向かって伸びた。回避不能。ホノカはそう感じた。
ユウコは己が窮地に立たされていることを理解している。体に受けた傷を数えた。非殺傷弾丸による銃痕が七カ所。メリケンサックによる打撃痕が三カ所。サーベルによる斬り傷が五カ所。減るばかりの体力。突き放されるばかりの戦力差。三人でも勝てなかったシルバーライトに一人で勝つ?ユウコはこの戦いの無謀さを受け入れ諦めてしまおうかと考えた。だがまだそれを躊躇した。諦めるなんて馬鹿らしい。リーダーは私じゃないか。ユウコは持てる武器を全て使い切るまで戦うと決意した。
彼女は鞄の中の超合金マントを羽織り、拳銃を取り出す。リボルバーだ。射線を隠すためにマントで銃を隠しながら六発続けて撃つ。銃弾はあえて超合金で作られていないマントの一部部位に穴を開け飛び出す。
「マジカル☆シールド☆リフレクター!」
シルバーライトは拳銃型ステッキを盾に変え銃弾を防いだ。
ユウコはリボルバーを投げ捨て、鞄からメリケンサックを取り出した。体を怪人化させた。赤い肌に鹿のような角が生える。ユウコは殴りかかろうと駆け出す。
シルバーライトも拳を握りマジカル☆メリケンサックを装備した。
「待てテー、張り合うなナー」
ゆるぴょりんがそう言うと、シルバーライトは「好きにさせてってば!」と返した。シルバーライトはユウコの拳をさばき、一撃叩き込む。ユウコはその拳を左手で防いだ。怪人状態なら、人間の時以上に思考が読める。行動の先を読み防ぐことができる。
しかし、当てることができない。反撃は次第に激しくなっていく。先が分かっていても対処が追いつかない。
ついに一撃顔面に貰ってしまった。ふらつくユウコの足下。仰け反る体。シルバーライトは追撃を構えた。天を仰ぐユウコの顔に一撃拳をぶち込むために。
その時ユウコは左手を振り上げた。それに従うように宙を動いたその物体をシルバーライトは後ろに避けた。それは拳銃だ。左手の指と紐で繋いだリボルバーだ!ユウコはそのリボルバーを掴み、構えた。
八連式リボルバーの銃身を隠し、六発撃って投げ捨てることで弾切れと偽装。警戒の解けたタイミングで引き戻して残り二発を利用する。ホノカが『ボクサー作戦』の後編み出した作戦はシルバーライトの虚を突いた。
二発の弾丸をシルバーライトはメリケンサックで弾く。ユウコは銃を投げつける。投げた銃は顎に命中。拳を握る。一歩踏み出す。突き出す。シルバーライトはかろうじて防ぐ。ユウコの赤い角が輝く!
「精・神・介・入!」
ユウコが叫んだ。
回転寿司屋の席にギンガは座っていた。
「またここ?すぐに出れば……」
ギンガは独り言を言った。向かいに座っているスミカをちらりと見て、少し足を止めたが、結局出口へ向かっていった。
出口は最初から開いていた。白く光る向こう側から人影が現れた。空徒夕子だ。
「なんでここに?」
ギンガがそう言いながら、一歩後ずさる。
「ちゃんと説明すれば長くなる……簡潔に言うぞ」
ユウコは前置きした。そして本題を話し始めた。
「ここはお前の精神世界、私の能力は人の意識を外から内に向ける……わかるな」
ギンガは頷いた。ユウコはそれを確認し、カツカツと席に向かって歩きながら言葉を続けた。
「対象と接触している場合に限り、私は対象の精神世界内に入り込める」
ギンガはユウコを追いながらその言葉を聞いた。ギンガは嫌な顔をした。
「プライバシーの侵害だっての。早く出てっててば」
ギンガがそう言うとユウコはスミカのいる向かいの席に座りながら「まあそう言うな」と言った。
「精神内にスミカ、こいつはお前にとって、お前の心の一部だってわけか」
ギンガの顔が一瞬赤くなった。すぐにギンガは歯ぎしりして、ユウコの顔を蹴った。ユウコは蹴られた顔をさすりながら立ち上がった。
「それで?何しに来たっての?」
ギンガはスミカの隣で座った。スミカは静かに寿司を食べている。その顔は少し笑っていた。
「ここなら監視の目もない……お前には勝てないと判断した。だから、この世界で教えてくれ」
ギンガは少し考えた後、スミカの方を見た。スミカがギンガに目を合わせた。ギンガは笑った。
「わかった」
ギンガは了承した。




