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秘密結社JKⅢ  作者: 二刀
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5話 男の意地

「お嬢さん。話をしないか」

 ホノカの隣に座っていた若い眼鏡の男性が言った。黒いコートに身を包み、ネクタイを指に絡め、手遊びをしながら。

 ホノカは白樺(シラカバ)のマスケット銃をカチャカチャといじっている。ホノカはこの男を知らない。この男に話しかけられたことにもさほど興味はない。この男が逃げない理由は明白だ。彼も怪人だからだ。


 ホノカは無視をした。

「興味がない、か」

 男はため息をした。ホノカはマスケット銃を何もないところに向け、構えた。納得がいって少し微笑み腕を下ろした。

 聞いていないことを理解しながら、男は一方的に話し始める。


「君は感情というものが希薄だ。一部の感性の欠落と言うのが正しいか……それが君の怪人性だ。困ったことあるんじゃないかな?」

 ホノカはシルバーライトに銃口を向け、こちらに目を向けるシルバーライトを見て銃を下ろした。

「君は不幸だ。君が人にとって外敵(エイリアン)であるが故に君は悪でしかあれない」

 ホノカは銃をくるくるさせながら、前髪を整えた。

「そんなでもないよー」

 ホノカが男の方は見ずにそう言った。男は服のボタンをつけたり外したりしながら「それでいいのだろう」とだけ言った。

 男はいつの間にか消えていた。



 長身の男は立ち上がった。怪物となった対戦相手から逃げ出すために。皆逃げている。だから、俺も逃げないと!

 そう思って敵に背を向けたのが、彼の失敗だった。怪人の細腕が太さを変えながらしなりハンマー状の拳が彼の背に降り注いだ。

 今まで受けてきたどんな拳よりも重い。背筋に伝わる痛みは、トラックにはねられた感触に似ている。彼は声を出すことすらできなかった。


 怪物の黒塗りの顔面を、歯が剥き出しの唇のない顔を見て、長身の男は動けなくなった。三秒後、逃げ場を探そうとキョロキョロしていると男は何だかムカついてきた。

 会場にまだ残っている人の姿を見たからだ。シルバーライトをその目で見たのだ。彼女は戦っていた。人質を取られて動けずにいたが、繊細に注意を払い、隙をうかがっているのがわかった。それがどれだけ疲れるのかも、また理解していた。

 男は逃げようとした自分に怒った。己がこれからやることを決意した。目の前の怪人を倒し、敵の意識外から人質解放の助力をする。

 二秒前なら不可能だと嘲笑(あざわら)っていた判断が、今はできる気がした。


 怪人は立ち上がった男に驚いた。その男がグローブを外し拳を構えるものだから、気圧され一歩下がってしまった。

 その一歩が判断の過ちだった。長身の男の右ストレートがきれいに決まる距離。そこに怯えと躊躇が誘い込んだ。しかし。

「痛くない」

 怪人は言った。笑いながら?泣きながら?わからなかった。

「痛くないッ!」

 怪人はもう一度叫んだ。三度男をハンマーで殴りつけ、男は地面を転がった。


 怪人は男が立ち上がろうとするのを見た。立ち上がらなければ。俺は殴ったりしないのに。そう怪人は思った。かっこいいな。怪人は、そうも思った。

「おい……お前、彼女いる?」

 怪人は聞いた。長身の男を見下ろしながら。左の目を灰色に淀ませながら。右の目を羨望で潤ませながら。

「昨日フラれたばっかだよ」

 そう言って男は笑った。このやりとりで恐怖が一気に消し飛んだ。


「お前、そんなこと気にしてたのか」

 男がそう言うと、怪人はその瞳を見開いた。

 男は足下に転がってきた二つのボクサーグローブのうち、片方を投げつける。

「俺も気にしてるぜ」

 男が笑うと怪人は笑ったように目を細めた。

「でもこれがあるだろ」

 男は右手にグローブをはめた。怪人は投げつけられたグローブを見つめた。自分はボクシングが好きだと思い出した。自ら生まれ持った、意地の強さに気づいた。肥大化していない左手には、まだボクサーグローブがはまっていた。


 怪人は気づけば人間の姿に戻っていた。グローブを手でつかみ持ち上げると、上に放り投げ、空中で回転するグローブの穴に拳を放った。グローブはその手にはまった。長身の男はそれを見て口笛を吹いた。

 怪人だった男は走った。拳を長身の男の顔面に振るった。彼の顔面にはきれいなカウンターヒットが直撃していた。

「ありがとう」

 男はそう言って倒れた。長身の男は自らのグローブを外すと、手向けるように彼の隣に置いた。そしてすぐ眠るように倒れた。




「なッ……」

 ユウコは驚いた。一般人に怪人がやられるとは思っていなかったからだ。それによってこの先用意していた作戦はほとんど瓦解した。

「よそーがいだねー」

 インカムからホノカの声が言った。

「しかし人質はまだ残っている!」

 ユウコがそう言った瞬間、足下に細い糸が落ちていることに気づいた。


「マジカル☆テグス☆バインダー!」

 シルバーライトのかけ声とともにその糸がユウコを縛りつける。シルバーライトがその糸を引くとユウコはシルバーライトの足下に倒れ込んだ。

 シルバーライトはその糸の一部をステッキ型銃剣に戻す。そして逆にユウコを人質に取った後、人質にされていた女性の方をチラリと見て「逃げてください」と呼びかけた。

「さすがだダー。残りも捕縛しろロー」

 ゆるぴょりんのその言葉に、シルバーライトは「わかってるっての」と答えた。


 女性が逃げ切ったのを確認し、シルバーライトは安心した。その瞬間。弾丸が髪を掠めた。(かわ)すためいきなり身を仰け反らせたので転びそうになった。

 体勢を立て直しながら銃弾の放たれた方向を見るともう一発すでに放たれていた。

「イカレてるッ!」

 その銃弾を躱しながら、シルバーライトは発砲者(ホノカ)をにらみつける。

「撃てテー。見せしめだダー」

 ゆるぴょりんがそう言った。この射撃を止めるために、人質を一回撃って理解させるしかない。シルバーライトは発砲した。しかし、銃弾は届かなかった。

 ユウコに向かった銃弾を、ホノカの放った銃弾が撃ち抜き、軌道を逸らしたからだ。

 シルバーライトは驚いた。彼女は……こんなに強かったのか?


 彼女と実際に戦うのは、初めてのことだ。

 ホノカをよく見ると、セーラー服の長袖からするっと出ている白い触手の注射器のような先端が、彼女のマスケット銃に突き刺さっていた。

 ホノカはもう一度発砲した。その弾丸は必中の運命に従って進む。避けられない。シルバーライトは判断した。

「マジカル☆シールド☆リフレクターッ!」

 ステッキは盾へと変わり、銃弾を跳ね返した。しかし変形のためにユウコを縛る糸を解かねばならなかった。ホノカは反射した銃弾を撃ち落とした。


「能力を使ったのかッ!」

 解放されたユウコはインカムに真剣な声を乗せる。

「しかたないよー」

 ホノカはそう言った。ユウコは後悔したかのように前髪の付け根を掻きむしり、そのまま肌を赤く変えた。怪人の姿に。

 銃弾を躱し、防ぎ、同時にユウコの体術に対応する。「しんどいっての……」シルバーライトは少し弱音を吐いた。そして気づいた。

「スミカは?」

 戦いが始まってからずっとスミカが視界にいない。辺りを見回すと、スミカは倒れ込んだ二人のボクサーのそばにいた。


「人質……!」

 シルバーライトは焦った。二度目の人質。距離があいていて簡単には手を出せない。糸ももう通じないだろう。

 どうすればいい?同じ展開なようで、おかれた状況は全く違う。

「でかしたッ!」

 ユウコがガッツポーズをして叫んだ。

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