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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
8/12

魔力とポーション

 私とアスクは書斎に籠り、しばらく魔法の練習を続けていた。魔導書の説明が良かったのか、簡単な魔法であれば私でもすぐに使えた。


 ただ、私は十の魔法を使った後、体に怠さを感じ始めた。私が小さく息を吐くと、アスクはそれに気付いて鎌首を上げた。


「そろそろ魔力が尽きそうかな? 体が怠さを覚えたら、休憩する事をお勧めするよ」


「うん、アスク。確かに怠さを感じるね。これは魔力が尽きかけてる状態なのかい?」


「恐らくね。ケンジにとって初めての魔法だ。これだけ使えるだけでも大したものさ」


 アスクのセリフが気遣いでなければ、もっと早くに魔力が尽きそうなものらしい。私は彼の忠告に従い、魔導書を閉じて椅子の背もたれに体を預ける。


「初めて魔法を使う子供の場合、一発で成功するのは稀でね。何度か練習して使える様になっても、今度は魔力量が問題になるんだ。一日に三回も魔法を使えば、普通の子は辛くなって止めてしまうよ」


「私が一発で使えたのは運が良かったのかな? それに魔力量も子供より多いって事かい?」


「いや、きっと想像力の差だろうね。魔法を使うイメージが具体的な程、魔力の消費量が少なくて済むんだ。ケンジは魔力発動の仕組みを、自然に頭の中で描いているんじゃないかな?」


 私は納得して頷く。確かに私は魔法を使うにも関わらず、科学的な根拠をどうしても考えてしまう。けれど、それがこの場合は良かったのだろう。


「ちなみに魔法使いを名乗る人間は、理屈っぽい年寄りが多いよ。若者は魔法も使える剣士とか、魔法を補助的にしか使わないからね。もしかしたら、ケンジは魔法使いに向いているのかもね」


「ははは、私は理屈っぽい年寄りと言う訳か。それで魔法が使えるなら御の字だけどね」


 アスクとの会話のお陰か、私は少しだけ気分が回復して来た。まだまだ怠さは残るけれど、動けないという程では無い。そして、それを察したのかアスクが私に提案してきた。


「僕はこのままお喋りでも良いんだけど、それだとリリィが寂しくて死んでしまうからね。ここは折角だし、魔力の回復手段も学んでおこうか」


「魔力の回復手段? そんなものがあるのかい?」


「ああ、勿論あるさ。魔力を含む物を体内に取り込めば良いから、食事でも多少は回復するね。ただ、手っ取り早く回復するならポーションだ。次は調合室に案内しよう。付いて来てよ、ケンジ」


 アスクはそう告げると、スルスルとデスクから降りて行く。私は魔導書を本棚に戻すと、アスクの後を追って書斎を後にする。


 そして、アスクはすぐ隣の部屋に空いた、小さな穴へと入って行った。私も扉を開いてその部屋へと踏み込んだ。


 そこはどこか薬っぽい匂いに満ちた部屋だった。中央には大きなテーブルが置かれ。壁には多くの棚が並び、様々な瓶が収められている。


 調合室というものを初めてみたけど、何となく小学校の理科室を思い出す。規模としてはそれを個人用に、こじんまりとさせた感じだろうか。


「ようこそ、ケンジ。ここが調合室さ。主にポーションを作る部屋だね。ポーション作りは追々説明するとして、まずはそこの棚を開いて貰えるかい?」


「ここの棚だね。それでは開けるよ」


 アスクの指示する棚に向かい、木の扉に手をかける。扉を開くと、そこには十個のガラス瓶が並んでいる。そして、その瓶の中には琥珀色の液体が満たされていた。


「それがポーションさ。一般的には魔力回復用、怪我の治療用、解毒用なんかの用途に分けて作られる。ただ、そのポーションは全ての効果が含まれる高級品でね。残ってるポーションはそれだけだから、今回はそれを飲んで貰えるかい?」


「高級品だって? そんな物を飲んでしまって良いのかい?」


「勿論、構わないとも。高級品と言っても、それは一般的な話でね。素材は庭でリリィが栽培した薬草だ。それに後数年もすれば、劣化して只の水になってしまう。効果が残っている内に、使う方が良いと思うよ」


 私は琥珀色の液体に目を向ける。確かに消費期限があるなら、使える内に使うべきだろう。


 ただ、私はそこで一抹の不安を覚える。素材が庭の薬草だとすると、それを作った人物が居るはずで……。


「もしかして、前の主人が作った物かな? 数年前の物だけど、本当に飲んで大丈夫なのかな?」


「ああ、心配しないで欲しい。中身が腐ってたりはしないからね。ポーション用の瓶は特別製で、中身が変質しないんだ。賢者ケイローンは錬金術の腕もピカイチでね。そこらの街の薬師と違い、一線を画す品しか置かれていないよ」


 五年前に亡くなったという、この屋敷の元ご主人様か。彼は相当に凄い人物――いや、ケンタウロスだったのだろう。


 そんな凄い方が残した屋敷。そこに現れたのは、私にとっても不幸中に幸いだった。私は心の中で感謝しつつ、そっとポーションへと手を伸ばした。


「それでは、ありがたく使わせて貰おうかな」


「ああ、効果は期待してくれて良いよ。ただ、ジュースみたいに美味しくはないから、そこには期待しないでくれ」


 アスクの陽気な声に口元を綻ばせつつ、私は瓶の蓋を開ける。特に匂いは無く、私は中身を一気に飲み込んだ。


 決して不味くは無い。仄かにハーブの香りを感じる水と言った所だ。好んで飲む程ではないけど、薬と思えばむしろ飲みやすい部類だろう。


「――えっ……? これって、まさか……」


 ポーションは飲んですぐに効果が表れた。私の体の怠さが一気に消えたのだ。それは魔力の消費によるものだけではない。籠一杯の野菜を運んだ疲れまで癒されていた。


 余りにもハッキリとわかる効果に、私は驚きを隠す事など出来なかった。アスクはそんな私に対して、誇らしそうに胸を張って告げた。


「どうだい、大したものだろう? 昔はそれを求めて、多くの人々がご主人様の元を訪れたものさ。まあ、そのせいでこんな僻地に、秘密の隠れ家が必要になったんだけどね?」


「なるほどね。それは多くの意味で、彼に感謝するしかないね」


 ケイローンからすると迷惑かもしれないけど、この効果ならば納得しかない。こんなに良く効く薬であれば、誰だって欲しくなるに違いない。


 今回は魔力や体力の回復に使ったが、怪我や病気にも同様に効くとしよう。それを必死になって求める者が出ないはずがないのだ。


 人に見つからない屋敷だって必要になるだろう。私はそのお陰で、安全な環境を享受させて貰っている。本当に幸運に恵まれたとしか言いようが無い。


「さて、これで疲労の回復もバッチリだね? この後はもっと疲れるリリィの相手だ。気合を入れて挑んでおくれよ?」


「ははは、それは問題無いよ。私からすれば、むしろ元気を貰えるくらいさ」


「あのリリィから元気を貰うだって? ケンジは光合成でも出来るのかい? リリィなんて真夏の太陽みたいなものだろう?」


 アスクの信じられないとばかりの口調に、私はくすりと笑いを漏らす。彼にとってリリィは、少しばかりギラギラし過ぎているみたいだ。


 けれど、私にとっては陽だまりの様な存在である。ずっと孤独で冷え切った心が、話す毎に溶かされると感じるのだから。

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