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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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魔法と魔導書

 アスクの案内に従い、私は二階の書斎へやって来た。その部屋は壁は本棚で埋められている。唯一、奥の壁だけが窓の為に開けられており、その手前には木製のデスクが備え付けられていた。


 アスクはデスクの上へと移動する。そして、私に椅子を勧めつつ、座るのを待たずに話し始めた。


「ケンジの世界には魔法が無いって言ってたよね? だから、まずは魔法について知っておくべきだと思うんだ。何せこの世界の生き物は、全員が何らかの魔法を使うからね。それを知らなきゃ、生きて行くのはとても困難だと思うよ」


「へえ、皆が魔法を使えるんだね」


 確かにそれは重要だ。私だけが魔法を使えない何て、大きなハンデを背負っているに等しい。


 私が椅子に座ると、アスクは説明を続けた。


「ただ、使う魔法は種族によって様々。リリィは半分植物だから、土に関する魔法が得意だね。僕は蛇だから、獲物を狩る為に風景に溶け込んだり、遠くの獲物を察知する魔法が得意だね」


「魔法と言うのは、そんなに沢山の種類があるのかい?」


「魔法は魔法さ。種類なんて分類出来るものじゃない。訓練次第で何でも出来るのが魔法なんだよ」


 訓練次第で何でも出来る? それはどういう意味だろうか?


 漫画やゲームはからっきしで、こういう話には疎いからね。私はアスクの説明が上手く理解出来ずにいた。


「魔法は皆が体内に持つ魔力を使うんだ。それをイメージの力で、何らかの現象を起こすのが魔法。世界の法則に逆らう程に扱いが難しく、消費する魔力も多くなる。まあ、試しに一度見て貰おうか」


 アスクはそう告げると、シュルシュルと鳴きながら舌をチロチロと出す。すると、あっという間にその姿がデスクから消えてしまった。


「凄いね、アスク。それが魔法なのかい?」


「ああ、そうさ。僕の白い鱗を、テーブルの色に同調させたんだ」


 私への返事と同時にアスクの姿が戻る。消えている間も移動はしておらず、寸分違わず同じ場所に居たみたいだった。


「変化させる範囲が少ないから、魔力の消費も少なくてね。使い魔になる前は、こうやって良く獲物に接近したものさ。訓練すればケンジも使えるけど、余りお勧めはしないね。体が大きくて複雑だから、習得はとても困難だと思うからね」


「なるほど。さっき種族によってと説明したのは、そう言う理由からなんだね」


「うん、この魔法を使う蛇は多いよ。それに魔力消費を抑える為に、体が元から森の色に近いトカゲなんかも居るね。種族によって同じような魔法を使うってのは、割と良くあるパターンなんだ」


 恐らくはカメレオンみたいな特徴を、魔法の力で補っているのだろう。そして、魔法が存在する世界だから、多くの生物が簡単に擬態を習得してしまう。


 私はその現実を知らされてゾッとする。それを知らずに森に入れば、私は気付かぬ内に獲物に狩られていたかもしれない。


「ただまあ、魔法で一番厄介なのは人間だけどね。人間は使う魔法にパターンが無い。それぞれが各々に違う魔法を覚えているんだ。強い人間は割合で言えば少ないけれど、どの種族も人間とは敵対したがらないね」


「この世界でも人間は、土地の多くを支配しているのかな?」


「いいや、人間の支配してる土地は、壁で覆われた街や城だけだよ。それ以外は獣やモンスターが支配者さ。後はその支配者に見逃されて、人間が小さな村で生きている場合はあるね」


 この世界の人間は、私の世界よりは強い立場に無いらしい。モンスターなんかも魔法を使うからだろう。


 私の世界では人間だけが、銃火器を扱うと言うアドバンテージがあったからね。それが無ければ、生物として圧倒的有利な立場は築けないのだろう。


「さて、この辺りで魔法の概要は終わろう。次は早速、魔法の習得と行こう。ケンジは机上の学習は得意かな? それとも体を動かす方が好きかな?」


「どちらかと言えば机上の学習かな? 何せ私は年寄りなのでね。余り長く体を動かせないんだ」


「なるほどね。どちらに比重を置くかはケンジの自由さ。最終的に魔法を使えれば良いんだ。覚え方も、覚える速度も、人によって様々だしさ」


 アスクは相変わらず陽気な口調だった。彼は私に何かを強要しないので、その点では大いに安心させられている。


 とはいえ、いつまでも甘えてはいられない。私は老体に鞭打ってでも、出来る事を増やして行かねばならないだろう。


「さて、そこの赤い背表紙の本を取って貰えるかい? そうそう、その本だよ。ちなみに、ケンジは文字を読めるかな? もし読めないなら、僕が代わりに読んであげるよ」


「文字は読めるのだけど、この本はどうだろうね……」


 私は手にした本を開く。そして、開いたページに並ぶ、見知らぬ文字に驚かされる。


「初めて見る文字だね……。ただ、何故だか意味が理解出来るね……」


「ああ、それはケンジが異世界人だからだね。僕達とも普通に会話出来てるだろう? 過去に居た異世界人も、あらゆる言語が自国の言葉に変換されていたらしいからね」


「それは、何とも便利だね……」


 かつて、同僚が英語を覚えようとして断念していた。一つの言語を習得するのは、一朝一夕で成せることでは無いのだ。


 本気で学習に取り組めば成せない事では無いが、仕事をしながらの学習には限界があるのだ。しかし、異世界にやって来た異邦人は、その努力が免除されるらしかった。


「それで、その魔導書はどうだい? 意味は理解出来そうかい?」


「うん? 魔導書?」


「そうそう、魔を導く書と書いて魔導書だね。まあ、魔法の手引書さ。こんな風にすれば、こんな魔法が使えるよって説明が書いてあるんだ」


 私はパラパラとページを捲る。書かれている内容は、小さな火を熾したり、そよ風を発生させたりする方法。そういった、いくつもの魔法について書かれていた。


 私はその中で、指先に明かりを灯す魔法に目を止める。体内にある魔力を循環させつつ、指先に魔力を多く留める。そして、指先が輝く様にイメージすれば良いとある。


 何となくだが、私は学校の授業を思い出す。理科の授業で行った実験。豆電球と電池を繋ぐ姿が頭の中でイメージとして浮かんだのだ。


 私は右手の人差し指に意識を集中する。そして、指先が輝くイメージを脳裏に描く。


「発動の為の『呪文キーワード』は何でも良いのか……。ならば、――輝け」


 その『呪文キーワード』に反応し、私の指先が輝いた。それは蛍の光程の儚い輝きだった。けれど、確かに私は魔法を使えていた。


「おっと、いきなり使えたのかい? それはかなりのセンスだと言えるね。訓練すればもっと沢山の魔法を使える様になるだろうね」


「そうなれば、私も屋敷の外でもやって行けるのかな?」


「うん、そうだね。ただ、アステリオスと戦える位の強さは無いとね。まあ、ケンジの努力次第では、一年もあれば形になるんじゃないかな?」


 私はアステリオスの姿を思い出す。二メートルを超える筋肉隆々の大男。今の私が戦っても、担いでいた斧で両断される姿しか思い描けない。


 指先に明かりを灯せる程度の私では、アスクの言う通りまだまだ先が長そうだった。

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