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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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メディアとアスク

 私とアスクは事前に打ち合わせを行っていた。もし、相手が魔女メディアであった場合、奇襲を掛けて何としても排除を行うと。


 それは、メディアが残虐な魔女であるから。彼女は目的の物が見つからなければ、確実に屋敷の人間を皆殺しにするとアスクに言われた。


 メディアの夫となったイアソンも、その残虐さで全てを失った。彼とメディアの間には複数の子供が居たが、全て彼女が夫の目の前で皆殺しにしたそうなのだ。


 その悲劇をこの場で再現させる訳には行かない。そう考えた私は魔法で目くらませをし、リリィに攻撃を仕掛けて貰ったのだけれど……。


「……ねえ、アスク。攻撃が全く効いていないけど?」


「……恐らくは、プロメーテイオンと言う薬草を使ったポーションだね。それを使用すると、一日だけ無敵になれると聞いた事がある」


「無敵になれるポーション? そんな規格外な物が存在するの?」


「プロメテウスと言う不死の神が居てね。彼の血から生まれた薬草がプロメーテイオンなのさ。それを素材にすれば、不死のポーションが作れるって訳だね」


 勉強にはなったけど、それはこのタイミングで聞きたく無かった。そのせいで奇襲を仕掛けても、無駄だったって事になるからね……。


 私が内心で唸っていると、メディアは何か白い粉を地面に撒いた。何をしているのかと見ていると、粉を蒔いた場所から、三つの白骨死体が生えて来た。


「ちょっと待って、アスク。骨が動いてる……って言うか、あれってスケルトンって奴かな?」


「うん、そうだね。メディアの師であり崇拝する神は、冥府の女神ヘカテーなんだ。冥府の住人を従わせるのもお手の物って訳だね」


 アスクはいつもの口調で平然と答える。けれど、これってそんなに落ち着いてる場合なのかな?


 生えて来たスケルトンは、骨で出来た剣まで持っている。あれがどの位の強さかわからないけど、どう考えても状況は悪いんじゃないかな?


 私は内心で焦り始める。すると、リリィが私を庇う様に立ち、こう力強く言い放った。


『大丈夫だよ、ケンジ! あの程度のモンスターなら、私の敵じゃ無いから!』


 しかし、自信満々に言い放つリリィを、魔女メディアは不思議そうに見つめる。そして、雑談でも話すかの様に、何気ない口調でこう言い放った。


「人食いのドライアドが、ここまで従順とはね……。まあ、良いでしょう。――眠れ」


『えっ……。う……そ……』


 魔女メディアが魔法を使ったのだろう。下半身が花なので、地面に顔をぶつけたりはしない。けれど、くたりと折れてしまった体から、彼女が一瞬で眠り落ちたのは理解出来た。


「……ねえ、アスク。流石に一方的過ぎないかな?」


「いや、流石におかしい。リリィ程の魔力を持つ相手を、こんな簡単に眠らせるなんて……」


 アスクは訝し気に呟く。どうやら彼も、この一方的な状況は有り得ないと感じているらしい。


 スケルトンがゆっくり前進する中、私は内心で焦りながらアスクの言葉を待つ。すると、アスクはハッと何かに気付いて口を開く。


「無敵のポーションに眠りの魔法……。そうか。メディアは森に入る前に儀式を行っている。そして、女神ヘカテーと女神ヒュプノスの加護を貰っているね」


「女神の加護?」


「そう、その加護があれば、本来よりも強い魔法が使える。と言うよりも、無敵のポーションなんて代物は普通の魔女では作れない。上位神の加護でも得ていない限りね」


 アスクの言葉が聞こえたのか、魔女メディアはニヤリと笑っていた。けれど、それに気付いた所で問題無いのか、彼女の顔には余裕の色が浮かんでいる。


 私は迫るスケルトンを前にたじろいで身を引く。そんな私に反して、アスクはいつもの陽気な口調でメディアに問い掛けた。


「うん、けれど良いのかな? 女神の加護なんて貰ってしまって?」


「――なにっ……?」


 アスクの問い掛けに魔女メディアが反応する。彼女の意思に呼応したのか、スケルトンもその歩みを止めた。


「ここが太陽神アポロン様の聖地と、君は知っているんだよね? それを知った上で、聖地を犯すのに――女神に協力を要請(・・・・・・・・)したのかい?」


「――っ……?!」


 その言葉を聞いた瞬間、メディアの顔色が変わる。そして、三体いたスケルトンの内二体が、急にボロボロと崩れ去った。


 更にはリリィの体がピクリ反応する。まだウトウトとしているが、ゆっくりとその上半身が起き上がり始めた。


「き、貴様ぁ……! 何故、その事を知っている……?!」


 メディアは激高する。そして、残ったスケルトンが駆け出して、私の体を押し倒した。


 私が何の抵抗も出来ずにいると、スケルトンは私に馬乗りになり、その手の剣を私の喉元へと押し当てた。


「死にたく無ければ動くな! 抵抗すれば、この男は殺す!」


 元々、私は何も反応出来なかったし、アスクも基本は口を動かす事しか出来ない。けれど、私が人質に取られた事で、目覚めたリリィが動けなくなってしまった。


 それだけであれば、状況は左程変わっていない。けれど、どういう訳だか、今のメディアは何かを焦っている様子だった。


 一切の余裕を無くして取り乱すメディアに対して、アスクは呆れた口調で問い掛けた。


「やはり、グレーな手を使っていたか……。けれど、どうしてそこまで……?」


「黙れ、使い魔如きが! 私はやり直すのよ! この人生を、やり直さなければならないのよ!」



 ――人生をやり直す?



 その言葉に私はドキリとさせられる。メディアは人生に悔いがあり、それをやり直す事を願っているのだろうか?


 もしそうなのであれば、私にも少しばかりの同情心が沸き上がる。二度目の人生――やり直すチャンスを与えられた身としては、少しばかり思う所があったのである。


 しかし、私の内心とは裏腹に、アスクは冷淡な口調で嘲笑った。


「ふん、生まれ変わって……。或いは若返って、人生をやり直そうってのかい? 例えそれが出来ても、君では同じ道を辿るだけだよ。君は自分の人生に、何の反省もしていないのだろう?」


「うるさい! 私に反省など必要無いわ! アフロディーテの呪いさえ無ければ、私の人生は違っていたのよ!」


 アフロディーテの呪い? アフロディーテと言えば、オリュンポス十二神の一人。メディアもそんな上位神から、何らかの呪いを受けていた?


 状況がわからないが、彼女も何らかの被害者なのだろうか? そう思っている私をよそに、アスクとメディアの口論が続く。


「いいや、違わないね! イアソンと結ばれのは、決して呪いなんかじゃない! あれは間違いなく祝福だった! 君がやり方を間違えただけだ!」


「いいえ、あれは呪いだった! 私はあんなに彼を愛したのよ! なのに彼は私を愛し続けず、私の愛を裏切ったのだから!」


 私は熱くなるアスクに驚きを覚える。そして、止まる事の無い口論に、私は口を挟む事が出来なかった。


 恐らく話の中心は英雄イアソン。彼に対する捉え方が、二人でまったく真逆なのだろう。そして、その議論はメディアの怒りによって終わりを迎える。


「もう良い! こんな口論は無駄よ! 邪魔な者は全て殺せば良いんだから!」


「――っ……?!」


 彼女の叫びに合わせ、スケルトンがその剣を掲げる。そして、私に対して振り下ろそうとした。けれど、皆が反応出来ずにいる中、屋敷の扉が唐突に開け放たれた。


「止めてっ……! お父様を傷付けないでぇ……!!!」


 その叫び声に、皆の視線が集まる。屋敷の扉をあけ放ち、こちらに叫ぶ娘のイノ。彼女は涙でぐちゃぐちゃな顔で、私に向かって走り出した。

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