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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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魔女の目的

 私とアスクが庭に出ると、それに気付いたリリィが駆け寄って来た。彼女は強張った表情を私達に向けた。


『ケンジ、アスク! 柵の魔法が解除された! 相手は魔女よ!』


「やはり、そうだったか。まさかと思ったが、最悪の事態だね……」


 私の右腕に絡んだまま、アスクは硬い口調で呟いた。そして、その視線を屋敷の柵へと向けていた。


 私はその視線を追って気付く。魔法で施錠されたはずの柵を、一人の人物が開けて入って来るのを。


 それは紫のローブに身を包んだ女性。以前の私と同じか、少し下くらいの熟年女性である。


 彼女は私達を視線で捕らえ、こちらに向けて足を進める。ゆっくりとこちらに歩み寄っていた。


『気を付けてね、ケンジ。相手は魔女だから、決して戦わないで』


「強引に押し入って来たんだ。真っ当な要件では無いだろうね……」


 リリィは私の身を案じ、アスクは相手に警戒心を見せる。反応はそれぞれ違うが、いつもと違って緊張しているのは確かだ。


 そして、私は改めて自分の姿を確認する。いつもの白のローブに赤いブローチ。それに加えて今回は、魔法の杖を手にしていた。


 この杖には持ち主の魔力を高め、悪い魔法を受け付け難くしてくれるらしい。お守りみたいなものだけど、無いよりマシだとアスクに持たされた物である。


 出来れば杖を使う事態にはならないで欲しい。けれど、それは当然ながら、相手の出方次第になるのだろうね……。


「――白い蛇……。やはり、ここに居たのね……」


 相手の魔女も、こちらを警戒しているのだろう。話すには少し遠い距離で足を止めていた。


 そして、彼女の呟きを聞いて、アスクがいつもの陽気さでこう尋ねた。


「おや、僕を知ってるのかい? 君はここに何をしに来たのかな?」


 アスクの問い掛けに対し、彼女は反応を示さなかった。代わりに彼女の視線は私に向く。私の姿をマジマジと観察していた。


「ふぅん、彼のローブに彼の杖……。それに、そのブローチも懐かしいわね……」


 その視線に私の背中が泡立つ。品定めをするかの如く、私を舐め回す様な瞳だったからだ。


 けれど、彼女の言葉で少しだけわかった。相手は私の身に付けている者を知っている。つまり、ケイローンの弟子の誰かと知り合いと言う事である。


 それが凶と出るか、吉と出るかはまだわからない。けれど、穏便に事を済ませるには、出来るだけ対話で決着をつけたい所である。


 私は小さく深呼吸をすると、一歩前に出て彼女に問い掛けた。


「それで、ご用件は何でしょうか?」


「ふふふ、わかっているでしょう? 彼の遺産が必要なのよ」


 彼の遺産とは何の事だろうか? ケイローンの残した魔導書の事だろうか?


 しかし、ケイローンの魔導書は、その殆どが入門書である。魔法を使いこなせる者に、そこまで必要とは思えなかった。


 そして、私が首を傾げていると、彼女は薄く笑ってこう呟く。


「ふふふ、そうよね。白を切るわよね。貴方が彼の後継者なのだとしたら」


 彼女は何を勘違いしているのだろう? 確かに私はケイローンの後継者と言う事になっている。けれど、白を切るも何も、彼女が何を求めているのか理解出来ていない。


 けれど、そんな私の事情も知らず、彼女は更に話を続けていた。


「けれど、私には彼の遺産が必要なの。私は純血の神の血筋と言えど、決して不老不死では無い。オリュンポス十二神では無い私には、彼の解き明かした神秘が必要なの。ねぇ、わかるでしょう?」


 純血の神の血筋? それは片親では無く、両親ともに神だと言う意味だろうか?


 ただ、そうであっても不老不死では無く、彼女はそれに抗う術を求めている。つまり、彼女の目的と言うのは……。


「貴女の目的は不老長寿の霊薬(エリクサー)ですか?」


 確かに不老長寿の霊薬(エリクサー)ならここにある。私が半分近く使ってしまったけど、それでもまだ十数本は残っている。


 危険を承知で魔女と戦うくらいなら、そのいくらかを分け与えても構わない。そう考える私に、彼女は溜息交じりにこう返して来た。


「まだ、白を切る気? この私がそんな気休めを求めるとでも? そうではなく、私が求めるのは彼が残した魔導書よ。彼がゼウスすら恐れさせた――生命の神秘が書かれた、ね?」


 生命の神秘とは何の事だろうか? ケイローンの魔導書なら一通り目を通した。けれど、そんな魔導書は無かったはずだ。


 不老長寿の霊薬(エリクサー)の魔導書すら、どこにも見当たらなかったのだ。きっと、そんな物はこの屋敷に無いんじゃなかろうか?


 けれど、考え込む私の姿に、彼女は苛立った様子を見せ始める。そして、そんな彼女に対して、アスクがこう告げた。


「君は何かを勘違いしているね。彼は確かに不老長寿の霊薬(エリクサー)を作れた。そして、神々すら成し得なかった、死者蘇生の手法を編み出した。……けれど、そこまでなんだよ。彼は決して、不死の神酒(ネクタル)の神秘を解き明かしてはいない」


「ふふふ、何よわかってるじゃない。けれど、その言葉を私が信じるとでも?」


 話が通じたと思ったのか、彼女は嬉しそうに微笑む。けれど、薄く開かれ瞳は笑っておらず、更にその獰猛さを増していた。


 私がその迫力に内心でたじろぐと、アスクはやれやれと首を振って見せた。


「うん、確かにね。私が君の立場でも、相手が白を切っていると思うだろうね。自分の目で確かめるまで、納得なんて出来ないだろうさ」


「ええ、そういう事よ。わかっているなら、通して貰えるかしら?」


 相手の雰囲気が和らぐのを感じた。自分の目で確かめられるなら、ここで争う気は無いのだろう。私はそう考えて、内心で胸を撫で下ろす。


 しかし、アスクの話はそれで終わりでは無かった。彼は陽気な口調で彼女に問い掛けた。


「所でさ、さっきから気になっていたんだけど……。――君は魔女メディアかな?」


「察しの良い白蛇ね。流石は彼の使い魔。ええ、その通り。私は魔女メディアよ」


 彼女が魔女メディアと認めた瞬間、アスクから怒気が膨れ上がる。そして、彼から事前に知らされていた合図が飛ぶ。


「やれ、ケンジ! 絶対に彼女を中に入れるな!」


「――光よっ……!」



 ――バチッ……!



「きゃ……?!」


 魔女メディアの眼前で光が爆ぜる。私の魔力では彼女を倒せる程の威力が出ない。それ故の目くらましである。


「リリィ、今だ……!」


『仕方ないかっ……!』



 ――ドッ……! ドドドッ……!!!



 地面から延びた根っこの様な物が、無数の槍となって魔女メディアを襲う。そして、彼女の全身に突き刺さった。


「――ふふっ……。やはり、抵抗するわよね?」


「「「――っ……?!」」」


 魔女メディアはにこりと微笑む。まるで攻撃された事なんて、気にもしていないみたいに。


 そして、私は改めて気付く。リリィの攻撃は全て突き刺さっていない。ローブに届く手前で、全て動きを止めてしまっていた。


 恐らくは魔法による防御なのだろう。彼女は直前に発動のワードを口にしていない。なのでこうなると予想して、事前に防御の魔法を身に纏っていたのだ。


「……なら、少しばかり痛い目に合って貰いましょうか」


 魔女メディアはニイッと笑う。その残忍で恐怖を抱かせる眼差しは、彼女が正真正銘の魔女だと納得出来るものであった。

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