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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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イノと家妖精②(イノ視点)

 お茶会が終わり、私は部屋で一人休んでいます。夕食の準備が整うまで、魔導書を読むのが私の日課だからです。


 長い旅の間は、こんな時間を持てませんでした。自由に何かを学ぶ機会が有る等、夢にも思っていませんでした。


 娯楽と言えば、寝る前の寝物語。アガウエが語り聞かせてくれた、神々と英雄の物語だけだったのです。


 勿論、それはとても楽しい時間でした。ただ、それ以外の時間が酷く辛く、耐え続けるだけの時間であったと言うだけで……。


「――んっ……?」


 私は視線を感じて、本から顔を上げます。そして、扉の隙間からこちらを覗く、少女の存在に気付きました。


「こんにちは。貴女はブラウニーなのかしら?」


 私が声を掛けると、彼女はビクリと反応しました。しかし、今日の彼女は逃げ出しませんでした。


 代わりに、扉の隙間から覗く状態のまま、私に問い返して来たのです。


「もしかして、貴方もブラウニーなの?」


「えっ……?」


 その問い返しは想定外です。まさか、私がブラウニーの仲間と思われていただなんて。私は困惑しながらも、彼女に向かって首を振ります。


「いいえ、私は人間の子供よ」


「嘘よ。だって、人間の子供はそんな流暢に話さないもの」


 即座に否定された事に、私は驚きを通り越して納得します。確かにブラウニーからすると、私は不可解な存在に見えるでしょう。


 むしろ、彼女の見た目は私に近い。同じレベルで会話が出来る私を、人間よりも同族と疑う理由には納得できました。


「私は血の半分が神様なの。だから、普通の子よりも賢いのよ」


「お父さんが神様なの? それじゃあ、貴女も英雄になるの?」


 彼女はキラキラした目で私を見つめる。そして、『貴女も』と言う言葉に私は驚きます。


 ここはかつて、賢者ケイローン様の御屋敷。多くの英雄が育った場所だと聞いています。


 つまり、彼女はその英雄の成長を目の当たりにしてきたのでしょう。そう考えると、私は彼女に俄然興味が湧いてきました。


「私は英雄では無く魔女になるわ。でも、貴女は英雄達の姿を見て来たのかしら?」


「うん、見て来た。小さい頃のお世話もしたよ。大きくなってからは知らないけど……」


 嬉しそうに語る彼女ですが、最後は少し寂しそうに俯く。家妖精である彼女は、巣立ったその後を知れないからでしょう。


 それと同時に、彼女は長くこの屋敷に住んでいるとわかりました。ケイローン様の最後の弟子は、英雄ヘラクレス様だったはず。


 そして、ヘラクレス様が多くの物語を築き上げたのは、三十年以上前らしいのです。彼女はそれ以上前から、この屋敷に住んでいたと言う事になります。


「ねえ、貴女。もし良かった、もっとお話を聞かせてくれない? 私も彼等の様に、この屋敷で育てて貰う予定なの」


「うん、知ってる。屋敷内の会話は全部聞こえてるから。旦那様、優しいよね。お菓子をくれるから、私大好きなの」


 ドアの隙間が少し開き、嬉しそうな彼女の顔が見える。そのニコニコと笑う顔を見て、私も嬉しくて笑みが零れました。


 私が大好きなお父様を、この子も好きでいてくれる。それが堪らなく嬉しかった。私はそれだけで、この子の事が好きになった。


「ねえ、貴女の名前は何て言うの? 知ってるかもしれないけど、私はイノよ」


「私はブラウン。英雄の子が付けてくれたの。小麦みたいな綺麗な髪だからよ」


 確かに彼女は髪も瞳も小麦色をしている。彼女はその名に愛着があるのか、三つ編みにした髪を嬉しそうにいじっていた。


 過去に英雄だった子供達とも仲が良かったのだろうか? そして、私もブラウンと仲良くなれるだろうか?


 そんな風に想いながら、私は彼女へと提案をした。


「ねえ、ブラウン。私と友達になってくれない? 貴方と仲良くなれたら、私はとっても嬉しいわ」


「うん、良いよ。私もイノと仲良くなりたい。誰かとお話するのって、もう何年もしていないもの」


 嬉しそうに微笑むブラウン。彼女の返事に私も思わず嬉しくなる。


 それと同時に私は理解する。ブラウンもアスク達と同様、主人不在の屋敷で寂しくしていたのだと。


 ケイローン様がご存命の際、何人も子供が過ごしていた。ブラウンはその頃の華やかな日常を、今でも忘れていないのだろう。


「今日から宜しくね、ブラウン」


「宜しく、イノ。仲良くしてね」


 私が右手を出すと、彼女はそっと寄って来る。そして、私達は互いに握手を交わした。これで私達は今日から友達である。


 そして、互いに微笑み合っていると、不意に部屋の外から声が飛び込んで来た。


「イノ様~! 夕飯の準備が出来ましたよ~!」


 その声の主はアガウエだった。彼女は扉が開いているのが不思議みたいで、首を傾げながら室内を覗き込んでいた。


「ありがとう、アガウエ。すぐ下に向かうね」


 私はアガウエに返事をする。そして、何も握っていない右手に視線を落とす。


 私の新しい友人は一瞬で消えてしまった。姿が見えないだけでなく、存在そのものが消えてしまったらしい。


 やはりブラウンは人では無く、妖精なんだなと納得する。きっと彼女は、私が一人の時にしか姿を見せてくれないのだろう。


 私はアガウエが下に向かい、気配が消えた事を確認する。そして、くすっと笑うと部屋を出て、扉に手をかけながらこう口にする。


「それじゃあ、ブラウン。また今度、一緒に遊びましょうね?」


 返事は無かったけど、きっと聞こえているのでしょう。屋敷内の会話は、全て聞こえていると言っていたしね。私はそう確信しながら、そっと部屋の扉を閉めた。

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