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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
6/13

屋敷の守護者

 私が朝食を食べ終える頃、白蛇アスクが戻って来た。そして、私にこう誘いをかけた。


「屋敷の番人を外に待たせているよ。ケンジさえ良ければ、彼を紹介させて貰えるかな?」


「ああ、勿論だとも。それでは、案内をお願い出来るかい?」


 私は食後の食器もそのままに、アスクに連れられ外に出る。そして、玄関前で待っていたリリィも合流し、庭の柵まで移動する。


 柵は木製では無く金属製みたいだ。真っ白なペンキで塗られているのか、材質が何かまでは良くわからなかったけど。


 柵の高さは二メートル以上あり、先端は槍の様に尖っている。これを乗り越えるのは至難の業だと思われた。


「おい、アステリオス! ケンジを連れて来たよ! こっちに来てくれ!」


 アスクが柵の外に向かって叫ぶと、森の茂みがガサガサと揺れる。そして、ぬっと姿を現す二メートルを超える大男。手には大きな斧を持っていた。


 私はその姿に唖然となる。何故ならば彼は、上半身は裸で、下はボロボロのズボン。その頭部は牛の顔だったからだ。


「ケンジ、紹介するよ。彼の名はアステリオス。この屋敷を守る番人だよ」


 アスクの紹介により、アステリオスは頭を下げる。そして、くぐもった声で挨拶をしてくれる。


「俺、アステリオス……。宜しく、新しいご主人様……」


「私は中村賢治だよ。宜しくね、アステリオス」


 柵越しに挨拶を交わす私とアステリオス。柵があるので握手は出来そうに無かった。


 そして、私は改めて柵を確認する。庭をぐるっと囲う柵は、どこにも出入り口が見当たらなかった。


「ねえ、アスク。この柵はどうなってるんだい? どこにも出入り口が無いみたいだけど」


「ああ、外から入れない様に隠し扉になってるのさ。それはまた、追々説明してあげるよ」


「外から入れないように? それでは、アステリオスはどうしてるんだい?」


「彼は屋敷に入れないんだ。そう前の主人に命じられているからね」


 アスクの口調はいつも通りに陽気だった。アステリオスの境遇を可哀そうとは思っていないらしい。


 後ろに控えるリリィを見ても、ニコニコと微笑んでいるだけ。やはり、彼に対する憐みは感じていないらしい。


「アステリオス、ずっと外で不便では無いのかな?」


「不便、無い……。寝る場所ある……。食べ物一杯……」


「森の獣は全て彼の食料だからね。ちなみに寝床は、岩の洞窟に干し草のベッドさ」


 それを当然の様に語る彼等に、私は少なからず動揺する。確かに頭部は牛だけれど、彼の体は人間だった。もっと、人間らしい環境が必要では無いのだろうか?


「アステリオスは屋敷に入りたいと思わないのかな? 暖かなベッドで寝てみたいとは?」


「俺、屋敷入りたくない……。俺が入ると、色々と壊す……。綺麗な物、壊すの悲しい……」


『彼ってば怪力だものね! 敵を倒すには良いけど、人間の暮らしには不向きなのよ!』


 リリィの言葉で私も納得する。確かに彼の筋肉は人間離れしている。私と同じ様に生活は出来ないのだろう。


 そして、屋敷に入らないのはアステリオス自身の希望でもあるみたいだ。そういう事ならば、私から無理に勧める事では無いのだろう。


 けれど、少し話しただけで彼の心優しさは理解出来た。彼は物を壊すと悲しいという感情を持っているのだからね。


「私はまだこの世界に来たばかりでね。まだまだ、わからない事だらけなんだ。アステリオスも、私にこの世界の事を教えてくれないかな?」


「俺、賢く無い……。話せる事、余り無い……。けど、ご主人様と話せると嬉しい……」


 アステリオスの顔は牛なので、その表情を読む事は出来ない。けれど、その話口調から楽しそうなのは感じられた。


 どうやら、彼も私を歓迎してくれるらしい。私はその事に安堵していると、アスクが私に話しかけて来た。


「さて、挨拶はこの辺りにしようか。ケンジには沢山の説明が必要だからね。屋敷に戻って続きと行こう。なに、二人が話す機会は、これから沢山あるからさ。アステリオスもわかってくれるよね?」


「俺、大丈夫……。次、話すの楽しみ……。それじゃあ、巡回に戻る……」


 アステリオスはそう告げると、斧を担いで屋敷から離れて行く。この屋敷を守る為に、外敵がいないか探しに行くのだろう。


 私はその背中が森に消えるまで見送る。すると、アスクが私へと再び声を掛けた。


「アステリオスも過去に色々とあってね。地下に幽閉されていた所を、以前のご主人様に助けられたりさ。まあ、その辺りの話も追々だね。まずは人の事よりも、ケンジ自身の事を優先しないとね」


「私自身の事だって?」


「そう、ご主事様になって貰う時に話しただろう? この世界を知る事と、身を守る術を身に付ける事。世界については話す事が多過ぎる。まずは、身を守る術から説明と行こうか」


 アスクの説明に私は納得する。アステリオスの過去も気になるが、それは今すぐ知る必要は無い。これから時間を見つけ、少しずつ知って行けば良い事である。


 そして、身を守る術は早めに知っておくべき事だ。まだ私はこの世界に、どれ程の危険が潜んでいるのかもしれないのだから。


「それじゃあ、屋敷に戻ろうか。そうだね、次は書斎を案内しつつ……」


『ねえ、アスク。貴方だけズルいわ。ケンジを独り占めして。私もお話したいのだけれど?』


 アスクの話にリリィが割り込む。その頬はぷくっと膨れ、不機嫌さをアピールしていた。


 アスクは一瞬言葉に詰まったが、呆れた様子で首を振る。人間だったら、溜息の一つも付いていそうだ。


「ねえ、リリィ。それは急ぎかい? 今日じゃなきゃ駄目なのかい?」


『勿論、急ぎよ。早くしないと、悲しくて私の心が死んでしまうもの』


 キッパリと言い切るリリィに、アスクのたじろぐ気配を感じる。そして、彼は諦めた様子で彼女に告げた。


「……わかったよ、リリィ。それじゃあ、午後は庭でティータイムとしよう。ハーブティー用にとびっきりのハーブを用意して貰えるかな?」


『ええ、任せて! 一番良いハーブを、沢山用意して待っているわ!』


 アスクの提案に、リリィは満面の笑みを浮かべる。そして、土の中に姿を消すと、素早く花壇の前に姿を現す。


 とうやら、良いハーブを探す為に、花壇の様子を確認しているらしい。モグラ叩きみたいに、色々な場所を出たり消えたりと繰り返していた。


「これで少しばかり時間を稼げた。一番優先すべき話をしよう。書斎まで来て貰えるかな?」


「ああ、わかったよ。それにしても、アスクは意外と苦労人なのかな?」


「わかって貰えて嬉しいよ、ケンジ。さて、それでは書斎に向かおうか」


 お喋り好きで陽気な白蛇のアスク。けれど、リリィのわがままを受け入れる様子から、何となくその面倒見の良さが見えた気がする。


 私はそんな彼の後に続き、屋敷の書斎まで移動するのだった。

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