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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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イノと家妖精

 いつも通りの午後。私達は揃って庭でのティータイムを楽しんでいた。椅子に座るのは私とセメレとイノ。それ以外のメンバーも、全員でテーブルを囲んでいる。


 人数も増えて、リリィもとても楽しそうにしている。私としても皆でノンビリ過ごす時間は、とても貴重な物だと思っている。


 ただ、いつも通り雑談をしている中で、イノが想定外の質問をして来た。


「そういえば、お父様。この屋敷には、私以外にも子供が居るのですか?」


「子供だって? いや、居ないと思うけど……」


 イノの問いに答えると、彼女は不思議そうに首を傾げる。そして、続けてこう口にした。


「けれど私が一人の時に、良く女の子を見かけるのです。離れて様子を見ているだけで、話しかけると逃げ出すのですが」


「女の子だって? アスク、そんな子が居るのかな?」


 私はテーブルの上のアスクに問う。すると、彼は少し考えてから、何かに気付いた様子でこう答えた。


「ああ、恐らくはブラウニーじゃないかな。僕も姿は見た事が無いから、どんな姿かは知らないんだけど」


「ブラウニーと言うと家妖精だったよね? どうしてイノにだけ、姿を見せ始めたのかな?」


 私はこの屋敷で四か月を過ごしている。セメレ達だって三か月を過ぎた頃だ。


 今までブラウニーの存在は知っていても、誰も姿を見た事が無かった。そういう物だと思って、誰もがその存在を受け入れていたのだ。


 しかし、今になって姿を見せ始めた。しかも、イノの前にだけ良く現れるらしい。


「う~ん、推測になるけど。それはイノが小さな子供だからかな? 一人の時に現れるなら、イノの子守をしようとしてるのかもね」


「子守、ですか……?」


 アスクの言葉にセメレが戸惑いの声を漏らす。何となく居心地の悪そうな顔をしているのは、余り子育てに関われていないからだろう。


 それと言うのも、セメレは元々王女様である。子供のお世話は乳母のアガウエがするものと考えていた。だから、愛情は有ってもお世話はしてこなかった。


 しかし、私は義理の父となり、積極的にイノの教育を行っている。我が子同然にお世話もしていた。それを最近になって、セメレが気にし始めているのだ。


 王女では無くなった以上、普通の母親として接する必要がある。けれど、どう接するのが正解かわからず、手探りでイノの接し方を変え始めている。


 そんなセメレにとって、少しばかりタイムリーなワードだったのだろう。ソワソワするセメレを横目に、アスクは陽気な口調で続けた。


「ほら、子守も家事の一環だろう? 普段はケンジやアガウエが面倒を見ている。けれど、そうで無い時はブラウニーの出番だと思ったんじゃないかな?」


「あの、私は別に問題無いのですが? その、子守をして頂かなくても……」


 アスクの説明にイノが戸惑いを見せる。それと言うのも、彼女は五歳児とは思えない賢さを持つからだ。


 少なくとも彼女は、小学生高学年程の知性と精神年齢を備えている。そんな事もあって、実際は手間がかからず、一人でも大人しく本を読んでいたりする。


 親としては助かる話ではあるのだけれど、セメレはその言葉にショックを受けた顔をしていた。世話をしようと考えていた所なので、何とも言い難い状況である。


 アスクはそんなセメレを一瞥し、楽しそうに頭を揺らす。そして、イノに向かってこう伝えた。


「まあ、そうだろうね。けれど、ブラウニー側からすれば別なのさ。家事に誇りを持っているだろうからね。ただ、今は本当に必要かわからなくて、様子を見てるって所じゃないかな?」


「なるほど。そういう事だったんですね」


 アスクの言葉にイノは納得する。そして、私も同じく納得する。


 確かにイノは普通の子じゃない。五歳児にしては賢過ぎるし、大人し過ぎるのだ。ブラウニーも本当に五歳児かと疑っているかもしれない。


 それで遠巻きに様子を見るだけで、声を掛ければ逃げ出すのだろう。その光景を脳裏に描き、私はブラウニーの戸惑いを思って同情する。


 しかし、それまで大人しく話を聞いていたリリィが、不意にイノへとこう問いかけた。


『ねえ、イノちゃん。もしかして、イノちゃんってさ。不老長寿の霊薬(エリクサー)を飲んだ?』


「えっ? いえ、飲んだ記憶はありませんが……」


『う~ん、そっかぁ~。イノちゃん賢過ぎるからね~。ケンジみたいに、若返ったのかと思ったよ~』


 リリィの言葉に私は苦笑する。言いたい事は確かにわかる。もしイノが若返っていたと言われても、私も納得してしまうだろう。


 けれど、不老長寿の霊薬(エリクサー)は滅多に手に入る事が無い。



 ――いや、珍しいけど、手に入らない訳では無いのか……?



 私はセメレに視線を送る。視線を向けられたセメレは不思議そうに首を傾げた。私はまさかと言う想いで、念の為に確認を取る。


「本当に飲んで無いよね? イノが知らない内にとか……」


「も、勿論です! えっ? そうですよね、アガウエ……」


 何故だか途中で自信を失い、セメレはアガウエに問い掛けた。すると、アガウエはすまし顔で答えた。


「当然で御座います。五年前にご自身で産んだ事をお忘れですか?」


「そ、そうです! その通りです! イノは私が産んだ子ですから!」


 安堵した表情のセメレに、一同は苦笑を浮かべる。いくらイノが普通じゃ無いとは言え、彼女は動揺し過ぎだろう。


 そして、笑われたセメレは真っ赤になって肩を落とす。恥ずかしそうにする彼女へと、私は優しく頭を撫でてやった。


「ははは、そういう事もあるさ。そんなに気にしない事だよ」


「うぅ、私の威厳が砂粒になったのは、ケンジ様のせいですからね……」


 セメレは照れ隠しなのか、私の胸に飛び込んで顔を埋める。娘の前だとか気にもせず、ギュッと抱きしめ顔を擦り付けていた。


 初めの頃こそ私も戸惑ったが、今ではすっかり慣れたものだ。私が甘えるセメレの頭を撫でていると、一同は温かい目で見守っていた。


 しかし、そこにイノが笑顔で、無邪気な一言を放つ。


「お母様って、本当に可愛いですね!」


「――うぐっ……?!」


 娘からのその一言は効いたらしい。セメレはすっと身を離すと、真っ赤な顔のまま姿勢を正す。そして、アガウエに対してすまし顔でこう言った。


「ア、アガウエ。新しいお茶をお願い出来るかしら?」


「はいはい、ただいまお注ぎしますね」


 熱いお茶をカップに継ぎ足して貰い、セメレは優雅にそれを口にする。真っ赤な顔を除けば、実に女王らしい美しい所作である。


 それで少しは彼女の威厳も回復したのだろうか? それはわからないが、これ以上の追撃は可哀そうだと思い、私はイノへと別の話題を振る事にした。


「そういえば次の実験だけど。電気を溜める装置を考えているんだけどさ……」


「電気を溜めるのですかっ?! それって、どの様な仕組みなのでしょうか!」


 早速、私の振った話に喰いつくイノ。科学的な話になると、本当にキラキラした目をするよなぁ。


 私はイノに説明しようし、そこでふっと気付く。セメレがすまし顔のまま、私の手にそっと自らの手を重ねて来たのだ。


 恐らくは私の助け舟を喜んでくれたのだろう。私はその様に感じ取り、セメレのその手をギュッと握り返しておいた。

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