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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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イノの成長

 セメレ達との暮らしが始まり三か月が経った。既に皆はここでの生活に馴染み、今では何の問題も無く過ごせている。


 ただ、想定外の出来事が無い訳でもない。それはイノの成長である。アスクにとっては想定通りらしいけど、彼女は三か月で私より魔法を使いこなしているのだ。


「お父様、それでは宜しいでしょうか!」


「うん、構わないよ。それじゃあお願い」


 庭の一角の空きスペースで、私とイノは並んで立つ。そして、少し離れた場所に刺さった、三本の棒に視線を向ける。


 右端は石の棒で、長さは一番長い。真ん中も木の棒で、長さも真ん中。左端は鉄の棒で、長さは一番短い。


 イノは三本の棒へと両手を向ける。そして、彼女の体はパチパチと帯電を始めた。


「それでは、行きます! ――光よ!」



 ――ピシャッ……!!!



 イノの両手から閃光が迸る。それは一条の線を描き、真っ直ぐに木の棒へと突き刺さった。


 木の棒はじゅっと音を立て、僅かに焦げて煙を上げる。丸焦げとはいかないが、それでもイノは雷の魔法を使いこなしていた。


 私とイノは互いに顔を見合わせる。そして、実験の結果で意見を交わす。


「……やはり、物の性質や長さは関係ないね。雷は一番近い場所に向かう性質らしい」


「その様ですね、お父様! 次は距離を変えてどこまで差が出るか試しましょう!」


 キラキラした目で見上げるイノに、私は思わず苦笑を漏らす。楽しそうなのは良いのだけれど、この実験が危険だと自覚があるのか不安に思ったのだ。


 けれど、賢いイノの事である。一度はキチンと説明したし、理解した上で楽しんでいるのだろう。私は彼女の頷き返し、配置を変える為に棒に向かって歩き始める。


 すると、イノはふわりと浮かぶ様に、私の後ろを付いて歩く。ブーツの浮遊魔法にも慣れたみたいで、月面を歩くかの如く、重力を感じさせない歩みである。


 更にイノは石の棒へと手を伸ばす。一番長くて重たい棒だけど、彼女は軽々と引き抜いた。身体強化の魔法により、私なんかより遥かに彼女は力持ちだった。


「イノ、魔力は大丈夫かい? 随分と沢山魔法を使っているけど」


「はい、お父様。最近は魔力不足を感じる事が全然ありませんね」


 嬉しそうに答えるイノに、私は再び苦笑を漏らす。元々、彼女は魔力量が私より多かった。しかし、その後の伸び率が全然違っているのだ。


 私の魔力量なんて、微々たる量しか増えていない。それにも関わらず、イノはその魔力量が数倍に膨れ上がっているみたいだった。



 ――やはり、血の影響か……。



 思ってもそれは口に出さない。彼女の父親であるゼウスの名は、私達とって忌まわしき物でもある。


 セメレに過酷な人生を背負わせた者。人間を玩具としか思っていない神。イノにその血が流れる事実は、彼女にはとても不愉快らしいのだ。


 イノが大人になり、自分の中で折り合いが付けば良い。けれど、それまではゼウスの名は口にしない。それが周りの大人達の一致した見解となっている。


 私がその事を思い出しながら作業を終えると、そこに背後からアスクの声が掛かった。


「ケンジ、イノ。ライオスが返って来たよ。そろそろ終わろうか?」


「ああ、もうそんな時間か。イノ、ライオスを中に入れてあげよう」


 私の呼びかけに、イノは一瞬残念そうな顔をした。彼女はまだまだ実験を続けたかったのだろう。


 けれど、ライオス君が戻ったと言う事は、そろそろお昼の時間と言う事だ。皆の昼食を遅らせる訳にいかないと考え、イノはすぐに笑顔で頷き返した。


 私達は揃って柵へと向かう。そして私が柵を開錠すると、ライオス君は満面の笑みで告げた。


「お喜び下さい、ご主人様! 今日は鹿を仕留めました! しばらくはご馳走が続きますよ!」


「本当かい? ――って、改めて見ると随分と大きいんだね……」


 ライオス君の視線を追うと、背後のアステリオスが鹿を肩に担いでいた。彼が巨体なので分かりにくいが、鹿のサイズは成人男性以上にある。


 これまでは鳥が一羽とかだったので、そのボリュームは全然違っている。これを食べきるには、どれだけの日数が必要なのだろうか……?


「アステリオス殿、ありがとうございます! 後は私が担いで行きますので!」


「うん、気を付けて……。結構、重いと思うから……」


 アステリオスに手渡され、ライオス君は鹿を肩に担ぐ。怪力の腕輪を持つ彼でも、受け取る瞬間には足元がふらついていた。


 それを見たイノが、心配そうにライオスを見上げる。そして、思い付いた様に笑顔で提案した。


「ねえねえ、ライオス。身体強化の魔法をかけようか? 随分と楽になると思うよ?」


「ははは、なんのなんの! この程度は軽いものです。問題ありませんよ、イノ様!」


 ライオス君にも面子があるのか、笑顔でイノの提案を断る。護衛役としては情けない姿を見せられないだろうからね。


 イノは少し残念そうだけど、ここはライオス君の顔を立てるべきだろう。私はイノの肩に手を置き、諭すように彼女に告げた。


「ライオス君なら心配いらないよ。それよりも、先に戻ってアガウエに伝えてくれるかい? きっと、こんな大物が来たら、驚いてしまうだろうからね」


「はい、お父様! それでは、台所へ急いで向かいます!」


 イノはぴょんと跳ねると、凄い速さで屋敷に向かう。そして、あっという間に屋敷の中へと消えてしまった。


 すると、それを待っていたとばかりに、ライオス君から声が掛かった。


「あの、ご主人様……。実は今日、腕輪を付けていなくてですね……。出来れば助けて頂けると……」


「えっ……?」


 見ればライオス君の笑顔が引き攣っていた。腕輪の強化で余裕なんかと思ったらら、実は腕輪をしていなかったらしい。


 そうなると、大物の鹿は百キロを超えているだろう。頑張れば運べるだろうが、それなりにしんどいだろうと予想が出来た。


「イノ程の強化では無いからね? 気休めと思って貰えれば……」


「いえ、少しでも楽になれば御の字ですので……」


 私はライオス君に身体強化の魔法をかけてあげる。これで少しばかり、筋力がアップしたはずである。


 少しは楽になったのか、ライオス君がホッとした顔になる。すると、足元のアスクが楽しそうに声をかけた。


「男のプライドって奴だね? 僕はそういうの嫌いじゃないよ?」


「ははは、わかって貰えますか。女性陣には秘密でお願いします」


 陽気なアスクに、陽気に返すライオス君。私はそんな二人のやり取りに、くすっと笑ってしまう。


 そして、軽く雑談を交わしながら、二人と一匹で並んで屋敷に向かうのだった。

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