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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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狩りの合間に(ライオス視点)

 ご主人様に見送られ、今日も私は狩りに出ます。腰には剣を下げ、肩には弓矢を担ぎながら。いつも通りなら、午前中に野鳥を捕らえられるでしょう。


 そして、同行者は牛頭の偉丈夫、アステリオス殿。彼は寡黙ですが、それでも私の同行を嫌がってはいない様子。言葉をかければ快く返事を返してくれます。


 彼と森を周る様になって一月が経ちます。そろそろ互いに気心も知れて来た為、今日は少しばかり踏み込んだ質問をしてみる事にした。


「アステリオス殿、以前より気になっていた事があるのですが……」


「なに……ライオス……?」


 少し前を歩くアステリオスは、顔をこちらに向ける。いつも通りの彼の態度に、私は安堵しながら言葉を続けた。


「アステリオス殿は、ミノス島のミノタウロスなのですか?」


 私の問いにアステリオス殿が足を止める。私もそれに合わせて歩みを止めた。


 彼はしばし沈黙する。何かを考えていると感じた私は、彼の言葉を静かに待った。


「どうして……そんな事を聞く……?」


 気を悪くしている感じはありませんでした。けれど、彼はどう答えるべきか、困っていると私は感じました。


「昨日、アスク殿がお茶会の中で、魔女メディアに激しい怒りを見せていました。その様子から、彼はアルゴナウタイのイアソン様と関りがあるのが明白でした」


 それはあの場の全員が感じていた事だろう。イアソン様の境遇に、アスク殿はやり切れない思いを滲ませていたのですから。


「そして、アルゴナウタイの勇士には、アテナイの王テセウス様も含まれています。あのミノタウロス討伐で名を馳せたテセウス様も、アスク殿と関りがあると考えるべきでしょう?」


「…………」


 ミノタウロスの迷宮に潜り、ミノタウロスを討伐した英雄。それが吟遊詩人の歌うアテナイ王・テセウス様です。


 それ故に、皆がミノタウロスは死んだと考えている。けれど、アステリオス殿を見て、私はそれが真実なのかと疑問に感じたのです。


 もしかすると、テセウス様の物語は偽りなのか? そう疑う私に対して、アステリオス殿は静かに語り出した。


「テセウスは……俺を殺しに来た……。けど……俺を殺さなかった……。俺を見て……可哀そう言った……」


「可哀そう……?」


 アステリオス殿はミノタウロスである事を否定しなかった。テセウスとの関りをその口にした。その事に衝撃を受けつつ、私は彼の言葉に首を傾げる。


「俺の父……ポセイドン様の怒りに触れた……。ポセイドン様に嘘ついて……貢物の白牛を盗んだ……。だから、母は呪いを受けた……。その白牛とまぐわって……俺を産む事になった……」


「ポセイドン様の呪いで……」


 ポセイドン様はオリュンポス十二神の一人。ゼウス様の兄にして、海を司る神である。気性が激しく、恐ろしい神として知られている。


 そんな神の白牛を盗み、妻が呪いを受けた。何という愚かな行いをしたのだろうか……。


「俺、生れつき怪力だった……。王宮の物……沢山壊した……。父は俺……化け物と言った……。ダイダロスに迷宮を作らせ……俺を閉じ込めた……」


「それは……」


 全てはミノス王の愚かさが招いた結果。それにも関わらず、彼はアステリオス殿を迫害したのだろう。


 この一月の間、私はアステリオス殿と時間を共にした。だからこそ、今の私には心優しい彼が、モンスターとは思えなかったのだ。


「食べ物無かった……。俺、ずっとお腹空いていた……。そこに沢山の子供……送られて来た……。俺、餓死した子供……食べるしかなかった……」


「――っ……?!」


 ポロポロと涙を零すアステリオス殿の姿に、私は思わず息を飲んだ。私の知るミノタウロスの物語と、余りに真実が違い過ぎている。


 吟遊詩人の歌うミノタウロスは、生贄に子供を求めるモンスター。だからこそ、テセウス様は彼を討ったと伝えられているのに……。


「俺、食べたく無かった……。でも、空腹で……死にそうで……気が付くと食べてた……。俺、自分では死ねなかった……。だから、テセウスに頼んだ……。俺のこと……殺してと……」


「…………」


 子供の様に泣きじゃくるアステリオス殿。その姿を見て、彼がどういう存在かを理解した。彼は牛の頭と巨体を持つが、その心は人間と同じなのだと。


「テセウス……殺さなかった……。俺、死んだ事にした……。ここに連れて来た……。俺、それからここにいる……」


「テセウス様の導きで、ケイローン様の使い魔に……」


 私の疑問はこれで解けた。どうしてアステリオス殿がここに居るのか。その理由がハッキリとわかった。


 しかし、アステリオス殿は首を振る。そして、想定外の言葉を口にした。


「俺、本当は違う……。ケイローン様の使い魔じゃない……。けど、これ以上言えない……。アスク、俺の友達……。友達の困る事……俺、したくない……」


「アスク殿が困る……?」


 皆が当たり前に考えていた。アステリオス殿はケイローン様の使い魔なのだと。


 しかし、彼は使い魔では無かった? いや、別の人物の使い魔だったのだろうか?


 ただ、今まではアスク殿の為に、それを口にしなかった。それが今になって、私にギリギリまで伝えてくれたと言うことは……。


「ここまで話してくれたのは……。私を友と認めてくれた証ですか?」


「えっ……?」


 私の問いに、アステリオス殿が首を傾げる。何を言われたのか、わからないという雰囲気だった。


 私はそんな彼に向って笑みを向ける。そして、嬉しいと感じた気持ちを素直に伝える。


「アステリオス殿は心優しく、素晴らしい人物です。そんな貴方と友になれたなら、私はとても嬉しく思います。私とアステリオス殿は、友達と言う事で良いのでしょうか?」


「――俺も、嬉しい……。ライオスと……友達なれたら……」


 アステリオス殿の言葉は柔らかかった。彼も喜んでくれていると感じられた。


 なので、私は右手をすっと差し出す。アステリオス殿は戸惑った様子で、私の握手に応じてくれた。


「今後も宜しくお願いします。我が友、アステリオス殿」


「こ、こちらこそ……宜しく……。ライオス……俺の友達……」


 彼は怪力で握り潰さない為なのだろう。握手を交わす手を、握ろうとはしなかった。


 なので、代わりに私がしっかりと握る。彼の分厚く大きな手を、力強く握りしめた。

次回より週三更新(火・木・日)に変更させて頂きます。

二作品同時の更新ですが、引き続き頑張って行きます!

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