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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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磁石と磁場

 セメレの結婚から一ヶ月が経った。私達は穏やか日常を送りながら、皆でイノを育て続けている。


 私も皆もそんな日常に馴染み初めていたが、私には少しばかり気掛かりがある。それはイノが科学へとても興味を持っている事である。


 今日も今日とて魔法の練習より先に、私の実験を見学したがった。娘にせがまれると弱い私は、娘の願いを聞いて実験を開始した。


「今日の実験は磁石を作ろうと思ってね。電気が扱えるなら、磁石も作れると思うんだ」


「磁石ですか?」


 イノは不思議そうに首を傾げる。セメレやアスクも少し離れて見学している。二人も興味深そうな様子なので、まだこの世界に磁石は存在しないのかもしれない。


「強い電気を浴びた鉄は、磁力を帯びるんだ。そして、上手く行けば磁石同士、引っ付いたり、反発したりするはずなんだよね」


 私は昨日までに作って置いた、小さな金属の棒を二つ取り出す。昨日までに地道に砂鉄を集め、金属塊として生成した。そして、磁石に使える棒へと、整形もしたのである。


 正直、魔力消費が激しくて、ここ数日はこれだけに私の魔力を使い続けた。鉄の整形は簡単なのだが、広範囲から鉄を集めるのに苦労したね……。


 まあ、それはさて置き、私は金属棒の一つを手に握る。そして、全魔力を電気に変化して金属棒へと流した。


「ふぅ……。これで磁石になってくれると良いんだけど……」


 私は金属の棒を握り、もう一つの金属棒へと近付ける。すると、机の上に置いた金属棒が、手の中の金属棒へと引き寄せられた。


「お、お父様、凄いです! 鉄が引っ付きました! これも科学なのですか?!」


「うん、そうだね。これは魔法では無く科学だ。磁力の力で引っ付いたんだよ」


 私は金属棒を摘まんで、宙に浮かせる。引っ付いた金属棒は、落ちる事無く引っ付いたままだった。


 実験が上手く行った事にホッとして、私はイノへと説明を始める。


「私の世界ではS極とN極と呼ばれていたのだけどね。磁石には磁力の流れがあるんだ。そして、反するS極とN極同士は引っ付いて、S極同士やN極同士は反発する。磁石にはそういう特性があるんだよね」


「それでは、お父様。もう一つを磁石にすれば、反発も見れるのでしょうか?」


 イノはキラキラした目で私を見つめる。その黄金の瞳は期待に満ち溢れていた。


 けれど、私は苦笑して首を振る。今の私は魔力が枯渇し、続けての実験はしんどかったのだ。


「続きは明日にしよう。もう、私は魔力を使い果たしたしね」


 まあ、ポーションを飲めば回復は出来る。けれど、磁石作りはしんどいので、連続で続けるのが精神的にしんどい。


 時間もあるのだし明日でも……。そう考える私に対して、イノは手を挙げてこう提案した。


「わ、私にもやらせて下さい! 磁石、作れると思うのです!」


「イノが磁石を? う~ん、それじゃあ、やってみるかい?」


 今日は魔力制御の練習をしていないし、イノは十分な魔力があるだろう。私より魔力の多いイノならば、枯渇せずに磁石が作れるかもしれない。


 ただ、それは魔法の制御に成功したらの話だ。魔法はイメージなので、原理がわからないままでは、魔法が上手く発動しない可能性が高い。


 まあ、失敗してもそれはそれで構わないか。何事も経験だと思って、私はもう一つの金属棒をイノに手渡した。


「それでは、やってみます!」


 イノは宣言した後に、深く息を吐く。そして、真剣な眼差しで見つめ、手の中に意識を集中する。



 ――パチッ……バチバチ……!



「えっ……?」


 イノの手から溢れる輝き。それは静電気のレベルを遥かに超えていた。私の扱う電気とは、明らかにその規模が違っていたのだ。


 私はポカンと口を開く。すると、イノは手を開き、金属棒を私へと翳して見せた。


「出来ました、お父様! 磁石になりました!」


「……磁石になった?」


 イノの発言には確信が込められていた。実験するまでも無く、その結果はわかっていると言わんばかりに。


 私はその発言を疑問に思う。けれど、イノは二つの磁石を手に取り、引っ付けたり、反発させたりと、その性質を確かめていた。


「凄いです、お父様! 磁石とは、こういう動きをするのですね!」


「うん、そうなんだけど……。イノ、どうして磁石が出来たと思ったんだい?」


 私の問いに、イノは不思議そうに私を見つめる。そして、首を傾げながらこう答えた。


「お父様の説明で、そこに磁力が在ると知りました。在るとわかっていれば、見るのは簡単ですよね?」


「――っ……?!」


 イノの説明に私は息を飲む。イノの言葉はその通りだ。無から有を生み出す訳では無い。ならば磁力を見る事は、魔法で簡単に出来る。


 私は微かに回復したなけなしの魔力で、磁力を見ようと意識を集中する。すると、確かに視認出来た。それは水中で水流を見ている感覚だった。


「そうか……。だから、見ただけで……」


「はい、わかりました! お父様の説明に間違いはありません! ならば、私の理解出来ない部分は、魔法で補って理解しております!」


 これはイノが子供だからだろうか? その発想がとても柔軟なのだ。磁力を視認しよう等と、私では思い付きもしなかった。


 けれど、確かに磁力が見えれば実験の幅が広がる。より効率的に実験を進める事が出来るだろう。


 イノはまだ五歳児だ。けれど、魔力も発想力も私より上。私が勝っているのは、元の世界から持ち込んだ知識だけである。ならば、彼女を子供と思って侮るのではなく……。


「……イノ、科学魔法の研究だけど。私と一緒にやってみるかい?」


「よ、宜しいのですか、お父様!」


 元々、この研究はイノの為に行っている。イノが大人になったと時の為、少しずつ伝えて行こうと考えていたものだ。


 けれど、今のイノを見ればわかる。一緒に研究すれば、改めて伝える手間が省あける。研究だって私一人よりも捗るはずだ。


 大人としてとか、親としてとかのプライドなんて必要ない。ただ、これがイノの為になるなら、私はより良い手段を選ぶだけだ。


「ああ、一緒に研究しよう。きっと、その方が面白いだろうしね」


「はい、絶対に面白いです! ありがとう御座います、お父様!」


 子供らしく跳ねて喜ぶイノ。そんな彼女の様子を、母親のセメレは困った様な表情で見つめていた。


 けれど、そこには確かな温もりが感じられた。喜ぶ娘の姿を、彼女は嬉しく思っているのだろう。


「なるほどね。それがケンジの選択なんだね?」


「うん、アスク。そう、これが私の選択なんだ」


 テーブルの上でアスクは、満足そうに頷いていた。私のこの選択を、彼は尊重してくれるらしい。


 私は友の応援を嬉しく思う。そして、愛する妻に見守られながら、愛おし娘への指導を再開するのだった。

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