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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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結婚、そして……。

 今日も一日があっと言う間に過ぎたな……。


 窓を見れば外は真っ暗だ。私はどっと疲れを感じて、寝室のベッドで溜息を吐く。


 勢いでセメレを抱き、そのままプロポーズから結婚。イノへの結婚報告を行い、彼女の口からセメレの覚悟を聞いた。アガウエやライオス君からは、祝福と忠誠の言葉を貰った。


 私がこの異世界にやって来てまだ二週間。それだと言うのに、本当に色々な事が起き続けている。


 元の世界は私は六十年を過ごした。けれど、後半の三十年には殆ど思い出が無い。この二週間に比べたら、本当にスカスカな人生だった。


 それを思うと笑みが零れる。私は呆れる程、無駄な時間を過ごして来た。けれど、ジジイになってそれに気付き、やり直す機会を得る事が出来た。



 ――何と幸運な人生なのか……。



 私はもう、亡くなった妻の幸子と、娘の愛子に申し訳なく感じていない。むしろ、二度目の人生を謳歌して、胸を張って生きようと考えている。


 きっと、それを妻と娘も望んでくれる。もし、死後に会う事が出来たらな、私は二人に笑顔を見せる事が出来るだろう。アスク達との生活が、私にそう思わせてくれたのだ。


 ただ、この人生はそれだけでは無い。私には成さねばならない事があるみたいなのだ。


「ゼウス、か……」


 全知全能の神。雷を操る最強の存在。そして、セメレやイノに悲運を与えた元凶……。


 私とセメレが生きるだけなら、この館でひっそり暮らして行けば良い。けれど、イノの人生を考えると、それだけでは駄目だという予感があった。


 イノの血の半分はゼウスから受け継いだもの。それ故か、彼女にはハッキリわかる程の、突出した才能が存在していた。


 イノには十分過ぎる程の魔力があり、溢れる程の知性があった。世の魔女がどれ程かは知らないけれど、いずれイノは世の魔女達を凌駕するだろう。



 ――そうなれば、ゼウスがイノを放っておかない……。



 出来る限りイノの才能は周囲に隠すつもりだ。けれど、絶対に見つからないと言う保証はない。娘の運命を天に祈る様な真似だけはしたくなかった。


 ならば、イノの才能は限界まで伸ばしてあげるべきだ。どんな試練が待ち受けていても、乗り越えられるだけの力を付けさせてあげるべきだろう。


 私一人では難しいが、今の私は一人では無い。アスク、リリィ、アステリオスも協力してくれる。セメレ、アガウエ、ライオス君だってそうだろう。


 皆で力を合わせて、イノを育てて行くのだ。もし、ゼウスに対峙する運命にあっても、決して彼女が負けない為にも……。


「ただ、雷への対策か……」


 魔法の力でゼウスに対抗するのは難しい。何故ならば、魔法とは神の奇跡の劣化版でしかないから。魔法では神を超える事は出来ないのだ。


 けれど、私には予感があった。科学の力が合わされば、人は神の奇跡に打ち勝てるのではと。何故ならば、私の世界ではこんな言葉があったのだ……。



 ――十分に発達した科学技術は、魔法と区別がつかないほど進歩する……。



 私の世界では科学技術で、神の奇跡に等しい恩恵を受けていた。多少なりともその知識がある私なら、アスクの言っていた『科学魔法』を作れるのではないだろうか?


 科学者としての知識は無いが、私には研究に割く時間が幾らでもある。イノが成人するまでに、科学と魔法の融合を進めて行く。そして、神の奇跡へと迫る領域まで高めるのだ。


 それが叶えば、イノは最強の魔女と成れる。英雄ヘラクレスにも匹敵し、ゼウスにも負けない力を得られるのではないだろうか?


 決して私はゼウスを倒して欲しい訳では無い。けれど、イノの自由がゼウスに奪われない為にも、出来るだけの事はしてあげたいのだ。


 私に出来た二人目の娘に、決して不幸な人生を歩ませない為に……。


 私はふっと窓の外に目をやる。空には明るい月が浮かび、その優しい輝きを見ていると、私の心が落ち着くのが感じられた。


「幸子、愛子……。新しい家族の為に、私は頑張ってみるよ……」


 きっと最愛の家族である二人なら、私の事を応援してくれるだろう。家族の幸せの為に生きる私を、決して恨んだり、羨んだりする二人では無いのだから。


 そして、もし願いが叶うならば、人生を終えた後に二人に会いたい。私がどの様に生き続けたかを、自分の口で報告したいものである……。



 ――コンコン……。



 私が感傷に浸っていると、ドアを叩く音が聞こえた。私がドアに視線を向けると、外から声も聞こえて来る。


「ケンジ様、入っても宜しいでしょうか……?」


「セメレ? 勿論、入って貰って構わないよ」


 私が返事をすると、そっと扉が開けられる。そして、セメレがゆっくりと寝室へと入って来た。


 彼女は潤んだ瞳で私を見つめる。そして、真っ赤な顔で私に問い掛けた。


「その……。新婚初夜ですよね……? この後は、するんですよね……?」



 ――新婚初夜……。



 言われてみれば、確かにその通りだ。結婚式も何も無いけれど、私とセメレは今日から夫婦なのだから。


 むしろ、昨晩に今朝と、やる事はやっている。順番が無茶苦茶だけど、それがセメレの言葉を否定する理由にはならなかった。


「そうだね、セメレ。今日が新婚初夜だ。さあ、こっちにおいで」


「――っ……♪ はい、ケンジ様!」


 母親とは言え、セメレもまだ二十二歳の乙女だ。魅力的な笑みを浮かべ、私の側へと身を寄せた。


 私に並んでベッドに腰かけるセメレ。私は彼女の腰に手を回し、そっと彼女と口付けをする。


「あっ……。ケンジ様……」


 嬉しそうに恥じらうセメレ。私はそんな彼女の姿に胸がときめく。これも不老長寿の霊薬(エリクサー)の影響だろう。私は若者の様に感情が昂る。


 こうして、今日も私はセメレと夜を共にし、夫婦の仲を深めるのだった……。

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