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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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アガウエの反応

 私とセメレはお昼近い時間にリビングへと降りた。アガウエは何も言わずに席を勧め、朝食の用意を初めてくれた。


 まず間違いなく、何が起きたか知っている。知らなければ、何かしら聞いて来るはずである。


 むしろ、アガウエはセメレの世話係。朝から身支度を整えるのも一つの内だ。朝からセメレが寝室に居なかった事を、把握していないはずがない。


 いや、それが無くても理解して当然か。何せセメレはニコニコ顔で、ずっと私の手を握っているのだから……。


 私とセメレは並んで椅子に座る。セメレが手を離す気が無いので、そうせざるを得なかった。私はもう開き直って、その状態で給仕中のアガウエに問い掛けた。


「アガウエ、火はどうしたのかな? 魔道具が使えなかっただろう?」


「いえ、魔力の補給はイノ様が。アスク様の指示でそう対応しました」


 私はアガウエの言葉に納得する。魔法の制御は練習中だが、イノにだって魔力はある。


 それに、私だって魔法を覚える前から、魔力の補給は行っていた。イノは恐らく、私より魔力が多い。さほど負担にならないと、アスクはそう判断したのだろう。


「そのイノはどうしているのかな? 本来なら講義の時間だろう?」


「アスク様と書斎に。魔導書を読む練習をなされるとの事でしたよ」


 流石はアスクと言った所だろうか。私が居ない所でも、しっかりとフォローをしてくれている。


 イノに魔導書はまだ難しいが、文字自体は読めるのだ。難しい個所をアスクが補助すれば、確かに魔導書を読む練習は出来るだろう。


「あ~、ライオス君は? 外に出れなかったのでは?」


「それもイノ様が。仮の後継者として登録が済み、扉の開閉は可能になったとの事です」



 ――ア、アスクゥ……!!!



 彼には本当に頭が上がらない。そこまで完璧にフォローしてくれていたなんて。それでも彼は顔を合わせれば、きっと私にこう言うのだろう……。


『ケンジ、事後報告になって済まないね。良かれと思って、イノの登録を先に済ませてしまったよ』


 何と言うか、アスクが居れば私は不要では? イノが一緒なら、屋敷の管理に困ら無さそうだし……。


 ああ、いや。イノが成人するまでは必要か。流石に小さな子に、全ての責任は負わせられないしね。


 イノの成人後は少々不安に思う。けれど、追い出されない様に頑張りつつ、駄目なら駄目で世界を見て周るでも良いのかね?



 ――いや、そういう訳にも行かないか……。



 私は握られた手に視線を落とす。今の私は自分一人だけの身では無い。セメレの人生に対しても、責任ある立場なのだから。


「そういえば、セメレ。この地では結婚ってどうしています? 挙式――何かしらの儀式が必要ですか?」


 先程、私は求婚して受け入れて貰った。ならば、具体的な話も進めなければいけないだろう。


 そう思っての問いであったが、セメレは悲しそうに顔を伏せた。


「申し訳ございません、ケンジ様。本来ならば神殿で誓いを立てるのですが……。何せ私は結婚の女神に嫌われておりますので……」


 そこで私は思い出す。セメレに呪いを掛けた女神ヘラ。彼女が結婚を司る女神であるのだと。


「それでは、私達は結婚出来ないのでしょうか?」


「いえ、儀式が無くとも婚姻関係は成立します。ただ、神に認められた関係では無いと言うだけです」


 なるほど、と私は納得する。結婚式を挙げずに、籍だけを入れるみたいなものか。周囲が知らなくても夫婦は夫婦だ。


「それでは、何か行った方が良い事は? 互いに親類へ知らせるのは難しい状況でしょうが……」


 私の問いに、セメレは考える仕草を取る。私の手のひらを指で弄んでいるが、それでも顔だけ見れば真剣に考えているみたいだった。


 セメレはしばらく考えた後に、ニコリと微笑みこう告げた。


「この屋敷の皆に伝える程度でしょうか? 出来ればイノには、きちんと伝えて頂けると……」


 セメレは上目遣いで、私の様子を伺っている。どうも、私の口から直接伝えて欲しいみたいだった。


 確かにイノには、義父になって欲しいと言われている。セメレから伝えられて、私から何も無しとはいかないだろう。


「わかりました。それでは、この後に伝えに行きましょう」


「はい、宜しくお願いします。きっとイノも喜ぶでしょう」


 今日から義父になったと伝えれば、流石にイノも驚くだろうか? いずれはそうなって欲しいと思っていても、こんな急にとは思っていなかっただろうし。


 いや、意外と察している可能性もあるか? 何せ賢いイノのことだ。朝からの周囲の態度を見て、何かあったと気付いた可能性も……。


 私がそんな風に考えていると、くいくいと手を引かれる。何事かとセメレを見ると、彼女は微笑みながら視線を動かす。


「それと、折角ですので私の養母にも、お伝え頂けますと……」


 セメレの視線の先には、給仕を終えたアガウエが居た。彼女は何故だかセメレでは無く、私の背後に控えていた。


 私はその事に驚きつつも、苦笑を浮かべてアガウエに告げる。


「えっと、話は聞いていたかな? 今日から私とセメレは、正式に夫婦となる事にしたんだ」


「おめでとうございます。旦那様、姫様――いえ、今日からは奥様とお呼びするべきですね」


 嬉しそうに微笑むアガウエ。それに、笑顔を返すセメレ。血の繋がりは無いけれど、二人の間にはきっと、家族同然の絆があるのだろうと思えた。


 そんな二人の暖かな関係を眺めていると、不意にアガウエの視線が私に向いた。


「念の為にお伝えさせて頂きます。イノ様を取り上げたのは私となります。産婆の経験は十分ありますので、この先の事もご安心頂ければと」


「えっ、この先って……」


 つまり、そういう事を言っている? 私とセメレの間に子が出来れば、その時は自分が取り上げると……。


 いや、昨晩の事を考えれば当然か。夫婦となった以上は、いずれそういう事も有り得るだろう。けれど、随分とストレートに言って来たなぁ……。


 私がどう返して良いか悩んでいると、セメレは顔を真っ赤にして義母の方をバシバシ叩き出す。


「もう、アガウエったら! いくらなんでも、気が早すぎますよ……!」


「よう御座いましたね、奥様? 私もその日を楽しみにしております」


 怒っているようで、顔がにやけているセメレ。そんな彼女の事を、アガウエは嬉しそうに見つめていた。


 こんな仲の良い姿を見せられては、最早私が何かを言う必要も無いか……。


 そんな未来も悪く無い。そう思って私も、一緒になって笑い声を上げるのだった。

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