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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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魔法の授業?

 翌日から始まったイノへの授業。それは魔法の基礎を教える物のはずだった。しかし、実際に初めてみると、それは私の想定と大きく異なる授業となった。


「お師匠様! 今、光りました! それが電気なのですかっ?!」


「うん、そうだよ。電気と言う物は、摩擦によって生じるんだ」


 私が指先に静電気を発生させると、イノはキラキラと目を輝かせる。それは微かな閃光だけど、初めて見るイノにはとても珍しく映るらしい。


 そして、どうして私は静電気を見せたかと言うと、イノの『なぜなぜ期』が発症した為である。


 本来は今日の授業で、火魔法の使い方を教えるはずだった。ただ、私はイメージを掴みやすくしようと、火がどういう原理で起きるのかを説明したのだ。


 燃えやすい物質が高温になると、酸素と結合して炎が生れる。そんな、小学生の理科で習う内容を説明してみたのだ。


 すると、酸素とは何か? 結合とは何か? どうして炎が生れるのか? ……と、その質問はとどまる所を知らなかった。


 更に話が膨らんで、酸素の結合する一例として水を紹介した。酸素と水素が結合すると、炎が生れた後に水が生じる。そして、その水は電気の力で結合を解く事が出来ると。


 そして、実際に見た方がイメージがしやすいだろうと、私はイノの目の前で実験をする事になった。どう考えても、魔法の授業からは逸脱してしまっているけれど……。


「じゃあ、見ていてね。水に電気を流して、酸素と水素に分解する。分解した水素と酸素は、フラスコの中に溜めて行くよ」


「お願いします、お師匠様!」


 子供らしい満面の笑みに、私も思わず笑みが零れる。イノは賢く大人びているけど、やはりこういう実験が好きな子供なのだ。


 私はカップに満たした水に指を入れる。そして、指さしに静電気を発生させた。体中を振動させて摩擦を生じ、溜まった静電気を指先へと移すイメージ。


 これならば、私の少ない魔力でも電気を生み出せる。そして、電気によって分解された酸素と水素も、魔法の補助で上に構えたフラスコへと集めて行く。


「さて、この中には水素と酸素が集まった。そこに今度は火を近づけてみよう」


 私は指先をフラスコの入口へと移動させる。そして、今度は指先に小さな火を灯して見せた。


 すると、フラスコの中では炎が生れ、すぐにその火は消えてしまう。代わりにフラスコの中には、微かな水滴が壁面に張り付いていた。


「凄いです、お師匠様! 本当に炎が生じて、水になりました! これが化学反応と言う物なんですね!」


「うん、そうだね。上手く行って良かったよ」


 正直、素人考えの実験だったので、上手く行ってホッとした。恐らくだけど、足りない部分は魔力が補ってくれたのだろう。


 けれど、これが私の使う魔法なのだ。元の世界の知識を生かし、使う奇跡は最小限に留める。そうする事で、小さな魔力で大きな効果を生み出す事が出来るのだ。


 本来ならば、私は魔法を覚えて十数日。火に水に電気にと、様々な魔法を使えるのは異常らしい。アスクもこれには心底呆れていた。


 ただ、それでも私の魔力は未だ少ないままである。どこまで伸びるかわからないけど、大きな魔法を使うにはまだまだ時間が必要そうではあった。


「お師匠様、先程の電気! あの使い方を教えて下さい!」


「電気の使い方? 今日は火の練習の予定だったけど……」


 とは言え、イノは電気に興味を持った。子供には興味のある事をさせる方が良く伸びるだろう。そう考えれば、火の魔法に拘らなくても問題無いかな?


 私は計画の変更を決定する。今日はイノの知りたがっている、電気の魔法を教えるとしよう。


「電気と言うのはね。何かと何かが摩擦する事で、ほんの僅かに発生するんだ。だから、服を沢山摩擦させて、体に電気が溜まるイメージを持つと良い。そして、溜まった電気を指先に集めると――ほら、光ったでしょ?」


「電気は摩擦によって生まれるのですね! 電気とは、どれ程まで溜める事が出来るのでしょうか!」


 イノの質問に私は考える。静電気のレベルは大した物では無いけど、一番大きな電気はアレだよな。


「電気とは水蒸気の摩擦でも生まれてね。一番大きな電気は雷だね。雲の中で大量の摩擦が起きると、自然界で最も大きな電気が生れるんだ」


「――何だって、ケンジ? 君は今、雷って言ったのかい?」


 それまでずっと黙っていたアスクが、テーブルの上で鎌首を上げた。慌てた空気を出すアスクに、私は戸惑いながらも答えた。


「うん、そうだね。流石に雷は人の手に余るけど、原理としては同じ電気だよ。もしかして、電気を使うのは何か不味かったかな?」


「どうだろう……。正直、僕も判断に迷っている。何せ雷を操れるのはゼウス様のみ。雷はゼウス様の代名詞だからね……」


 アスクの言葉に私は息を飲む。全知全能と謳われる最強の神。そのゼウスの専売特許を、私が勝手に使った事になるのだろうか?


 けれど、アスクはしばらく悩んだ末に、私に対して改めてこう答えた。


「今の光を雷と思う人はいないだろう。そういう意味では、ゼウス様の怒りに触れる事はないはずだ。けれど、その力は人前で使わない方が良い。特にイノに関してはね」


「アスク様、どうしてでしょうか?」


 イノは不思議そうにアスクへ問う。私も彼女と同様、すぐにその答えが思い浮かばなかった。


 けれど、アスクは私とイノ。離れて見守るセメレを順に見回す。それからゆっくりこう告げた。


「イノが使えば雷と紐付ける者が現れかねない。そして、それを雷と認識した者は、きっとこう考えるだろう。――イノはゼウス様の血を、最も色濃く継いだ半神だと」


「「「――っ……?!」」」


 アスクの言葉に納得する。確かに雷を使えるのはゼウスのみ。そして、イノにはその血が半分流れている。それは黄金の瞳からも、隠せない事実なのである。


「相手が人間だけなら、畏怖されるだけで問題は無いんだ。けれど、人々にその名が知れ渡れば、きっと神々の耳にも入る。そして、ゼウス様がそれを知れば、きっとイノを迎えに来る」


「イノを、迎えに……?」


 その言葉には、皆が戸惑った表情を浮かべていた。どうしてゼウスが、イノを迎えに来るのか理解出来なかった。けれど、アスクは溜息を吐きながらこう告げた。


「ゼウス様は自分の子供を溺愛する所がある。最も自分の力を引き継いだ子。そんな存在を知れば、きっと自分の手元で囲ってしまう。イノがゼウス様に捕まれば、二度とオリュンポスの山から下りれなくなるだろうね」


「「「…………」」」


 アスクの言葉に皆が喉を鳴らす。この場の皆が、ゼウスに対して良い感情を持ってはいない。そのゼウスにイノを奪われる何て、あってはならない事である。


 その可能性があるのならば、この力は秘匿しておくべきなのだろう。


「わかったよ、アスク。イノもわかったね? 電気の魔法は誰にも内緒だよ?」


「はい、お師匠様。私はいつまでも、母とお師匠様の元で生きて行きたいです」


 真剣な表情で頷くイノ。私は微笑んで、そんな彼女の頭を撫でる。


 この世界の神は碌な物では無い。決して近寄るべきではないのだ。


 イノを守る為にも危険は避ける。きっと、それが最も賢い選択だと私は信じている……。

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