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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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皆でお茶会(後編)

「魔女や魔法使いは、邪悪な存在なのですか……?」


 私の呟きにセメレが頷く。どうやら、この地ではそれが常識らしい。


 しかし、私は少し考えてみる。私の世界でも昔は魔女を恐れていなかっただろうか?


 吸血鬼や狼男と同様に、モンスターに並べられる存在。それが元々の魔女だったはずだ。童話の中では子供を捕まえ、食べてしまう存在だったり……。


 ただ、アニメやハロウィンの影響で、最近は魔女に怖いイメージが無い。魔法使いに至っては、映画やゲームの中で登場する味方だ。


 腕を組んでそう考える私に、セメレは戸惑いながらも説明をしてくれた。


「魔女や魔法使いは神には及びませんが、魔法と言う奇跡を使える者達です。そして、彼女達は大きな魔法を使う際には、生き物の命を生贄に儀式を行います。それも邪悪と恐れられる理由の一つでしょう……」


「なるほど、儀式か……」


 それは何となくイメージが湧く。どちらかと言えば、『悪い魔法使いと』と言う注釈が付くが。


「けれど、一番の理由は彼女達の性格です。彼女達は基本的に、性格に難があるのです。願いを叶える対価に、体の一部であったり、大切な者の命だったり……。とても支払えない要求をしてくるのです」


「体の一部や、大切な者の命……」


 セメレの説明に私は唖然となる。そんな要求をしてくる相手は誰だって恐れる。近寄りたいと思えない相手だ。


 しかし、私が何とも言えずにいると、アスクが横から口を挟んだ。


「おっと、一応フォローを入れておこうかな? 魔女が邪悪な存在ってのは、彼女達のイメージ戦略なんだ。全ての魔女が性悪って訳では無いんだよ?」


「アスク様、イメージ戦略ですか?」


 アスクの言葉にセメレが反応する。不思議そうにテーブルの上のアスクに視線を下ろした。


「そうだよ、王女様。考えてもごらんよ? 神の様な奇跡を使える人がいる。怪我や病気も簡単に治せるし、姿だって望む様に変えられる。そんな人が側に居たとしたら、人々はどういう行動に出ると思う?」


「――っ……。なるほど……。そういう事ですか……」


 セメレは納得顔で頷く。アスクの言わんとする事は、私にも理解する事が出来た。


「人々はあらゆる手を使って、望みを叶えて貰おうとする。正当な対価を払う気ならまだ良いよ? けれど、対価を払えない人達は、徒党を組んで武器で脅すだろう。場合によっては、拉致監禁だってあり得る。そうされない為には、魔女は恐れられる位で丁度良いんだ」


 私は病気のイノをポーションで治した。普通の人に出来ない事を、私は簡単に行えてしまった。


 その対価に、セメレは私財を差し出す気だった。けれど、私は大した事は無いと、対価を求めるつもりが無かった。



 ――セメレが善良だから問題が無かった。



 けれど、セメレが対価を持ち合わせていなければ? 私を利用しようと考える人物だったら?


 きっと私は簡単に騙されただろうし、そうならなくても捕らえられた可能性がある。今の私にはそれだけの警戒心が備わっていないからだ。


「だからね、王女様。君がケンジの伴侶になるなら、君がケンジを守らなければならないよ? ケンジは困っている人がいれば、無償でも助けようとするだろう。けれど、そんな事実が知られれば、多くの人々が血眼になってケンジの元へと押し寄せる。君ならケンジの価値がわかるだろう?」


「はい、アスク様……。アスク様の懸念は、痛い程に……」


 沈痛な面持ちで頷くセメレ。その背後では、アガウエとライオス君まで険しい表情を浮かべていた。


 その反応を確かめたアスクは、次にイノへと顔を向けた。


「イノも覚えておくんだよ。君はケンジから魔法を教わる。君はこれから魔女になる。善良な魔女は確かに尊い存在だ。けれど、そんな尊い存在を、人々は欲望で汚そうとするだろう。君はただ善良なだけの魔女になってはいけないんだよ?」


「はい、アスク様。イノはその言葉を、肝に銘じておきます」


 アスクの言葉にイノは頷く。それはとても五歳児とは思えない、毅然とした態度であった。


 魔女や魔法使いが邪悪と言う話から、随分と重い話になってしまったな。そう思った所で、リリィが怒りながら口を挟む。


『ちょっと、アスク! 雰囲気が台無しじゃない! そんな重たい話を、私のお茶会でしないでくれる! ちっとも優雅じゃないわ!』


「……ふぅ、やれやれ。確かに真面目に話し過ぎたね? 空気を悪くしてゴメンよ。僕は少し大人しくしておくとするよ」


 普段であれば軽口で返すアスクが、今日はやけに素直だった。リリィの言葉に謝り、そのままテーブルの上で大人しくなってしまう。


 その反応にはリリィも一瞬目を丸くする。けれど、すぐに気を良くした様子で、パッと私に笑みを向けた。


『ケンジ、ちなみにね! 神の血を引く男の子は、超人になる事が多いの! だから、魔法は使えなくて、英雄だったり有名な戦士になったりするのよ! そういう意味でも、魔法使いであるケンジは珍しい存在って事になるわ!』


「ああ、なるほどね。それで皆は、魔女や魔法使いって言い方をしていたのか」


 何となく皆の口ぶりからして、魔女が主体で魔法使いをオマケ扱いしている気がしたのだ。その理由がリリィの説明で理解出来た。


 魔法を使える存在の、その多くが魔女なのだ。魔法使いの男性は、その数がもの凄く少ないのだろう。


『それでね、ケンジ! ケイローン様の弟子の子も、その殆どが英雄になったわね! あっ、でも一人だけ魔法使いになった子が……!』


「――リリィ……?」


 気持ち良く話すリリィだったが、途中でアスクが横やりを入れる。ほんの僅かではあったけれど、そこにはピリッとした緊張感が含まれていた。


 そして、リリィはアッと言う顔で口を押える。そして、彼女は慌てた様子で露骨に話題を変えた。


『ま、まあ、そんな事はどうでも良いの! ケイローン様の最後の弟子はヘラクレスでさ! 彼もゼウス様の血を引いていたから、すんごく怪力の英雄になったのよ!』


 ヘラクレスの名前は聞き覚えがあった。詳しくは知らないが、確か映画にもなっていたはずだ。そんな彼も賢者ケイローンの弟子だったのか。


 ……その事自体はとても興味深いのだけど、先程の二人のやり取りの方が気になって仕方が無い。


『それでね! ヘラクレスはイアソンと一緒に冒険に出たの! アルター号って船に乗って、有名な英雄達の大冒険にも参加したんだから!』


 必死に話し続けるリリィ。無言でとぐろを巻くアスク。どうも、そこには触れて欲しく無いみたいだった。


 その場の全員が空気を察する。そして、リリィの話に笑顔で相槌を打ち続けるのだった。

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