皆でお茶会(前編)
午前の授業を終えて、皆で昼食を食べていた。すると、食べ終わる頃にリリィの叫び声が聞こえた。
私が庭に出ると、ライオス君が返って来たとの事であった。柵を開けて迎え入れると、彼の手には一話の鳥がぶら下がっていた。
「ライオス君は凄いな。アッサリと肉を確保してくるなんて」
「いやぁ、運が良かったです。射線の取りやすい場所に、雉がとまっていましたので」
どうやらこの鳥は雉らしい。前にアステリオスが仕留めたのもサイズは同じだった。もしかしたら、あれも雉だったのかもしれない。
まあ、それはさて置き、私とライオス君はアステリオスに別れを告げる。そして、彼は森の巡回に戻って行き、私達は屋敷へと戻る。
そんな一幕もありつつ、ライオス君の昼食が終わるのを待って、午後のお茶会が開催された。
『待っていたわ! こんなに大人数なんて、いつぶりでしょう!』
白いテーブルを囲む私達。椅子に座るのは、私とセメレとイノの三人。アガウエとライオス君は、セメレの背後で控えていた。
そして、主役のリリィは下半身が花だからね。椅子に座る事無く、テーブルに肘を付きながらニコニコとしていた。なお、アスクはテーブルの上でとぐろを巻いている。
『ねえねえ、セメレ! セメレはお姫様なんでしょう? お姫さまって、普段はどんな事をしているの?』
前のめりなリリィに、セメレは一瞬戸惑いを見せる。しかし、すぐに笑顔で彼女に返す。
「えっと、普段ですか? この場合、お城での生活の事ですよね。そうですね、こういうお茶会は良く行っていましたよ」
『お姫様もお茶会するんだ! 凄く豪華なのかな? 何だか凄そう!』
「凄いと言えば凄いですが……。余り楽しいものではありませんよ?」
苦笑いを浮かべるセメレに、リリィは不思議そうな表情を浮かべる。そんな彼女に対して、セメレは思い出す様に話を続ける。
「お茶会の相手は権力者の娘達です。親同士の関係を繋げる為に、子供同士でも仲良く見せる必要があります。その為にお茶会を開いて、周囲に仲良しをアピールしているだけなのです」
『どういうこと? 実際は仲良く無かったの?』
「そうですね。仲の良い友人はいませんでした。誰もが優秀な人達なので油断出来ません。迂闊な発言をしない様に、気を張り続ける関係でしたね」
リリィは驚いて目を丸くしていた。私は私で、そんな環境は嫌だなと思っていた。
けれど、意外な事にイノが興味深そうに耳を傾けている。娘である彼女でも、母親のそういう話を余り聞いた事が無いのかもしれない。
『もしかして……。お姫さまって、楽しくないの?』
リリィは残念そうな口調でセメレに問う。リリィからすると、お姫様はもっと夢がある存在だと思っていたのだろう。
かく言う私も、どちらかと言えばリリィ寄りだ。お姫様の実態がどうなのだろうと、セメレの言葉に興味を持つ。
「楽しくは、ないですかね……。常に人の目があり、私に自由はありませんでした。恵まれた環境ではありますが、王女と言う立場は言う程良い物ではありませんでしたね……」
セメレは何とも言えない、複雑な表情を浮かべていた。そして、その背後に控えるアガウエとライオス君は、悲しそうな顔で目を伏せている。
「放浪の旅の過酷さを知る今ならば、あの環境が恵まれていたのは痛い程に理解しています。けれど、戻りたいかと言われれば難しいですね。可能ならば私もイノも、ケンジ様の元で長く暮らせるとありがたいのですが……」
セメレはそう言うと、チラチラと私に視線を送って来る。流石に私も良い年だし、その意図に気付けない程に鈍感でも無い。
「ははは、心配しないで下さい。婚約者のセメレを追い出したりはしませんよ。何かあっても大丈夫なように、イノを後継者に指名しておきますしね」
「はい、ケンジ様。婚約よりも先に進める日を、セメレは心待ちにしております」
ストレートに好意を示すセメレに、私は思わず言葉に詰まる。本当にこのお姫様は、私が知るどんな人物よりもアグレッシブだ。
むしろ、娘の前なのに自重する気が無いのだろうか? 日本人とは感覚が違うのかなと考えていると、隣のイノも笑顔でこう告げた。
「私も楽しみにしております。お母様とお師匠様のご結婚。そして、私がお師匠様の娘になれる日を」
「ははは……。イノも楽しみにしてるんだね? そっか……。そっかぁ……」
娘のイノも妙に好感度が高くないかな? 昨日は殆ど眠っていたし、まともに会話してまだ半日なのだけれど?
私が二人の好意に困惑していると、それに追随する様に、アガウエとライオス君が一歩前に出る。
「ご主人様、我々はご結婚前提で仕えております。従者として良きようにお使い下さい」
「母と同じく。私もご主人様の為に、今後はより一層励みたいと思います」
二人の笑顔に私は固まる。どうしてこのタイミングで、二人はアピールして来たのだろう?
これはもしかすると、外堀を埋めに来てる感じかな? 余りにも露骨過ぎて、どう反応すべきか困るのだけど……。
私が困惑していると、テーブルの上のアスクが、楽しそうに鎌首を上げた。
「ははは、モテモテだね、ケンジ。まあ、これもケンジの人柄って奴さ。皆がケンジの事を大好きって事だからね?」
『うんうん、そうよね! だって、こんな良い人居ないもの! これで魔法使いだなんて信じられないわよね!』
「……うん? 魔法使いだなんて、信じられない?」
何だかリリィが不思議な事を言った気がする、どういう意味かと私は首を傾げる。
すると、セメレはアッと言う顔を見せ、私に対して上目遣いでこう問いかけた。
「もしかして、ケンジ様はご存じ無いのですか? その、遠方から参られたそうなので……」
「ご存じ無いとは、どういう意味でしょうか?」
遠慮がちなセメレの言葉に、私は首を傾げて問い返す。すると、彼女は言うかどうか迷った挙句、私へと躊躇いがちにこう告げた。
「この地の魔女や魔法使いは、基本的に……。――邪悪な存在です」
「はっ……?」
この地の魔女や魔法使いが、基本的に邪悪な存在? それって、私もそう見られるってこと?
私が困惑してると、セメレも困惑の表情で頷く。どうやら、彼女は嘘や冗談で言っている訳では無さそうだった。




