表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
4/15

魔道具と家妖精

 私は何とか野菜をキッチンへと運び込む事に成功した。それ程の距離では無かったが、年の為に息は切れている。体中に震えを感じるので、明日の筋肉痛は間違いなさそうだ。


 アスクは野菜を置いたテーブルに、器用にスルスルと登っていく。そして、私に向かって問い掛けて来た。


「さて、ケンジ。包丁や鍋は使えるかい? 必要なら簡単な説明はしてあげれるよ。使った事は無いので、上手く使うコツは知らないけどね」


「大丈夫だよ、アスク。独り身が長いから、それなりに料理は出来るんだ」


 実際に料理を覚えたのは、幸子を亡くした後だった。娘の愛子を育てる為に、最低限はと思って必死に覚えたのを覚えている。


 一番四苦八苦をしたのが離乳食を作る辺りで、その後は私も料理に慣れて行った。ただ、娘は五歳で亡くなったので、その後は惰性で作り続ける日々だったが。


「そうかい、それは良かった。ただ、魔道具の扱いは大丈夫かい? そちらの世界にも、同じものがあったりするのかな?」


「魔道具? 少し待ってくれるかな」


 私は改めてキッチンを確認する。元居た世界のキッチンに似ていたが、所々で仕様が違っているみたいだった。


 流し台はあるのに、蛇口らしき物が無い。コンロはあるのに、着火用のつまみやボタンが無い。何やら色の違うパネルらしきものはあるのだが……。


「済まないね、アスク。そちらの使い方はわからないよ。ここにあるパネルを操作すれば良いのかな?」


「ああ、その通りさ。白いパネルが魔力補充と開始用のパネル。透明のパネルは魔力の残量で、溜まっていれば黄色く光る。そして、使用を止めたい時には灰色のパネルに触れれば良いんだ」


 魔力と言う言葉に戸惑いを覚えるが、使い方は至ってシンプルな様だ。私は試しに流し台の白いボタンに触れた。


 すると、透明なパネルがほんのりと黄色く光り、流し台の中央に、フワフワと浮く水球が現れた。


「なるほど、こういう感じなんだね。私の世界では、管から水が流れ続けていたんだけどね」


「そうなのかい? 大量に水を流す必要があったのかな? それとも水量が出ないのかな?」


 アスクからすると、水が流れ続ける状況が理解出来ないみたいだ。確かにあれは水が潤沢な環境だからこそで、随分と無駄が多かったのかもしれない。


 私は灰色のスイッチに触れて魔道具を停止される。すると、浮いていた水はバシャリと落ち、排水溝へと流れて行った。


「うん、使えそうだ。これなら料理は問題無さそうだね」


「それは良かった。後は調味料に塩が使えるよ。ハーブが欲しければ、リリィに相談してくれ。今すぐは無理だけど、油も相談すればリリィが絞ってくれるはずさ」


 アスクの説明になるほどと頷く。塩が有るのはありがたいが、それ以外の調味料に少し確認が必要そうだ。ハーブはこれまで使った事が無いからね。


 流石に日本と同じ様に醤油はソースは手に入らないだろう。もし、長くこの世界に住む事になるなら、この世界の料理を知る必要があるかもしれない。


「それと、アスク。一つ聞いて良いかな?」


「勿論さ、ケンジ。何でも聞いておくれよ」


 私の問い掛けに小気味よく反応するアスク。彼の陽気な口調は、何故か私の心を弾ませてくれる。


「屋敷全体もそうだけど、随分とキッチンが綺麗だね。屋敷の掃除はアスクがしているのかい?」


「僕には手が無いからね。出来る事なんておしゃべりくらいさ。掃除はブラウニーがやってるよ」


「ブラウニー?」


 聞きなれない名前である。勿論、お菓子のブラウニーなら知っているが、状況的にはお菓子のはずが無い。


 もしかすると、そう言う名前の人物がいるのだろうか? そう首を傾げていると、アスクが不思議そうに尋ねて来た。


「家妖精のブラウニーさ。そちらには居ないのかな? 勝手に家に住み着いて、勝手に家の手伝いをしてくれるんだ。長く居付いて貰うには、部屋の隅に食事を置いておくと良いって言われてるね」


「家妖精のブラウニーかい? そもそも、私の世界には妖精が物語の中の存在だったからね」


 私の言葉にアスクが驚いた様子で、ビクリと鎌首を上下させていた。彼には表情が無いが、その行動で意外と感情が読みやすい。


「妖精が居ないのかい? なら、どんな生き物がいるんだい?」


「人間と動物は居るけど、魔法が存在しないからね。魔法を使う生き物は居ないよ」


「魔法が存在しないだって? それは随分と不便な世界からやって来たんだね……」


 アスクの同情的な声に、私は思わず笑ってしまう。彼からすると可哀そうと思える世界らしい。


「そんなに不便でも無いよ。魔法の代わりに、私の世界では科学が発展していてね。『十分に発達した科学技術は、魔法と区別がつかないほど進歩する』と言われていたね」


「ふうん、なるほどね。君達の世界では、その科学魔法ってのを使っている訳か」


 アスクは納得した様子だが、少しばかり誤解がある気がする。しかし、わざわざ訂正する必要も無いだろう。魔法に似た力を使っていたと考えるだけで十分だと思えたからだ。


 私は桶を取り出しいくつかの野菜を入れる。そして、流し台で水を満たし、野菜を洗い始める事にした。


「それで、ケンジ。その野菜をどう調理する気なんだい? 異世界の料理には少し興味があるね」


「残念だけど、ジャガイモを湯がいて、それ以外はサラダかな。今は手の込んだ料理は無理だね」


 調味料も無いし、何より私も腹が減り始めている。そろそろ何かを口にしたかった。


 ずっとジャガイモと生サラダでは飽きが来るので、ゆくゆくは何か考えて行きたいけどね。アスクの期待に応えるのは、もう少し先になるだろう。


「まあ、別に構わないよ。僕は蛇だし、人間の料理を食べれる訳じゃないからね」


「そうなんだね。アスクは普段、どんなものを食べているんだい?」


「僕は使い魔だから、食事は食べなくても平気なんだ。ただ、鳥の卵は大好物さ」


 なるほど、と納得する。確かに蛇が卵を丸のみにするイメージはある。人間みたいに調理は必要なさそうだ。


 そして、私はふっと養鶏なんて良さそうだなと思う。卵が手に入るなら私も食べたいし、アスクも喜んで食べるだろう。


 ただ、私はすぐに思い直して首を振る。そもそも、私はこの屋敷に住むかどうかも決まっていないのだ。


 アスクとリリィは歓迎してくれそうではある。しかし、この世界のルールとして、何か問題があるかもしれない。


 その辺りは、この後にアスクが説明してくれるのだろう。とりあえず、私は目の前の野菜を手早く調理し、朝食を済ませようと思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ