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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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セカンド・レッスン

 魔法の基礎については、無事にレクチャーを終える事が出来た。上手く伝わったとは思うのだけれど、イノはどちらかと言うと科学の話に興味を持っていた気がする。


 まあ、それが問題と言う訳では無いのだけれどね。私の体感からすると、科学の知識が深まれば、その分だけ魔法は効率良く使えるみたいだし。


 そして、私の少ない魔力が枯渇しそうなので、魔力を高める練習は終わりにする。続いては調合室に移動して、いつものポーション作りを始めるつもりだ。


「さて、今からポーション作りを始めるのだけれど……。その前に、セメレ。セメレの知っているポーション作りってどんなものかな?」


「私の知っている、ですか……?」


 私の問いのセメレは戸惑いを見せる。何故、素人の自分に尋ねたのかと思っているのだろう。


 けれど、先程は科学の知識を披露した際に、とても危険な会話が発生した。私の魔法が錬金術ではと、もの凄く警戒されてしまったのだ。


 それもあって、事前に確認をしておきたかった。この世界の一般常識として、余り逸脱した話をしない為にもだ。


 セメレは少し悩んだ後に、知っている知識を口にした。


「魔女や魔法使いの多くは、ポーション作りを得意としています。魔法を使えない人々は、怪我や病気を治す為に、彼等にポーションを求めます。ポーションの販売こそが、彼等の大きな収入源だと思われます」


 どうやら、ポーションは多くの魔法使いが作れるらしい。ならば、初球のポーションを作れる私は、特に逸脱した存在とはならないだろう。


「ただし、ポーションの効果も様々です。高名な魔女や魔法使い程、高い効果を持つポーションを作れます。素材やレシピは基本的に秘匿されていますが、特別なポーションを作る際には、供物を捧げて神への儀式も必要になるとか……」


 神への供物に、神への儀式? そういうポーションは、まだ私は理解していない。恐らくは、より上級のポーションと言う事なのだろう。


 私が作れるポーションは、本当に初級と言える物だけだ。ならば、イノ達に伝えたとしても、大きな問題にはならないだろう。


「ありがとう、セメレ。残念ながら、私は簡単なポーションしか作れなくてね。イノにはポーションの基礎だけを教える事になるね」


「わかりました。宜しくお願いします、お師匠様」


 私は緑の魔導書を手に取り、イノへと掲げて見せる。これにはケイローンが残した、各種ポーションのレシピが記載されている。


「まずはこのレシピ通りにポーションを作ってみよう。素材はリリィが全て栽培しているからね。この内容なら、いつでも作る事が出来るって訳だ」


 イノはコクリと静かに頷く。それは別に良いのだけれど、セメレは凄い目をして、喉をゴクリと鳴らしていた。


 まあ、何となくだけど理由は察している。この屋敷の環境が異常なのだろうと。それも全てはリリィのお陰だし、ひとまずそれには触れずに先を進める。


「ただ、レシピ通りじゃなくてもポーションは作れるからね? 言ってみれば、ポーションって魔力で効果を高めた薬なんだ。傷薬に魔力を込めれば、怪我治癒用のポーション。風邪薬に魔力を込めれば風邪治療用のポーションになるんだ」


「……お師匠様。ポーションとは、薬の効果を高めただけの物なのですか?」


「うん、その認識で合っているよ。だから、庭の薬草以外でも、効果があるならどんな薬草でも良いんだ。何なら体を温めるハーブに魔力を込めても良い。その場合は、防寒用のポーションが作れるね」


 イノは納得した表情で頷く。しかし、そのすぐ背後で、セメレは混乱した表情を浮かべていた。


「お、お待ちください、ケンジ様……。え、そんな単純な物なのですか……? ポーションとはもっと、神秘的な物と考えていたのですが……」


「知らないとやっぱり、そう思いますよね。一瞬で怪我が治ったりするから、特別な物だと思っても仕方ありません。けれど、私の体感だとポーションは簡単に作れる物ですよ」


 私の知るのは初級ポーションだからね。上級になると、作り方も変わって来るのかもしれない。


 けれど、普段使いするポーションはその程度だ。即効性を持たせた、傷薬に風邪薬と言った物である。


 ただ、セメレは信じられないと言った瞳で、そっとその視線を机上のアスクへと向けた。


「うん、ケンジの言う通りだよ? まあ、凄いと思わせた方が高く売れるからね。普通の魔法使いなら、こんなにアッサリと秘密を暴露しないだろうけどさ」


「嘘、でしょ……。だって、ポーションですよ……? 一つでも家が建つ、あのポーションが……」


 セメレの言葉に、私はギョッとなる。ポーションなんて私は毎日作って飲んでいる。ハッキリ言って、お手製の健康ドリンクぐらいの感覚だった。


 そんな物が一個で家が建つ程の値打ち物? いくら何でも、それはボッタくり過ぎでは無いだろうか……。


 けれど、私は昨日のセメレを思い出す。セメレは治療の対価に指輪を差し出そうとした。それを私が断ると、より高価なネックレスを差し出そうとしたのだ。


 そして、私はそこで気付く。だから、イノを魔女に育てると言った際に、セメレは自分の全てを差し出そうとしたのだと。


 ポーションを作れる様になれば、それだけで億万長者の未来が確定するのだ。そんな知識を得る為ならば、そりゃあ王族だって金銀財宝を貢ぎもするか……。


「ま、まあ、それはともかく。ポーションと言う物を、それ程難しく考えなくて良いよ。イノもすぐに作れる様になれるからね?」


「はい、わかりました。お師匠様」


 私の言葉にイノは素直に頷く。どことなく、キラキラした目で私の事を見つめ続けていた。


 私は何だろうかと不思議に思って首を傾げる。すると、イノは嬉しそうに笑みを浮かべてこう言った。


「私は本当に幸運なのだと理解しました。この様な優れた師匠に師事出来たのですから」


「ははは、それは流石に持ち上げ過ぎだよ。私なんてそんな凄い人間では無いからね?」


 私は本心でそう言ったのだけど、イノは満面の笑みで頷いた。どうも、言葉通りには受け取って貰えていない気がする。


 そして、その背後ではセメレが顔を真っ赤にしていた。口元を両手で隠しながら、惚けた様な表情でこちらを見ている。


「えっと……。それじゃあ、実際にポーションを作ってみるね。二人は椅子に座って見ていて貰えるかな?」


 私は二人に椅子を勧めつつ、いつも通りにポーションを作り始める。やっている事なんて本当に簡単な物だ。レシピ通りに素材を混ぜて、煮だしたエキスに魔力を込めるだけ。


 けれど、二人の熱い視線がずっと私を見つめ続ける。何だか落ち着かないなと思いつつも、私はいつも通りにポーションを作り上げるのだった。

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