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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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挨拶

 朝食を終えた後、私はセメレとイノを連れて庭に出た。庭で挨拶をするだけなので、アガウエとライオス君には残って朝食を取って貰っている。


 そして、私は庭に出るとすぐにリリィを発見する。今は植物の状態を確認する為、朝の見回りの最中らしかった。


「おはよう、リリィ。イノを紹介させて貰えないかな?」


『おはよう、ケンジ! 病気の子は元気になったのね!』


 リリィは笑みを浮かべ、するするとこちらへやって来る。彼女は下半身が花なのだけど、どういう原理か滑るように地面の上を移動するのだ。


 私はリリィがやって来ると、振り返って二人を見る。昨日、セメレは軽く紹介したが、やはりリリィを前にすると緊張感を滲ませる。


 本来のドライアドは恐ろしいモンスターらしいので、彼女の反応も仕方が無いのだろう。


 ただ、イノには緊張感が感じられなかった。不思議そうにリリィを観察しているだけだ。私はそれを意外に思いつつ、リリィへとイノを紹介する。


「昨日も軽くは説明したよね? 彼女はセメレの子でイノと言う。私が魔法を教える事になったんだ」


『聞いているわ! 何だか懐かしいわね! ケイローン様が沢山の子を育てていたのを思い出すわ!』


 リリィはニコニコと笑みを浮かべている。それは楽しい思い出だったのだろう。彼女からは嬉しそうな雰囲気が溢れ出していた。


 そんな彼女の空気に当てられたのだろう。イノは一歩前に出ると、楽しそうに笑いながら頭を下げた。


「初めまして、イノと申します。昨日はポーションの素材をご用意頂き、誠にありがとう御座いました。これからは仲良くして頂けますと嬉しいです」


『はじめまして、イノ! 私はドライアドのリリィよ! 午前中は植物のお世話をして、お昼は日向ぼっこをして過ごしているの。時間は沢山あるから、時間がある時にお話ししましょうね♪』


 リリィはドライアドだからだろう。かなりの広さを持つ庭を、午前中に手早く処理してしまう。それぞれの植物に対して、最適な環境を即座に用意してしまうのだ。


 その有能さもあって、お昼からは暇を持て余してしまう。私がここにやって来てからは、ずっと午後からお茶会を催しているので、最近は毎日が楽しいと話していたが。


 きっとイノもお茶会に参加すれば、すぐにリリィと打ち解けるだろう。アスクともすぐ仲良くなった彼女だ。人懐っこいリリィとだってすぐに仲良くなれるはずである。


「次はアステリオスだ。リリィ、彼はもうすぐやって来るかな?」


『うん、もうそろそろだね。それじゃあ、皆で待ちましょうか!』


 リリィが先導して進み出したので、私達はその後を付いて歩く。そして、鉄格子の柵まで移動した。


 そして、数分ばかりリリィと話していると、茂みの奥からアステリオスが顔を出した。


「ご主人様……。何か、用ある……?」


「おはよう、アステリオス。君にイノを紹介しておきたくてね。こちらがイノで、昨日から私の弟子になったんだ」


 私の紹介を聞いて、アステリオスが視線を下ろす。大男である彼からすれば、イノなんて手のひらの乗せれる程の小ささに思えた。


 けれど、イノは恐れる事無く前に出る。そして、笑みを浮かべて頭を下げた。


「初めまして、アステリオス様。昨日は私をここまで案内して頂き、誠にありがとう御座いました。お陰様でこうして、無事に生き延びる事が出来ました」


「良かった……。子供、元気なった……。俺、嬉しい……」


 アステリオスは身を屈め、視線をイノのすぐ側に寄せる。牛の頭を持つ彼は、表情を読む事が難しい。けれど、きっと彼は笑顔なのだろうと私は思った。


 そして、イノも同じくアステリオスの好意を感じたのだろう。彼女は柵に身を寄せ、手を伸ばしながら彼に問い掛けた。


「アステリオス様、お顔に触れても宜しいでしょうか?」


「構わない……。けれど……。俺の事、怖くないのか……?」


 アステリオスは困惑しながらも、触れる程に顔を柵に寄せた。すると、イノは躊躇う事無くその頬に触れた。


「温かいですね……。とても勇ましい体ですが、その心はとても優しいのだと感じます……。これから、どうぞ宜しくお願いします」


「こちらこそ、宜しく……。俺、イノが好き……」


 やはりと言うべきか、イノはアステリオスともすぐに打ち解けた。これは幼さ故だろうか? 人間以外への偏見や恐怖心が、彼女には余り見られないのだ。


 そして、イノの行動は私だけが驚いている訳では無い。母親であるはずのセメレさんすら、先程から目を丸くしている。


 リリィやアステリオスが怖くないのかと、本人の前で聞く訳にもいかないからだろう。今の所はハラハラしながら、娘のやる事を見守っているだけだったが。


 イノが手を離し、二人の挨拶は終わったらしい。私はそれを確認してから、アステリオスへと声を掛けた。


「アステリオス、一つ頼みがあるんだ。この後、ライオス君に狩猟を頼むつもりでね。彼に森の案内と、モンスターからの護衛をお願い出来ないかな?」


「わかった……。ライオス、昨日の男……。俺、覚えている……」


 アステリオスは快く依頼を受けてくれた。これで後は、ライオス君が出かける際に、もう一度引き合わせるだけで良いだろう。


 用事も済んだし、そろそろ屋敷に戻るかと考えていると、それまで黙っていたリリィが不思議そうに問い掛けて来た。


『ねえ、ケンジ。アスクはどうしたの? 珍しく一緒じゃ無いけど』


「ああ、彼なら、アガウエとライオス君の相手をしてくれているね」


 私がセメレとイノの相手をしているので、その間はアスクがアガウエさんとライオス君の話し相手になってくれている。


 アスクと会話をしていれば、二人もより早く屋敷に馴染めるだろう。本当に彼の気遣いには、いつも助けられているよ。


『うん、そっか。ちなみに、ケンジ。午後のティータイムには、皆も参加するんだよね?』


「うん、私はそのつもりでいるね」


『ふふっ、そっか。なら、皆の分もハーブを用意しておかないとね♪』


 ウキウキした様子で、リリィはハーブの厳選に向かう。どうやら、新しい住人との会話を、彼女はとても楽しみにしているみたいだった。


 世間一般ではドライアドを、人喰い植物として恐れているらしい。けれど、彼女しかドライアドを知らない私には、それがとても信じられなかった。


 ただ、信じられない目でリリィを見つめるセメレ。嬉しそうな笑みでリリィを見つめるイノ。二人の態度から、何となく察する事が出来た。


 セメレの反応こそが、ここの社会では正常なのだろう。けれど、この屋敷に限って言えば、イノの反応こそが好ましいものなのだとね。

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