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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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朝の出来事

 昨日は大掃除で体を動かしたからだろう。昨晩はぐっすりと眠れた。朝日が昇ると同時に、清々しい気持ちで目覚める事が出来た。


 そして、顔を洗おうと洗面所へやって来ると、そこには既に先客が居た。額に汗をかきつつ、困り顔で立っているライオス君だった。


 ライオス君は私の姿に気付き、パッと笑顔で挨拶をくれる。


「おはようございます、ご主人様。今朝も良い朝ですね」


「おはよう、ライオス君。あっ、もしかして水を使いたかった?」


 この屋敷は元の世界と同水準で設備が整っている。しかし、それを動かすには魔力が必要であり、ライオス君には魔力が無い。つまり、私が魔力を補充しないと水も出せないと言う事だ。


 私が洗面所のパネルに魔力を補充すると、ライオス君は恐縮しながら頭を下げた。


「お手数をお掛けして申し訳ありません。朝の鍛錬の後に顔を洗おうとして、初めて使えない事に気付いたのです」


「こちらこそ申し訳ない。普段、自分では当たり前に使っていたから、そこまで気が回っていなかったよ」


 私は魔力の補充が終わり、ライオス君に洗面台を譲る。彼は恐縮しながら手拭いを濡らし、顔や体を拭き始めた。


「となると、台所も補充しないとな。アガウエさんが朝食の準備に困ってしまうね」


「申し訳ありませんが、お願い出来ますか? 恐らく、母も困っていると思います」


 私が笑顔で頷くと、ライオス君はホッとした表情を浮かべる。未だ恐縮した所はあるけど、それでも昨日よりは気楽に話が出来る様になったな。


 やはり、昨日は一緒に掃除をしたのが大きい。一緒に仕事をすれば、お互いに仲間意識も芽生えると言うものだろう。


 私が腕を組んで頷いていると、ライオス君は不思議そうに私を見つめていた。けれど、ふと何かを思いついたみたいに、私に問い掛けて来た。


「そういえば、ご主人様は髭を剃らないのですか? 意図して伸ばしている様にも見えないのですが」


「えっ……? この辺りの文化として、髭は伸ばすものじゃないのかな……?」


 私はアスクにそう聞かされている。だからこそ、髭を剃るのは諦めて、伸びるままにしていたのだ。


 けれど、ライオス君は不思議そうに首を傾げて、私にこう説明してくれた。


「権力者の方々は、威厳を示す為に伸ばしますね。けれど、ご主人様は権威に興味が無いのですよね? であれば、今の白黒の状態で伸ばすより、剃ってしまった方が良いと思いますよ」


 言われて私は自分の髭に触れる。昨日、初めて知ったのだけど、私の髭は根本だけ黒色になっている。


 元々は白髪白髭だったけど、若返りの影響で毛が黒色に戻ったのだ。髪の毛は剃る訳に行かないけれど、髭は剃ってしまって良いかもしれない。


 ライオス君の言う通り、私は威厳を示したくて髭を伸ばしてる訳じゃないからね。


「――あっ、そうだった。髭を剃りたいけど、髭剃りが無いんだよね。う~ん、どうしたものか……」


「それでしたら、私のナイフを使いますか? 予備もありますので、そちらをお譲りしますよ?」


 ライオス君の提案に、私は腕を組んで思案する。剃刀では無く、ナイフを使って剃るらしい。正直言って、上手く剃れる自信が無い。


 けれど、ライオス君はとても気遣いの出来る青年だった。困っている私に対して、笑顔でこう提案してくれる。


「そういえば、この屋敷には鏡がありませんでしたね。慣れていないと肌を傷つけてしまいます。宜しければ、私がご主人様の剃毛を担当致しましょうか?」


「……良いのかな? ライオス君にそんな事を頼んでも」


「ええ、勿論です。軍隊では上官の髭を剃る事があります。そう言った事態に備え、私も練習していました。なので、ご主人様の肌を傷付ける事はありませんよ」


 何と言う事だろうか。ライオス君は床屋さんの真似事まで出来るらしい。幼少期から訓練を受けていたとは聞いたが、これ程までに多芸だとは思っていなかった。


 今日は朝からアステリオスに同行し、狩猟に出て貰う事にもなっている。我が家の肉を確保してくれるだけでなく、私の身の回りまで面倒を見て貰えるなんて……。


「……ライオス君。それではお願い出来るかな? 君には色々と教えて貰う事が多そうだ」


「はい、畏まりました。私でお役に立てる事があれば光栄です」


 私が右手をすっと差し出すと、彼は驚いた後に両手でしっかり握りしめた。握手と言う文化が通じて本当に良かった。


 彼の笑みを見る限り、これはかなり打ち解けたと言って良いだろう。会社務めの時なら、新人社員ともいえる年の青年。その彼と打ち解けられた事が、私には無性に嬉しく感じられた。


 ただ、彼はあっと声を出した後、恐縮した顔でこう告げた。


「ご主人様の髭を剃るのは、腰を落ち着けての方が良いのですが……。その前に、台所をお願い出来ますか?」


「あっ……」


 そういえば、アガウエさんが台所を使えず困っていると言う話だった。こんな所でのんびりと、打ち解けている状況では無かった。


「それじゃあ、ちょっと待って貰えるかな? すぐに台所に行ってくるから」


「いえ、私も同行させて頂いて良いですか? 母に朝の挨拶を行いたいので」


 どうやら彼は、母子の仲も良好みたいだ。見た目だけでなく、会話からもわかる好青年っぷり。きっと彼はどこの職場でも、可愛がれる人材なのだろうね。


 私は彼の好感度を高めつつ、彼と共に台所へ向かう。そして、アガウエさんに挨拶しつつ、魔道具の魔力を補充した。そして、これからは毎朝私が補充して回る事を、アガウエさんに説明する。


 親子揃って恐縮していたけれど、最後には笑顔で感謝された。やはり、人から感謝されるは気分が良いものだな。


 その後、私は洗面所に戻ってライオス君に髭を剃って貰った。当然ながら私も、彼へとしっかり感謝の気持ちを伝えておいた。

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