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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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長い一日

 あの後、皆の寝室を用意する為、慌てて掃除を始めたりした。日が暮れるまでには、何とか全員分の寝床は確保出来た。


 そして、日が暮れてから軽めの夕食となり、その後はシャワーを浴びて、それぞれ寝室に向かった。


 ただ、私も疲れてはいたのだけれど、アスクと二人で調合室にやって来た。今日の出来事について、アスクと少し話しておきたかったからだ。


 私は椅子に座って一息付く。そして、テーブルの上のアスクに話しかけた。


「今日はありがとう。アスクのお陰で色々と助かったよ」


「なあに、僕はお喋りをしていただけさ。王女達を助けると決めたのも、実際に助けているのもケンジなんだからね?」


 アスクの態度はいつも通り。陽気な口調で自分は何もしていないと言う。


 けれど、流石に今日のはいつも通りとは言えない。決定したのは私だとしても、その選択肢を用意したのは全てアスクだ。私の望む答えを、全て彼が考えてくれたのである。


「……それでも、ありがとう。アスクが居てくれて本当に助かっているよ」


「そうかい? まあ、ケンジが喜んでくれているなら、僕もお喋りのし甲斐があるってものさ」


 やはり、アスクは軽く流してしまう。このスタンスを崩すつもりは無いのだろう。私は諦めて話題を変えた。


「今日は私がセメレを受け入れると決めただろう? それについて、アスクはどう考えているんだい?」


「僕がどう考えているか? それって重要なのかな? 僕のやる事は、ほんのちょっぴりの助言くらいさ。僕としてはケンジが好きに生きたら良いと思っているよ?」


「……私の寿命を勝手に伸ばしておいて?」


「ははは、それを言われるとちょっと弱いね」


 そう、私は不老長寿の霊薬(エリクサー)とやらを、知らずに飲まされて続けていた。魔法の練習後に魔力回復のポーションと偽ってだ。


 つまり、私が早死にしようと、どうでも良いとは思っていない。早く死なれては困る理由があるはずなのだ。けれど、アスクはその理由を話す気が無いみたいだった。


「ちなみに、あの不老長寿の霊薬について聞いても良いかな?」


「あれはもう再現不能な品だね。今の(・・)ケンジが知る必要は無いよ」


 やはり、これについても答えてはくれない。何となく含みのある言い方だから、状況が変われば教えてくれるのかもしれないけどね。


 私はこの質問も諦める。そして、私は色々と悩んだ挙句、改めてアスクに問い掛けた。


「ねえ、アスク。本当に私にやって欲しい事はないのかな? アスクの望みがあるなら、それを教えてはくれいないかい?」


「何度も言っているだろう? 僕の望みはケンジが好きに生きる事だよ。心の赴くままに生きて欲しいんだ。それ以外に望み何てありはしないよ」


 好きに生きたら良いと言う、いつも通りのアスクの言葉。けれど、この時の私はふと思い違いをしているのではと思い至った。


 私が何を選択しようと関心が無いのではない。私が自由に生きる事がアスクの望み。彼はこれまでも、そう言っていたのではないだろうか?


 そういう視点で捉えると、アスクの言葉の意味が少し違って来る。


「……例えば、私がセメレと結婚し、イノを自分の娘にして、幸せな家庭を築きたいと言ったら?」


「良いじゃないか、ケンジ! やっとケンジにも、やりたい事が見つかったんだね! 当然、僕もリリィもアステリオスも応援するよ!」


 嬉しそうに答えるアスクに、私はやはりそうかと納得する。アスクの望みは恐らく、私が幸せに生きる事だ。けれど、それはそれで良くわからない。


「どうして、アスクはそこまで私の事を思ってくれるんだい? 私はアスクに何かしたかな?」


「いや、特に理由は無いよ? ただ、ケンジを一目見て、幸せになって欲しいと思った。そこには深い理由なんて無いんだ」


 アスクの声を聞き、これは本心なんだろうと思えた。何かを誤魔化しているのでは無い。そんな雰囲気を感じ取った。


 そして、そう言われるとこれ以上の追及も出来ない。直感的に感じた事に対して、意味を説明する何て出来ないだろうからね。


「……ねえ、アスク。私にイノちゃんの師匠なんて務まるのかな? 私だってまだ魔法は練習を始めたばかりなんだよ?」


「勿論、ケンジなら出来るさ。自分がどうやって覚えたか、それをイノに伝えれば良いんだ。理屈を考えるのは得意なんだろう? 案外、ケンジは良い先生になれると思うんだけどね」


「そう言えば、私は理屈っぽい老人だったね」


 私は以前にアスクに言われた言葉を思い出した。私がくすりと笑うと、アスクも楽しそうに笑ってくれた。


 思えば私はまだこの世界に来て十日しか経っていない。まだまだ、この世界では手探り続きの状態なのである。


 それなのに婚約者が出来て、小さな弟子まで出来てしまった。異世界にやって来た事もそうだけど、人生とは何が起こるかわからないものである。


「はぁ、今日は本当に疲れたね……。何だか長い一日だったよ……」


「ははは、たまには良いと思うよ? 刺激の無い人生なんて、退屈なだけだと思うしね」


 私は同意して頷く。確かに私は元の世界で、とても退屈な人生を送っていたと思う。


 それに比べれば、こちらでの十日間が何と充実していた事か。一秒だって退屈だと感じた事が無い。


「うん、確かに今日も楽しい一日だった。それでは、お休み、アスク」


「お休み、ケンジ。明日もきっと、刺激的で楽しい一日になるはずさ」


 私はアスクに挨拶をして急ごしらえの寝室へと向かう。元々の部屋はイノちゃんが眠っているからね。


 そして、アスクはするすると壁の穴に消えて行く。そういえばアスクは、どこで眠っているのだろうか?


 また今度、機会があれば聞いてみよう。そう思いながら、私の長い一日は終わりを迎えた。

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