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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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護衛の青年

 イノちゃんの食事を頼もうと、私はアスクと共にリビングへ降りた。目的のアガウエさんは、ライオス君と共に食事を終えた所であった。


 私がイノちゃんの事を伝えると、アガウエさんは笑顔を浮かべて一礼する。


「畏まりました、ご主人様。それでは私は食事の準備に向かいます」


 気付くと呼び方が変わっていた。まあ、魔法使い様でも、ご主人様でも大差無いから構わないけど。


 アガウエさんは手早く食器を纏め、キッチンへと向かう。そして、リビングには私とラオス君が残された。私は改めてライオス君の姿を確認する。


 二十代前半の金髪碧眼で、がっちりした体格。日に焼けたような褐色の肌はエチオピアの血が混ざっているからみたいだ。顔立ちの整った好青年で、パッと見はスポーツマンに見える。


 ただ、腰には剣をぶら下げており、すぐ近くに盾も置いている。その辺りは護衛であり、やはり戦う人なんだなと思わせた。


 そんなライオス君だが、私に見つめられて緊張した様子である。私は少し打ち解けて欲しいと思い、彼の向かいに腰かけた。


「ライオス君、で構わないかな? これまでずっと、セメレの護衛を務めていたんだよね?」


「そ、その通りです。テーバイ王国を出立して五年。姫様の護衛を務めさせて頂いております」


 相変わらず緊張したままだけど、ライオス君は丁寧に返事を返してくれる。特に無口でも無さそうでホッとしつつ、私は彼に話しかけ続けた。


「護衛はずっと一人だったのかい? 長旅だったし大変じゃ無かった?」


「護衛は一人ですが、大変と言う程では……。その、私の家系は軍神アレス様を信仰する、戦士の家系なのです。特に私は姫様を護衛する為に、幼少期からあらゆる訓練を積んでおりますので」


 軍神アレスと言えば、ゼウスとヘラの子供だな。オリュンポス十二神の一柱である。アスクから聞いたのを覚えている。


「それに国を出る際に、いくつか宝具を預かっております。私が持っているのは怪力を得られる腕輪と、鉄をも斬れる剣です。これらの助けもあり、野盗や野生の獣程度は容易に対処出来ます。……まあ、流石にモンスターの相手は荷が重いですけどね」


 自分の分野の話だからか、少し緊張が解けた様子のライオス君。笑みを浮かべながら、右手の腕輪と腰の剣を見せてくれる。


 そして、私が興味を持って眺めていると、それまで静かだったアスクが身を乗り出した。


「ふむ、モンスターの相手が厳しいと言う事は、神々の由来では無さそうだね。それは錬金術師が作った品々かな?」


「お分かりになりますか? 私の所持する品は錬金術師の一品となります。姫様が所持する『姿を隠す羽衣』は、魔女キルケー由来の品と聞いておりますが」


「……そうか。魔女キルケ―の品なら中々の物だね」


 何故だろうか? ほんの一瞬だけど、アスクが言葉に詰まった気がする。魔女キルケーの名に反応したし、それ絡みで何かあるのだろうか?


 まあ、それはさて置き、『姿を隠す羽衣』なんて物もあるんだね。確かに姫様の旅には必要な品だろう。そうでなければ、ライオス君も安心して戦えないだろうしね。


「そういえば、君は弓を使えるのかい? もし使えるとしたら、狩猟なんか出来ないかな? 出来たら今後の食卓がより豪華になるのだけどね」


 アスクの問い掛けに、私はハッとなる。今日はたまたまアステリオスが鳥肉を手に入れてくれた。けれど、私にとっては久々の動物性たんぱく質だった。


 ライオス君が弓を使えて鳥や獣を狩れるなら、今後はより安定して肉が食べられる。それは私としてもとても助かるスキルである。


 どうなのだろうと、私は期待して身を乗り出す。すると、ライオス君はニコリと微笑んだ。


「ええ、当然使えますよ。むしろ、道中は私が食料を確保しておりました。他にも野盗を狩って路銀を稼いだり……。――あっ、これは言うべきじゃなかったかな……」


 ライオス君はしまったと言う顔で、慌てて口元を手で隠す。何やら彼にとっては失言だったらしい。


 私は何が問題だったかわからず首を傾げる。すると、アスクがライオス君に問い掛けた。


「実は路銀が乏しい事を、隠しておきたかったって所かな?」


「……ご名答です。王家に連なる者が、お金に困っていたとは見聞が悪いですしね」


 ライオス君は観念したように告げる。ただ、彼にとっては失態だったらしく、目に見えて肩を落としていた。


 それ程気にしなくてもと思っていたら、アスクが私に対してこう説明してくれた。


「王女が身に付けていた装飾品があるだろう? アレは王族としての威厳を見せる為に、最後に残した財産だったんだろうね」


「そうなのかい?」


「ああ、それすら失うと王女の身分を証明する術を失う。彼女はそれをわかって、ケンジの前では全て身に付けていた。そして、イノの治療の対価に差し出そうとしていたんだよ?」


 私はアスクの説明に納得する。確かにあの装飾品があったからこそ、私は一目で彼女が二人の主人だと理解した。


 それはセメレにとって最後の切り札。交渉時に切れる、唯一の手札だったのだ。それを私に差し出そうとしていたのは、相当な覚悟だったと言う事だろう。


 それをわかっていなかった事に、私は今更ながら申し訳ない気持ちになる。そして、ライオス君と共に肩を落としていると、アスクは彼へと慰めの言葉をかけた。


「ああ、ライオス。先程の話だけど、今回の場合は失態と思う必要は無い。何せケンジには権威なんて通じないんだ。そんな物で交渉するくらいなら、素直に事情を話して、誠意を示す方が賢明だよ?」


「……ご忠告痛み入ります。アスク様は私等より、よっぽど賢人なのですね」


 私は同意して頷く。アスクは本当に賢い。私とは比べ物にならない程に。


 賢者ケイローンの使い魔だったからだろうか? これ程に賢い人物は、元の世界を含めても出会った記憶が無い程だ。


 けれど、アスクはいつも通りの陽気な口調でこう返した。


「ははは、そんな事はないよ。僕は蛇だからね。出来るのはお喋りだけ。舌だけは良く回るけどね?」


 アスクはそう言いながら、舌をチロチロと出して見せる。その動作だけを見えると、やっぱり蛇なんだなと思わせるものだった。


 けれど、こんなに賢い蛇が居るはずがない。というか、普通の蛇は喋りすらしないしね。


 私とライオス君は見つめ合う。そして、思わず互いに苦笑を浮かべるのだった。

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