金瞳の少女
雑談を続けて昼食を食べ終わる頃、リビングにライオス君がやって来た。もうそろそろ、食事を交代してあげないとな。そう思う私に、彼は一礼するとこう告げた。
「イノ様が目を覚まされました。見知らぬ場所に不安がっており、セメレ様を求めております」
体力回復ポーションを飲ませた後、イノちゃんはそのまま眠りについた。その為、ライオス君に看病を任せて、私達は食事となった訳である。
眠る前も高熱で意識が朦朧とし、状況が良くわかっていなさそうだった。意識がハッキリしたなら、現状を教えてあげるべきだろう。
セメレも同じく考えたらしく、私に同意を得る為に問い掛けて来た。
「わかりました。ケンジ様、宜しいでしょうか?」
「ええ、勿論です。私も一緒に参りましょう」
話の流れとしては、私はイノちゃんの魔法の師匠となる。もし、話が出来そうであれば、一言挨拶をしておきたい。
セメレはニコリと微笑み、私の同行を反対しなかった。その為、私とセメレは二階の寝室へと向かう。
ちなみに、アガウエさんとライオス君には、今の内に昼食を食べて貰う事にした。もう既におやつの時間と言える程に、遅い時間にはなってしまったけどね。
それと、アスクは私の腕に巻き付いて貰っている。一目で使い魔とわかるので、これでイノちゃんを怖がらせずに済むだろうとの事だ。
「イノ、入りますよ?」
セメレが軽くノックをすると、擦れる程の小さな声が返って来た。ライオス君の言う通り、意識はあるみたいだな。
セメレは扉を開いて先に寝室へと入る。そして、私とアスクもそれに続いて部屋へと入った。ベッドの上で横たわる少女は、まだ赤い顔で不思議そうに私達の事を見つめていた。
「良かったわ、イノ。少し顔色が良くなったみたいね?」
「はい、お母様……。そちらの御方は……?」
イノちゃんは亡くなった私の娘と同い年に見える。恐らくは五歳程の幼女なのだが、随分と言葉がハッキリしていた。私が軽く驚いていると、セメレは私に手を向け娘にこう紹介した。
「この屋敷の主である魔法使い様で、貴女の治療をして下さった御方よ? そして、貴女の新しパパでもあるわ」
「待って、待って! まだ婚約者! パパでは無いからねっ?!」
私が慌てて否定すると、セメレはくすっと笑う。その様子からすると、私はからかわれているのかもしれない。けれど、イノちゃんは驚いた表情を浮かべた後、パッと顔を輝かせて口を開いた。
「お母様、ご婚約おめでとう御座います! イノも嬉しく思います!」
「ありがとう、イノ。パパは少しばかり、先走り過ぎたみたいですね」
セメレがどこまで本気かわからないけど、微笑み合う母娘に水をさすのも忍びない。私は苦笑しつつ、そこにはそれ以上口を挟まない事にした。
代わりに、一歩前に出て軽く会釈する。そして、自らの胸に手を添えて、イノちゃんへと自己紹介を行う。
「私の名前は中村賢治。皆にはケンジと呼ばれているね。遥か遠い地からやって来た魔法使いなんだ。そして、今日から君の師匠になる者でもあるよ」
「私の、師匠ですか……?」
「ああ、そうだよ。君の体には半分神の血が流れているだろう? 君が魔法を使える様になり、一人前の魔女になるまで、私が面倒を見る事になったんだ」
私の言葉を聞いたイノちゃんは、ハッとした表情を浮かべる。そして、真剣な眼差しで私の顔を凝視し出した。
彼女の反応に私は戸惑う。それと同時に、彼女の瞳が特徴的な金の瞳である事に気付く。それはゼウスの血を引く為か、とても力を感じさせる瞳で合った。
イノちゃんは少ししてから姿勢を正す。そして、綺麗なお辞儀で私に頭を下げた。
「ありがとう御座います、お師匠様。至らぬ身ではありますが、精一杯精進致します」
「いや、全然至らなく無いと思うよ? その年でそれだけ話せる事に驚きなんだけど」
私が半ば呆れた口調で告げると、頭を上げたイノちゃんはくすっと笑った。まだまだ幼い少女だけれど、その笑顔はどことなく母の面影を感じさせた。
そして、私の挨拶が終わった所で、腕に巻き付きアスクが陽気に話し出した。
「やあ、イノ。僕は蛇のアスクだよ。この屋敷の管理を任された使い魔さ。おしゃべりが大好きだから、話し相手になって貰えると嬉しいな」
「まあ、随分とお利口な蛇さんですのね。私はイノです。こちらこそ宜しくお願い致します」
イノちゃんは微笑んで挨拶を返す。アスクに対して怖いと言う感情は持っていないみたいだった。
私はその事にホッとしつつ、イノちゃんに対して説明を行う。
「それと、この屋敷には後二人の使い魔が居てね。庭で植物の管理をしているドライアドのリリィ。それと、屋敷の警備を担当しているアステリオスだ。イノちゃんが元気になったら、また改めて挨拶して貰うからね?」
「はい、承知しました。皆様にお会いするのを、楽しみにしております」
丁寧に返事をするイノちゃんに、私は再び感心する。彼女は王族だから、教育が行き届いているのだろうか?
確かにテレビでも、天才子役はこの位ハッキリと話していた気がする。それらの子と同水準に、賢い子と思えば良いのかな?
「所でイノちゃん。食欲はあるかな? もし食べれそうなら、アガウエさんに声を掛けて来るよ」
「そうですね。少しお腹が空いています。少なめに何か頂けると嬉しいです……」
私の問い掛けに、イノちゃんは躊躇いがちに答える。私は頷きを返すと、セメレに視線を向けた。
「それでは、私はアガウエさんにお願いしに行きます。セメレはこのまま、イノちゃんの看病をお願い出来ますか?」
「はい、ケンジ様。お気遣いありがとう御座います」
セメレはそう告げながら、そっと身を寄せ私の手を握る。王女モードのはずなのに、積極的なスキンシップは変わらないみたいだ。
せめて娘の前では自重して欲しいものだが……。そう思って一歩身を引くと、セメレは寂しそうな上目遣いで私を見る。
艶めかしい視線に、私は思わず目を逸らした。しかし、その先でイノちゃんと目が合う。彼女とはとても楽しそうに、私達のやり取りに笑みを浮かべていた。




