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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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準備の合間に

 アガウエさんとリビングに戻ると、セメレ王女はアスクと二人で話していた。


 そして、私はアガウエさんの息子、ライオス君が居ない事に気付く。不思議に思っていると、アスクが私に教えてくれた。


「ああ、彼なら寝室さ。イノの看護に一人は付いていた方が良いだろう? まあ、様子は落ち着いていたし、念の為ではあるけどね」


 アスクの説明に納得する。彼もセメレ王女の従者である。主人の娘の看護を任されたと言う事だろう。


 ライオス君には申し訳ないが、私もセメレ王女とは話したい事がある。昼食は私達の話が終わるまで待って貰うとしよう。


 アガウエさんは料理をテーブルに並べる。私も手伝おうとしたが、それは止めて欲しいとお願いされた。主人の夫を働かせたとなると、彼女がセメレ王女に責められてしまうそうだ。


 私は待つ間にセメレ王女と話そうと、テーブルを挟んで彼女の反対側に座る。すると、彼女は腰を上げて、私の隣に移動してきた。


「……えっと、セメレ王女? 少々距離が近くないでしょうか?」


「そんな事は御座いません。私は婚約者です。この程度は普通の事です」


 キッパリと告げるセメレ王女。しかし、肩と肩が触れ合っている。彼女の呼吸を感じる程に、顔もすぐ側にあった。


 ハッキリ言って彼女は美人だ。映画に出て来る女優の様な、金髪碧眼の美女なのである。私は直視できずに視線を彷徨わせる。


 というか、私とセメレ王女は婚約者なのだろうか? 私は結婚を前提にお付き合いと言ったし、あながち間違いとも言えないが……。


「それと、私の事はセメレとお呼び下さい。なにせ、私達は婚約者なのですから」


「あ、はい、わかりました……」


 キッパリと告げられ、私は思わず頷いてしまう。婚約者である事を、重ねて主張されてしまった。


 後、さりげなく手を重ねて来るのも止めて欲しい。年甲斐もなく、ドキドキしてしまう。勿論、私の体は若返っている。年による不整脈ではない。


「あっ、それでは私の事も、ケンジと呼び捨てに……」


「それは出来ません。夫を呼び捨てにする等、余りにも不敬過ぎます」


 再びハッキリと告げられてしまう。本当に物をハッキリと言う子だ。私の周りには余りいなかったタイプだ。


 それは文化の違いなのか、彼女の性格故なのか。どうなんだろうと悩んでいると、それまで黙っていたアスクが口を挟んで来た。


「ケンジ、それは王女の言い分が正しいと思うよ。ケンジの国とは文化が違うかもしれない。けれど、この辺りの文化では、妻は夫を立てるものだ。来客があるかはわからないけど、他人が聞いたら耳を疑う事態になりかねない」


「なるほど。それなら、ここの文化に合わせるとしようか」


 まあ、日本も昔はそうだったみたいだしね。男尊女卑が当たり前の時代は確かにあった。


 アガウエさんと話していても、この世界はそれに近い文化なのだと感じている。あまり私の世界の価値観を、周りに押し付けるべきではないのだろう。


 お互いの呼び方については納得する。なので、私は聞きたかった本題をセメレに尋ねた。


「さて、セメレ。これからは一緒に暮らす事になる。色々と準備も必要だけれど、何か私に要望はあるかな?」


「――えっ? 要望……? では、ギュッとさせて下さい」


 セメレはそう言うと、許可する間も無く抱き着いて来た。私の胸にグリグリと額を擦り付けて来る。


「ちょ、ちょっと……! セメレ、何を……?!」


「ああ、ケンジ様! どうしてそんなにお優しいのですか! ここは本来ならば、私に要求を突き付ける場面でしょうに!」


 何故だか、逆ギレ気味に言い返された。私は唖然とし、ただセメレの好きに抱かれてしまう。そんな私達を見て、アスクは楽しそうに笑っていた。


「ははは、ケンジは無欲な人間だからね。周りに何かを施しはすれど、他人から奪おう何て考える人間じゃないのさ」


「何ですかそれは! そんな聖人、聞いた事もありません! そんなの好きになるに決まってるじゃないですか!」


 何故だかアスクは私を持ち上げるし、セメレも切れ気味に持ち上げる。私は慌てて二人に弁護した。


「いや、待って、待って。私はそんな聖人じゃないよ? ただ、意欲が枯れてしまった、のんびり生きたいだけのジジイだからね?」


「普通は年老いた権力者の方が、よっぽど顕示欲の塊ですよっ?! 無欲な老人なんて、居る訳がないでしょう!」


 ええっ……。何だか余計にキレられてしまったんだけど……。


 そして、そこはかとなく、セメレの言葉に闇を感じる。彼女も王族だったし、そういう闇を目にして来たのかもしれない。


「もうっ、ケンジ様のせいですよ! 私の情緒を返して下さい!」


「いや、そんなことを言われましても……」


 私の胸に額を擦り続けるセメレに、私は最早お手上げと言う状態だった。アスクに視線を向けるが、特に何のフォローの言葉も入れてはくれない。


 そして、アガウエさんが料理を手に持ち、リビングへと入って来る。私と目が合った彼女は、顔を綻ばせながら料理を並べてこう口を開く。


「あらあら、早速可愛がって頂いて♪」


「ははは、そんなつもりはなかったのですがね……」


 朗らか空気は嫌いでは無いけど、これではまったく話が出来ない。どうしたものかと溜息を吐く。


 私はやれやれと思って、セメレ王女の頭を撫でた。すると、彼女のグリグリが僅かに勢いを増してしまった。

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