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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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正午の出来事

 ポーション作りを終えた私は、アスクと共にキッチンへと移動する。今日はお昼に何を食べるかと考えながら、魔道具コンロの前で腕を組む。


 パンは今朝焼いた残りがある。そして、今日はアステリオスが持って来てくれた、鶏サイズの鳥の肉もある。何の鳥かは知らないけれど、血抜きや羽の下処理は終えてある状態だ。


「……どんな味かもわからないし、まずは足の一本を焼いてみようかな」


「うん、良いんじゃいかな? 一度に食べきれないだろうしね。残りは魔道具の氷室に入れておきなよ」


 アスクの言う氷室とは、魔力で動く冷蔵庫の事だ。朝に魔力を込めたので半日は冷たい状態が続く。


 夕方頃に魔力の再補充は必要だけど、そうすれば明日の朝まで冷やしておける。慌てて全てを食べきる必要は無いと言う訳だ。


 まあ、食べきれなければアステリオスにお裾分けをすれば良い。彼は食事を食べなくても良い体だけど、食事自体は美味しくて好きみたいだからね。


 私は羽が毟られてつるつるの鳥をまな板の上に置く。そして、包丁を握った所でアスクが鎌首を上げた。


「うん? リリィの呼ぶ声が聞こえるね。どうしたんだろう? 何か困ってるみたいだけど」


「リリィが呼んでいるのかい?」


 アスクは私を静かに見つめる。どうするかは任せると言う意思表示だろう。


 けれど、呼んでいるリリィを無視するなんて出来るはずがない。私は鳥を冷蔵庫に押し込み、アスクと共に玄関へと向かった。


『お~い、ケンジ~! お~い、アスク~! お願いだから、こっちに来てよ~!』


 玄関の近くまで来ると、リリィの叫び声が聞こえて来た。声からは緊張感が感じられない。余り慌てる様な内容では無いのかな?


 私とアスクは扉を開けて庭へと出る。すると、リリィがこちらに気付いて、パッと笑みを浮かべた。


『あっ、ケンジ! 来てくれたんだね! ちょっと困った事になったの~!』


「困った事? それはどんな困り事かな?」


 リリィはニコニコと微笑み、とても困っている風には見えなかった。けれど、ひとまずは内容を聞いてみるべきだろう。


 そして、私が尋ねるとリリィは外へと指を指した。柵のすぐ側にはアステリオスの姿が見える。


『なんかアステリオスが人間を連れて来たのよ。本来なら追い払うのがお仕事なのにね~』


「何だって、リリィ? アステリオスが人間を連れて来た? そんな事ってあるのかい?」


 リリィの説明にアスクが驚く。けれど、私は何をそんなに驚いているのか、いまいちピンと来なかった。


 そんな私の状態に気付いたアスクは、私に顔を向けて説明をしてくれた。


「アステリオスは前の主人の命令で、許可無き者を遠ざける役目を負っているんだ。アステリオスの性格からして、主命に逆らった行動を取るとは思えない。かといって、今はケンジが誰にも許可を出していないだろ? だから、僕には不可解な行動に思えた訳さ」


 アスクの説明で私もようやく理解した。真面目なアステリオスが、仕事に手を抜くとは思えない。


 ならば、何らかの理由があるのだろう。何にしても、まずは彼から話を聞かねばなるまい。


 私はアスクとリリィを伴い、柵の側まで歩いて行く。アステリオスは黙って私達を見つめていた。


「どうしたんだい、アステリオス? 何故だか人間を連れて来たって聞いたんだけど?」


 アスクが代表してアステリオスへ問い掛ける。すると、アステリオスはアスクを一瞥した後、私に向かって訴えかけて来た。


「人間、困ってる……。子供が死にそう……。判断、迷った……。だから、連れて来た……」


「えっ、子供が死ぬ? アステリオス、それはどういうことかな?」


 アステリオスは判断に困って、人間と連れて来たのはわかる。けれど、子供が死にそうとはどういう状況なのだろうか?


 けれど、問われたアステリオスは一歩身を引く。そして、代わりに場所を譲って、一人の女性へと手招きした。


 呼ばれた女性は柵の側までやって来る。そして、深々と私に頭を下げた。


「館の主人よ、お願いします……。どうか、館で休ませて頂けないでしょうか? 私の子が一昨日から熱を出し、このままでは衰弱して死にそうなのです……」


 唐突な女性のお願いに私は動揺する。しかし、すぐに彼女の腕の中に、小さな子供が抱かれている事に気付く。


 その子は母と同じく金髪で、パッと見た感じだと五歳程の女の子に見えた。


「――っ……?!」


 熱で苦しむその子の顔が、私には亡くした愛子に重なって見えた。


 目の前の子は西洋系の顔立ちで、顔や雰囲気が似ている訳では無い。けれど、どうしても愛子の死に際の顔がフラッシュバックしてしまったのだ。


 私は居ても立ってもいられなくなり、足元のアスクに視線を向けた。


「……ケンジが構わないなら、当然問題無いさ。お連れの方々も含めて、だけどね?」


 そこで私は初めて気付いた。彼女から少し離れた場所に、二人の人物が控えている事に。


 一人はそこそこ年のおばさんでであり、もう一人は体格の良い青年である。二人は緊張した面持ちで、私の事を見つめていた。


 そして、代表して女性が前に出た理由が何となく理解出来た。彼女は装飾品を身に付けており、二人に比べて明らかに身なりが良いのだ。


 従者では無く、主人自ら頭を下げる。そうやって彼女は、こちらに誠意を示している。ならば、私に断ると言う選択肢はなかった。


「どうぞ、中に入って下さい! 急いでその子を休ませましょう!」


 私は柵のスイッチに触れ、アスクに教わった開錠を行う。そして、扉へと変わった柵を開いて、私は三人を中へと招き入れる。


「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」


 子供の母親は顔を上げ、涙を浮かべて感謝を告げる。私はそんな彼女に頷いて見せ、三人を先導する様に屋敷へ向かった。


 この親子を助ける事に躊躇いは無い。けれど、どことなく警戒しているアスクの態度に、私は嫌な予感を感じていた。

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