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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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誓いの夜

 今日も一日、穏やかな時間が過ぎて行った。目覚めた後はパンを焼き、アステリオスにお裾分けをしながら朝食を食べる。


 午前中は魔法の授業にポーション作り。午後は菜園でリリィに魔法の農法を色々と教わった。


 今はシャワーを浴びて、後は寝るだけと言う状況である。私はベッドに一人腰かけ、ぼんやりとこれまでを振り返る。


「本当に、異世界なんだな……」


 屋敷の環境とアスクのサポートで、何の不自由も無く過ごせている。けれど、やはり魔法が当たり前で、元の世界とは色々と勝手が違っている。


 穏やかな時間に忘れがちだが、ここは森の中の洋館である。そして、森には獣だけでなく、モンスターと呼ばれる存在も徘徊しているらしい。


 私は魔法を身に付けないと、この屋敷から外に出る事すら出来ない。何の力も無い老人では、あっという間に獣かモンスターの餌になってしまう。


 その為に、私は魔法を習って自衛手段を身に付けようとしている。けれど、私は本当に外の世界に出る必要があるのだろうか?


「ここは、本当に居心地が良い……」


 屋敷の管理人であるアスク。庭の管理者であるリリィ。屋敷の番人であるアステリオス。誰もが善良で、心根の優しい人達である。


 ――いや、人では無いかもしれないが……。


 それはともかく、彼等は私の存在を快く受け入れてくれている。私も彼等と過ごす時間が心地良かった。まるで、彼等が私の家族であるかの様に……。


「――っ……」


 私はズキリと胸が痛み、思わず胸を押さえる。しかし、それは持病等では無い。私の心が抱く罪悪感から来る痛みだった。


 結婚してすぐに妻・幸子を亡くし、残された子・愛子も早くに失ってしまった。私だけが残されてしまった。彼女達に何も報いる事が出来ずにだ。


 良い夫にも、良い父親にもなれなった。そんな何者でも無い私が、こんなに幸せな余生を過ごしても良いのだろうか? この環境は私に相応しい物なのだろうか?


 もっと違う道もあったのではなかろうか? 妻や子を死なせず、彼女達を幸せにする道が。そんな後悔ばかりが、今も私の思考を縛り続ける……。


 私はベッドから腰を上げ、窓から空を見上げる。空には雲一つ無く、真っ暗な空には多くの星々が輝いていた。


「死んだら、星になるのだろうか……」


 アスクは死んだ者が星になると口にしていた。その考え方はこの世界にもあるらしい。


 私も妻が無くなった際は、娘の愛子にお母さんは星になったと告げもした。それが本当の事だとは、これっぽっちも信じていないのに。


 けれど、この世界では信じても良いのだろうか? 幸子や愛子が見守ってくれている。そう思って生きてみても良いのだろうか?


 もしそうであるならば、私は下ばかりを見るのではない。上を見上げて生きてみるべきではないだろうか。少なくとも幸子や愛子は、今の私の生き方を喜びはしないだろう。


「私はどうして、この世界に来たのだろうね……」


 柄にも無いとは思うけれど、それは幸子と愛子の導きでは無いかと思うのだ。二人が私に幸せな第二の人生を歩んで欲しいと。


 それはもしかしたら、私の身勝手な妄想かもしれない。ただ楽になりたいと思う、私の弱さなのかもしれない。


 けれど、アスク達の事を思い出す。彼等も私の悲しそうな顔を望みはしないだろう。家族の様な彼等は、私が幸せに暮らす事を望んでくれるはずだ。


「彼等の為にも、歩きだして構わないよね……?」


 私は夜空の輝きへと問い掛ける。そのどれかが幸子や愛子であり、私の声が届くと信じて。


 当然ながら、その答えは返ってこない。けれど、瞳を閉じると幸子も愛子も、幸せそうに私に微笑みかけてくれていた。


 私の瞳に涙が滲む。記憶の中の二人は、いつだって微笑みかけてくれていた。私を恨んで罵ったりはしていなかった。


 そう、二人は死んだとしても、私の愛する家族なのだ。誰かの不幸を望むような、そんな家族では無かったと言うのに……。


「ごめん……。幸子、愛子……。本当にごめん……」


 そんな当たり前の事に、今になって気が付いてしまった。定年退職して、こんな老人になって、やっと気づいたのだ。



 ――余りにも遅過ぎる……。



 私はどれだけの時間を無為に過ごして来たのだろうか。余りにも情けなさ過ぎて、二人合わせる顔が無かった。


「ちゃんと、やるから……。残りの人生は、ちゃんと生きるから……」


 私は何の能力も無い只のジジイだ。けれど、こんな私でも出来る事があるかもしれない。いや、今からでも見つけなければならない。


 それが本当の意味でも私の贖罪なのだ。そうで無ければ最愛の家族に、死んだ後に合わせる顔が無いじゃないか。それでは死んでも死にきれなかった。


 私は空に輝く星々に誓う。残りの人生は、家族が誇れる生き方をすると。私は涙を流しながら、そう強く星に誓いを立てた。

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