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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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三日目の朝

 私はベッドで目を覚ます。流石に見慣れぬ天井に、今更戸惑う事は無かった。私はブーツに足を通し、白いローブを身に付ける。


 窓から差し込む日差しが柔らかい。まだ早い時間なのだろうが、何とも清々しい朝である。私はキッチンに向かうと、そこには既にアスクが待ち構えていた。


「おはよう、ケンジ。それじゃあ早速、パンを焼いてみるかい?」


「おはよう、アスク。そうだね、早速パンを焼いてみるとしよう」


 私は昨晩の内に挽いておいた小麦粉を、水と一緒に魔道具の窯へと放り込む。そして、窯に蓋をするとパネルのスイッチをオンにする。


 捏ねたり、発酵させたりという作業は、自動で行ってくれるらしい。全自動のパン焼き器もビックリの性能である。


「昨日も説明したけど、それで食べれるパンになるはずさ。焼きあがるには一時間かかるね。それと、前の主人は他にも色々と混ぜて、味を変えたりもしていたね」


「ミルクやバターを混ぜていたのかな? 今は屋敷に無いみたいだし、味変は追々って感じだろうね」


 窯の様子を見ているが、カタカタと小刻みに動いている。今は中身を捏ねているのだろう。


 パン焼きの魔道具には興味があるが、見ていてもそれ以上の変化は無さそうだった。折角なので、待つ間に他にも朝食の準備をするとしよう。


「おや、ケンジ? 何か料理をするのかい?」


「いや、料理では無いね。ジャムに挑戦してみようと思ってね」


 私は昨晩、リリィからブルーベリーを貰っておいたのだ。それを木製のボールに入れ、すりこぎ棒で潰していく。


 ある程度潰れた所で鍋に移して火にかける。これでブルーベリージャムになるのではと予想しているのだけれど……。


「ふうん、それでジャムが出来るんだね。随分と簡単に出来るものだ」


「いや、本当は砂糖を加えたりするんだろうけどね。何も無いよりマシかと思ってさ。試しに作っているだけなんだ」


「なるほどね。それは悪くない考えだ。試してみる事に間違いは無いよ。成功すれば儲けもの。失敗しても、失敗した理由がわかる。一つ賢くなれるだけだしさ」


 アスクの言葉に私は頷く。今の私に失敗を気にする必要は無いんだ。彼の言う通り、成功すれば儲けもの位の考えで十分である。


 私は木のへらで鍋をかき混ぜる。焦げ付かないか不安だったのと、とろみが出るのかを確認したかったからだ。というか、どの程度煮込めば良いのかも私は知らないしね。


 私は三十分程、鍋をかき混ぜ続けた。水分が飛んでとろみが出た来たしたので、そこで少し味見をしてみる。


 甘味は足りないし、何やら雑味も感じる。市販のジャムに比べると、随分と不出来だと言えた。


 しかし、確かにジャムではあった。恐らくは、何も付けないよりはマシ程度の味ではあると思う。


「まあ、初めてと思えば上出来かな? 味や触感はこれから改良が必要そうだけど」


「それは素晴らしい。ここから美味しくなる余地があるって事だろう? 改良を続けて行けば、いずれはジャムの販売も出来るかもしれないよ?」


 アスクの言葉に私は笑う。確かに味や食感を極めれば、それも一つの技術となる。私はジャム職人にだって成れるのかもしれない。


 何とも前向きで夢のある話である。もっとも、今の私がジャム職人を目指すつもりはないのだけれど。


 ……というか、本格的にジャムを作るなら砂糖が欲しいな。ジャムは長期保存の為にも欠かせなかったはずだしね。


 まあ、それは流石に贅沢が過ぎるかな? サトウキビを使うとは知ってるけど、それをどうやって精製するかまでは私も知らないしね。


「さて、もう少ししたらパンも焼けそうだね。今日の朝食はそれだけかい?」


「いや、貰った野菜がまだあるからね。いつも通りのサラダも用意しようか」


 アスクの問い掛けに、私は頭を切り替える。先の事を考えるのも良いけど、まずは目の前の朝食である。


 今日はパンがあるので、ジャガイモを煮る必要は無いだろう。トマトとレタスをカットし、塩を油を掛けてサラダの完成だ。


「うん、丁度良いタイミングだね。パンも焼きあがったみたいだよ」


 アスクの言葉を聞いて、私はパン焼き機に目を向ける。すると、パネルのスイッチがいつの間にかオフになっていた。


 私は調理用ミトンを手に付け、窯の蓋を外してみた。驚いたことに、そこには一目でわかるパンが完成していた。


「うん、確かにパンだね……。ただ、ちょっと大き過ぎ無いかな……?」


「パンは焼けば膨らむんだ。そのくらいの大きさにはなるものだろう?」


 確かにアスクの言う通りだ。パン焼き機のサイズを考えると、私の一食分の適量になるはずが無い。


 とはいえ、流石にこれは多過ぎるな。一人で食べるなら三日でも厳しい。このパンが、それ程日持ちするとも思えないしな……。


「食べきれないと心配してるのかい? もしそうなら、アステリオスにあげたら良いよ。彼は人と同じものを食べられるからね。君からの差し入れなら喜んで食べるさ」


「そうなのかい? それなら良かった。是非、彼にも食べて貰うとしよう」


 とはいえ、それは美味しければの話だ。不味かった場合、彼に処分させるのは忍びない。


 私は早速とばかりにパンを取り出し包丁を入れる。上から見ると真ん丸なパンを八等分に切り、私はその一つにジャムを塗りながら食べた。


「……うん、美味しい。少々硬いし、味も薄いけど、それでもしっかりとパンだ。ジャムも作っておいて良かったよ」


「良かったね、ケンジ。君が喜んでくれて、僕も嬉しいよ。何ならパンも改良して行くかい? ゆくゆくはパン職人を目指してさ?」


 アスクの言葉に私は苦笑する。パンの改良はするつもりだけど、パン職人は流石に目指さないな。


 私は黙々と食事を続ける。話しかけて来るアスクには、しっかりと相槌を打ちながらね。


 そして、食事を済ませるとパンにジャムを塗り、作った内の半分を木笊に移す。今からアステリオスに届けに行く為である。


「――いや、そう言えば……?」


 私は以前にアスクから聞いた、家妖精ブラウニーの存在を思い出した。家に住み着き、家事を手伝ってくれる妖精。そして、長く居付いて貰うには、食事を分け与えると良いと言っていた。


 私が家に来てから三日間。家の汚れを目にした事が無い。しっかりと、家の管理をしてくれていると言うことなのだろう。


「確かブラウニーは、部屋の隅に食事を置けば良いんだっけ?」


「ああ、そうさ。施したと思われないように、部屋の片隅にそっと置いておくんだ。しっかり棚にしまった物には、ブラウニーは手を出そうとしないからね」


 私はアスクの言葉に頷く。小さめのお皿にパンを一切れ乗せる。そして、パンにジャムを塗り、キッチンの片隅にそっと置いておいた。


「喜んでくれると良いんだけどね。いつも家を綺麗にして貰ってるんだから」


「ああ、きっと喜ぶさ。何せケンジの気持ちが籠っている。ブラウニーもケンジを気に入るはずさ」


 私はアスクの言葉に満足し、木笊を持ってアステリオスの元へと向かう。彼は私の差し入れに驚いていたが、美味しいと言って平らげてくれた。


 そして、私達がキッチンに戻ると、置いてあったパンは綺麗に消えていた。乗せていたお皿も、綺麗に洗われた状態であった。

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