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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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モンスターとは?

 私はポーション作りの基礎を学び、その後に昼食を軽く済ませる。リリィの野菜は瑞々しくて美味しいけれど、ずっと野菜だけだと流石に飽きが来る。そんな訳もあって、午後のティータイムで軽く話を振ってみた。


「なるほどね、ケンジ。確かにいずれ飽きるとは思ってたんだ。ケイローンは優れた射手でさ、彼は良く自分の手で獣を狩っていたんだ。だから、彼の時には野菜だけの食事って事は無かったわけさ」


『でも、ケンジに狩猟は難しそうね。試しにアステリオスに頼んでみる?』


「アステリオスに? 彼も狩猟が得意なのかな?」


 アステリオスと言えば、牛の頭を持つ大男である。斧を担いでいたので、どんな獣でも一刀両断しそうなイメージはあった。


 しかし、アスクは蛇の頭を左右に振る。そして、残念そうな声でこう告げた。


「彼は特別に強いモンスターでね。獣は逃げてしまって、彼が近づく事は出来ないだろうね。石礫で運良く鳥を打ち落とすか、鳥の巣から卵を見つけるのが精一杯かな?」


『まあ、駄目元で頼んだら良いんじゃない? アステリオスもお願いされたら喜ぶと思うわよ♪』


「それは違いない。彼の仕事って屋敷の周りを巡回するだけだしね。何も無い毎日よりかは、多少張り合いのある仕事が出来るだろうさ」


 二人の会話に私は驚く。どうもアステリオスは、毎日屋敷の周りを見回りしているだけ。それも、獣も近寄らないので、何の変化も無い日々を過ごしているらしいのだ。


 主人を無くしたアスクやリリィも同じだけれど、それは何とも味気ない人生である。そう考えると、彼とも話す機会をもっと作らねばと思う。少なくとも彼は、私との会話を楽しみと言ってくれていたのだから。


「それじゃあ、彼にお願いしてみようかな。どうすれば、彼にお願いする事が出来る?」


『そんなのは簡単よ。彼は一時間で屋敷を一周するの。それで、そろそろ正面口にやって来る時間よ。ほら、柵の前で待ちましょう。気配に気付けば、彼の方からやって来るわ』


 私はリリィに手を引かれ、テーブルを離れて柵へと引っ張られる。振り返るとアスクも後を付いて来ていた。


 そして、待つこと数分といった所だろうか。リリィの言う通り、森をかき分けてアステリオスが姿を現した。


「どうした……? なにか、仕事ある……?」


「うん、アステリオス。少しお願いがあってね。私は狩猟が出来ないから、代わりに肉か卵を手に入れてくれないかな? 勿論、運良く手に入ったらで構わないからね。仕事の片手間でお願い出来るかい?」


「わかった……。俺、頑張る……」


 アステリオスはそう告げると、そそくさと森の奥へと消えて行った。もう少し話をする気でいたので、余りにもアッサリした別れに私は呆気にとられる。


「うん、どうやら気合が入ったみたいだね。あの様子だとかなり頑張ってくれると思うよ。絶対に片手間の仕事にならないだろうね」


『そりゃあそうよ! だって、新しいご主人様からの、初めての依頼だもの! 彼で無くても頑張ると思うわ!』


「そうなのかい? そんなに気合が入っていたのか……」


 私には牛の顔だからか、彼の変化にまったく気付けなかった。いや、顔がどうこう以前に、二人は付き合いの長さがあったからかもしれないな。


 ひとまず用件は伝えられたので、私達は再びテーブルへと戻る。そして、私は少し気になっていた事をアスクに尋ねた。


「そういえばさ。アスクは先ほど、アステリオスを『特別に強いモンスター』と言っていたよね。モンスターと言うのは、どういった存在なのかな?」


「ふむ、モンスターかい? そのままの意味だと『化け物』だけど……。けれど、ケンジが知りたいのはそういう意味ではないんだろうね?」


『ちなみに、私もモンスターに分類されるわ。それと私達をモンスターと呼ぶのは、人間だけだから気を付けてね?』


 リリィの忠告に私は首を捻る。私は何に気を付ければ良いのか理解出来なかったからだ。すると、アスクがすかさず補足してくれる。


「モンスターと呼ばれる存在は、人間がそう呼ぶ事を知っている。けれど、それを快くは思っていないんだ。神様がそう名付けた訳じゃ無いからね。人間にとっては『化け物』だから、そう勝手に呼んでるって話なのさ」


「そうなんだね、アスク。なら、リリィやアステリオスの前では、使わない様に気を付けないとね」


『あら、私は別に気にしないわよ? だって、ケンジが私を侮辱しないのは理解しているもの。ただ、アステリオスもわかってると思うけど、彼は繊細だから使わない方が良いかもね』


 二人の説明で私もようやく理解する。確かに『化け物』扱いされて、嬉しい人などいるはずがない。アスクは平気で使っていたけど、出来るだけ人前で口にしない方が良い言葉なのだろう。


「ああ、ちなみにモンスターとは何か、だったね。これにはいくつかパターンがあってね。一つ目は『化け物』の王様テュポーンの子供達。これは生まれながらのモンスターと言う事になる。彼等は問答無用で人を食い殺すから、呼び方がどうとか気にしなくて良いよ」


『出会っても戦おうなんて思わないでね? 彼等を倒せるのは、神の血を引いた英雄達だけなんだから』


 モンスターを生み出す存在が居るのか。そして、どうも私ではどうあっても勝てない相手らしい。出来る事なら、出会わずに済む様に祈るばかりである。


「二番目は神の怒りで姿を変えられた者達。元々は人間だったり、ニンフと言う精霊だったりする。けれど、モンスターとなった者は人を襲う様になる。彼等も英雄で無いと倒すのは難しい。基本的にはケンジでは勝てない存在と思って間違いないよ」


『テュポーンの子供に比べれば大人しいんだけどね。ただ、世に強い恨みを抱いてたりするのよ。余り近寄りたい相手では無いわね』


 アスクの説明に私は絶句する。何故、神様が人や精霊を、人を襲うモンスターに変えてしまうのだろうか?


 私には余り理解出来ない話である。けれど、ここは異世界なので、そういう事もあるのだろうと納得する。


「そして、最後はその他諸々。リリィの様に植物が変化した者や、アステリオスみたいに半分人間な者もいる。人間が『化け物』と思えば、それは全てモンスターと言う訳さ」


『まあ、ドライアドは人間を捕食するしね~。アステリオスも仕方ない事情で、人間を食べてた事はある訳だけど……。まあ、人間が勝手にそう呼んでるだけって話よね!』


 要約すれば、最後の三番目に全て集約されるのではないだろうか? 結局は人間が『化け物』と思う物がモンスターと言う事なのだろう。


 ただ、私は最後のアステリオスの話が一番気になった。半分人間であり、仕方ない事情で人間を食べた事があると言う部分である。心優しい彼に、どんな過去があったと言うのだろうか?


 けれど、私はそれ以上踏み込んで良いのか判断に迷う。そして、結局はその先を聞けないまま、その話題を終わらせる事になってしまった。

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