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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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二日目の朝

 目が覚めると見慣れぬ天井であった。やはり、一晩寝たら元の世界とはならないらしい。


 私は身を起こすと、自身の変化に気付く。気力が満ちていると言うのか、実に清々しい気分なのだ。


 昨日の楽しい時間のお陰だろうか? 或いは、明るい未来への希望から?


 いずれにしても、こんな気持ちの良い朝はいつぶりだろうか。私はベッドから降りてスリッパに足を通した。


 そして、ふと気付く。私の格好がティーシャツとジャージのまま。そして、履物も置いてあったスリッパしかない。今の私には着替える服も、きちんとした靴も無いと言う事実にだ。


「うん、アスクと相談してみるか」


 前の主人の持ち物に、丁度良い服があると良いのだが。ただ、前の主人はケンタウロスだと言っていた。下半身が馬だと流石に無理があるかな?


 私はそんな事を考えながら、屋敷の中でアスクを探す。すると、彼はキッチンのテーブルの上で、とぐろを巻いて私を待っていた。


「おはよう、ケンジ。今朝の食事はどうする? まあ、選択肢は野菜しか無いんだけどさ」


「おはよう、アスク。老人の朝に重い物は無理があるしね。サラダだけでも十分ご馳走さ」


 私は今日もジャガイモを鍋で煮る。そして、トマトとレタスで簡単にサラダを用意した。味付けは塩と、リリィに貰ったハーブを少々だ。


「そう言えば、アスク。少し相談があってね。この屋敷の中に、私が使って良い服と靴は無いかな?」


「すまない、ケンジ。そういれば、着替えの事を忘れていたね。何せ僕には、着替えるって習慣が無いものでね」


 確かに蛇のアスクは脱皮はしても、衣替えをする事は無いだろう。獣の様に毛皮がある訳じゃない。彼には真っ白な鱗しか無いのだから。


「ケンジが着れそうな服なら有るよ。勿論、ケンタウロス用の服じゃない。彼等は上半身しか服を身に付けないからね。ケイローンが着ていた服では無く、その弟子が着ていた服が残っているんだ」


「ケイローンの弟子?」


「そうそう、彼は本当に多芸でね。多くの人間が弟子になったものさ。その中の一人がケンジに背格好が似ていてね。サイズもピッタリだと思うよ。食事が終わったら、服の在りかを案内しよう」


 アスクの説明に私は安堵する。ちゃんと人間が着れる服もあるとわかった為だ。


 しかし、アスク達の元主人は本当に優れた人物だったらしい。アスクが自慢気に語る様子からも、その人望が垣間見える様であった。


「それと、ケンジ。今日の予定はどうする? 僕としては、リリィへの挨拶をお勧めするよ。余り彼女を待たせると、彼女は僕にクレームを入れるんだ」


「ははは、それじゃあまずはリリィへの挨拶だね。その後はそうだね。やはり、魔法の練習かな?」


「ああ、それは良いね。それと魔法の訓練後は、ポーションを忘れずに。ギリギリまで魔力を使い、それを回復する事で魔力量が増えやすくなるんだ。ただ、使用は一日一回をお勧めするよ。余り多用し過ぎても、体に悪い影響が出かねないからね」


 アスクの説明に納得する。昨日は一本飲んだけど、その回復効果は凄まじかった。魔力切れの怠さだけでなく、野菜運びの疲れまで一瞬で消えたのだ。


 それ程までの効果を持つ薬である。多用すれば体に何らかの反動が出てもおかしくはない。私はアスクの忠告を聞き入れる事にした。


「そうなると、余り魔法の訓練ばかりも出来ないね。それじゃあ、アスク。午後からはこの世界の事を教えてくれるかい? 私は知らない事が多過ぎるからね」


「ああ、良いとも。いくらでも話してあげよう。なあに、時間ならいくらでもあるからね。ケンジが止めてくれって言うまで、僕ならずっと話し続けてるよ」


 確かにアスクはお喋りが好きみたいだからね。いくらでも話し続けている気がする。


 ただ、私が止めてくれと言う事はないだろう。何せ彼の話は愉快だからね。いくらでも聞いていられると思うんだ。


「ああ、そうだ。ケンジはポーション作りに興味はあるかい? 屋敷に残ったポーションが残り二十九本でね。それ以降も使い続けるなら、ケンジが自身で作る必要があるんだ」


「ポーション作り? それは私にも出来るものなのかい?」


「勿論、いきなり最上級の物は作れないよ? けれど、魔力回復用とかの普通の品質なら、数日でマスター出来るんじゃないかな。必要な道具は揃ってるし、素材の薬草はリリィから貰えるしね」


 アスクの提案は、私にとっては渡りに船だ。元々、何かの技術は身に付けたいと思っていた。


 それは第二の人生に選択肢を得る為。この屋敷以外でも、生きて行ける術を得る為であった。


 私は決して屋敷を離れたい訳では無い。それでも、アスクとリリィに甘え続けるだけは良くない事だからね。


「それじゃあ、アスク。ポーションの作り方も教えて貰えるかな? ポーションが作れる様になれば、魔法の訓練も続けられれそうだしね」


「ああ、任せておくれよ。ポーション作りは僕もずっと見て来たからね。基礎だけでは無く、コツも多少は教えられると思うよ? それにケンジには魔法使いの才能がある。ポーション作りだって上手くやれると思うからさ」


 魔法はイメージであり、具体的なイメージである程、その効率が良くなると言っていた。つまりはポーション作りも、それと同じような物なのだろう。


 もしそうなら、理屈っぽい私には向いていると言える。それに物作りと言うものは、少しばかりワクワクする。私の中の童心が疼くのを感じていた。


「ふふ、楽しみだね。何かを学ぶと言う事は、きっととても楽しい事なんだろうね」


「そう思えるなら、大したものさ。勉強が嫌いな人間は実に多いからね。必要に駆られないと学ぼうとしない。それに比べたらケンジは、ずっとそんな奴等よりも成長出来るはずさ」


 私はアスクの言葉に苦笑を浮かべる。かく言う私も、元の世界はそんな奴等の一人であったからだ。


 多くの人は目の前の生活だけで精いっぱいだった。その為、僅かな時間を楽しむために使っていた。


 しかし、私はただ無気力だった。未来に希望が無く、より良くなりたいという感情が無かったのだ。


「きっと楽しいと思えるのは、アスクのお陰だね。共に楽しめる存在が居るから、学ぶ事も楽しいと思えるんだろうね」


「なるほど、ケンジは良い事を言うね。確かに僕もケンジが相手だと楽しいからね。同じ説明をするのだって、リリィ相手みたいにウンザリする事が無いんだ」


 アスクのおどけた口調に私は笑う。憎まれ口を叩いていても、彼がちっともリリィを嫌っていないとわかるからだ。


 こんな愉快な友人がいれば、何をするのも楽しいに決まっている。私は今日と言う始まりに、やはり胸が躍るのだった。

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