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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第1部:ジジイ、異世界で魔女の師になる
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一日の終わり

 日が傾いて空が赤く染まる頃、私達のティータイムは終わりとなった。私とアスクはリリィに別れを告げ、屋敷の中へと入って行く。


 屋敷の中は薄暗かったけど、すぐに天井に明かりが灯った。足元のアスクを見ると、床と壁の接地面にあるパネルに顔を押し付けていた。


「屋敷内の照明を付けれる様に、僕用のパネルも用意されていてね。明かりの魔道具だけは、僕でも使用できるのさ。ああ、人間用も当然用意されている。ケンジが明かりを付けたい時は、そこにあるパネルに触れると良いよ」


「このパネルだね。操作はキッチンと同じみたいだね」


「そうさ。殆どの魔道具は同じ作りにしてあるんだ。だって、魔道具毎に操作補法が違っていると、いちいち覚えるのが面倒だろう?」


 壁のパネルは私の胸の高さ辺りにあった。そして、キッチン同様に三色のパネルが用意されている。オン・オフと魔力残量のメーター用である。


 そして、どれも同じ仕様なら、どんな魔道具も簡単に扱える。私は異世界の魔道具も大したものだと、感心しながらアスクに頷く。


「さて、まずはキッチンへ行こう。ハーブティーだけじゃ、お腹は膨れないだろう? 夕食を食べながら、雑談の続きと行こうか」


「そうだね、アスク。調味料になるハーブも、リリィから貰えた事だし。早速使ってみようか」


 以前の主の指示で、いくつか調味料用の植物も育てていたらしい。いくつピックアップして説明を受けたが、その中に胡椒に似たハーブもあったのだ。


 今回は豆を中心にスープを作り、その味付けとして塩と胡椒風ハーブを試そうと思う。それならばまだ、元の世界に似た料理が作れそうだからね。


 私は再びキッチンにやって来ると、さっそくとばかりに調理に取り掛かる。いくつかの野菜をカットして、鍋で煮るだけなので調理はすぐに終わった。


「さて、鍋が煮えるまで少し時間がかかるね。ケンジ、待ってる間にお喋りと行こうか。今の所、何か困っていたり、聞いておきたい事はあるかい?」


「そうだね……。私はこの屋敷の主になるんだよね。そんな私がやるべき仕事って何かあるのかな?」


「いいや、そんなものは無いさ。ケンジがやりたい事をやれば良いんだ。誰もケンジに何かを強要したりしない。――おっと、一つ忘れていた。リリィとの従魔契約の為に、魔法の訓練は優先的にやって欲しいかな」


 確かにそれはある。リリィが待ってくれているので、私は早く魔法の扱いに慣れる必要があるのだ。


 そして、魔法の訓練を続ければ、自然と魔力量も増えるらしい。そうなれば、リリィに魔力を分け与える余裕も生まれるらしいのだ。


「リリィの件は勿論だけど、他には何もないのかな? お金を稼ぐとか、何か働く必要は?」


「ここに居る間は無いね。生活に必要な物は大抵揃っている。外の世界で生きて行くなら、技術を身に付けるのは必要だろうけどね。それだって時間が掛かるし、今すぐ急ぐ必要は無いと思うよ?」


 アスクの言葉に私は納得する。今日一日でわかったけれど、この屋敷でなら世間と関わらずに生きて行ける。自給自足で生活できる環境が整っているのだ。


 その自給自足の大部分はリリィに依存するけど、それでも彼女は喜んで食材を提供してくれる。無理に私が働く必要は無いのだろう。


 しかし、それでも私は落ち着かなかった。何もせずにただアスクやリリィに甘える生活は、私の人生を駄目にしそうで怖かったのだ。


「ねえ、アスク。私は何をするべきなんだろうね? 何もせずに生きる人生なんてつまらないだろう?」


「う~ん、そうだね……。なら、まずは世界を知り、色々な技術を身に付けたらどうだい? ケンジはこの世界に生まれたばかりの赤ん坊も同然なんだ。出来る事を増やして行って、それからやりたい事を決めれば良いんじゃないかな?」


 アスクの物言いに私は思わず笑ってしまう。六十歳のジジイに対して、生まれたての赤ん坊と来たか。


 ただ、その表現は的を得ているのだろうとも思った。私はこの世界を知らず、自分が何を出来るのかもわかっていない。


 私は確かにジジイだけど、これから第二の人生をやり直すのだ。赤ん坊に戻ったつもりで、今から成長して行く必要があるのだろう。


「それじゃあ、しばらく面倒をかけるけど良いかな? 私がどれ程成長出来るかもわからないんだけど」


「勿論、構わないさ。だって、僕がやる事はお喋りだけだからね。後はケンジが屋敷の物を使い、勝手に成長して行くだけさ。庭の野菜やハーブに関してはそうだね。対価としてリリィの話し相手になってあげると良いんじゃないかな?」


 どうやら、今の私が行うべき仕事はお喋りだけらしい。それだけで喜んで貰えるとは、何て楽な仕事なんだろうね。


 そういえば、今の私は赤ん坊だった。確かに赤ん坊ならば、ミルクを飲んで眠り、成長するのが仕事である。今の私にピッタリなのかもしれない。


「さあ、ケンジ。そろそろ煮えたんじゃないかな? まずは味見と行こうか。なあに、失敗したって構わない。また次はもっと上手くやれば良いだけなんだからさ」


「確かにその通りだね。失敗しても、私が不味いと思うだけだ。それに赤ん坊の私が、何でも完璧に出来る訳が無いんだから」


「そうそう、ケンジの言う通りさ。赤ん坊が自分で料理をして、自分で食事を取ってるんだ。そだけでも驚くべき事だよね?」


 アスクの物言いに、私は再び笑ってしまう。確かに私は料理を作り、自分で食べる事が出来る。赤ん坊としては随分と立派なものである。


 良い年をした大人だからと身構える必要は無いんだ。何故なら今の私は、世間の目を気にする必要が無い。誰も私の行動を非難したりしなのだから。


 ただ、愉快な仲間との生活を楽しめば良い。それが私の第二の人生だ。それは何と幸せな人生なのだろうか。


「――うん、思ったより味は悪くない。リリィに貰ったハーブが、胡椒の風味をしっかり出してるね」


「なんだって? ケンジは赤ん坊なのに、上手に料理が出来るのかい? きっとそれは将来有望だね。神童と呼んでも過言では無いね」


 私はアスクの冗談に笑い続ける。今日はアスクと出会ってから、ずっと笑い続けている気がする。


 今日は異世界に迷い込んで一日目だけれど、家族を失って以降、私にとって一番楽しい一日だと思えた。

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