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後悔ブラザーズ


 今回R15指定するか本気で迷いました。『ヤバいよ』という方は言ってください。そんな意見が多かったり、強く訴えられたりされた場合、R指定させていただきます。時間の問題の様な気もしますので、どうぞご遠慮なく…








 眼前にあるのは家のドア。

 嫌って程見てきた家のドア。


 でも今は駆け寄って頬擦りしてベロベロ舐めたいくらい懐かしく愛おしい。





 …あ、いや、嘘。


 全部嘘、嘘嘘ウソ。


 嘘だから引かないで。そんな目で見ないで。蔑まないでぇ!



 …言い過ぎたけど、嬉しいのはホント。


 母ちゃんと親父は正直どうでも良い部類なんだけど。直…、弟は気になる。



 あとゲームのセーブデータ。




 …あ…あと…










 た…タンスの裏の…、……エ……エロ本…、とか…









 …と、とにかく!気になる物が盛り沢山の我が家はやっぱり気になる訳で、だから帰りたかったんだ。





 なのに何だよあの金髪変態野郎は。



 もうぜってーあんな所行ってやんねぇ。



 俺はリュックから合鍵を引っ張り出し、玄関のドアを開けた。





 鼻腔の奥に家の匂い。

 闇に包まれた玄関なのに家に帰ってきたという実感が押し寄せる。



 履き古したスニーカーを脱ぎ捨て、一歩、家に上がった。



 靴箱の上にあるアナログ時計は5時を少し過ぎたぐらい。



 そう言えば空が薄明るかった様な気がする。






 なるべく廊下が軋まないように忍び足で歩き、台所の冷蔵庫を開ける。



 部活の後だったから腹減ってたんだ。

 …今日は掛け持ちの写真部だったんだけど。


 冷気が顔に当たる。




 作って余ったポテトサラダとか、

 使い掛けのハムとか、

 忘れられた魚肉ソーセージとか、

 …食っても差し障りなさそうな物が大半だったのに





 何故か、食欲が湧かなかった。






 子供が作った泥の料理を差し出された感じ。







「…おかしいな…」







 …変なの。







 静かに扉を閉め、俺はキッチンを後にした。







 軋む階段を上ると、まず直の部屋のドア。




「直ー?…直夜?起きてるか?」



 返事はない。


 つまり勝手に入っても怒られない。




 なんの躊躇もなく、ドアを開けて入る。





「…んだよテレビつけっぱなしじゃ…」



 真っ暗の部屋をカラフルに照らし出すテレビの画面。


 リモコンを取って電源を――…




「…は!?」







 それはテレビゲーム。










 ゲームのセーブデータ。









 苦労したラスボス戦。










 ラスボス戦。










 ―ラスボス。










「直夜ああぁぁぁぁぁァァァァァァ!!!!!!」






 布団を引っ剥がし、憎き弟を叩き起こす。


 時間帯だぁ?

 んなもん知るかクソ!!

「―…っせえな…!今何時だと思って―!」

「知るか!!貴様俺のセーブデータを一体どういう事だ説明しろゴルァあ!!!」


 目を擦りながらむっくり起き上がる弟。



「―……はぁ…?…って…!うっわ…ヤっバ…!!」


「これはどういう事だ!!」


 たじろぐ弟。


「…っ!だだ…だからって…っ!真夜中にっ!!こんな真夜中に叩き起こさなくたって良いだろ!?」

 おいおい、声裏返ってんぞ。バカが!!


「真夜中に電源つけっぱなしで寝てるお前が悪い!!」


 ちくしょう許さねーぞ直めが!!


 目が覚めてしまったのか、頭を掻きながら直夜はベットに胡座(あぐら)をかく。


「………で?よ、様子を見るに今帰ってきた風だけど。な、何どうしたの、美沙ちゃんと夜遊びですか。感心できませんねぇー」



「…お前ソレわざと言ってんのか」


 美沙には最近振られたばっかだけど何か?


 直も知ってる筈だけど何か!?



「つか話題逸らすんじゃ無ぇよ。俺の勇者!」


「タクヤは弱かったぜ。レベルアップしてやったのに」

 三回全滅したけど。



「ちょ、お前ふざけんなよ!!!」


「あーうるさいうるさい。母さんが起きちゃうよ。また怒られるよ。」


 弟、母の真似開始。


「『もう!!どうしてあんたって奴は女の子と真夜中まで遊んで!!妊娠させちゃったりしたら私何て言ったらいいか分からないわ!!』」


「ぎゃははは!似てる似てる!」

 大丈夫だ母ちゃん。間違っても妊娠なんかさせねぇって。

 だって無理だもん。責任なんか取れねぇもん。

 俺、パパになんかなれねぇもん。



 …畜生。俺のドラクエ…





「で、美沙ちゃんじゃ無いなら何なのさ。15の夜って奴?16の癖に。」



 俺は盗んだバイクで走り出したりしねぇ。




「いや、なんつーか…」




 言い掛けて、





 言わない方が良いんじゃないかと思った。






 何故だか分からない。



 何だか気軽に人に話しちゃいけない気がした。










「…いや、何かそこでオッサンの顔したノラ犬に出会って」


「にぃちゃん、チョイスが古い」


「何言ってんだ。その上すっげーブサイクなんだぞ」


「オッサンなんて大体ブサイクだよ」

「テメェ…マッチに謝りやがれ。オッサンになってもあんなにカッコイイんだぞ」


「マッチは年取った方がカッコ良くなったよね。渋くなったっていうか」


「そういやざんばらってさ、髷を切っちまった髪型じゃなかったか?」



「俗に言う落武者ヘアー」



 ……………ふぅ、



 …なんとか古いチョイスでも誤魔化せたらしい。


 古いチョイスだからこそ誤魔化せた気もする。



 ナイスだ都市伝説!!


 ありがとう人面犬!!


 ついでにマッチ!!







「…でさ、俺落ち武者ヘアーとかどうでも良いんだけどさ、」



 ………来るか?




「明日ってにぃちゃん部活?」







 …………ハラハラさせやがってこの野郎!!





「…無ぇよ。何で?」



「俺も明日は無いからさ、どっか行こうよ。」



「え、無いの!?何で!?」



 直は柔道部に所属している。

 基本的に休みは日曜以外には無い。


 のに、何でだろう。



「何でって明日は祝日じゃないか。柔道部だぜ?国民的な休日ぐらいは休みになるんだよ」




「ふーん、そうなのか」


「あの貸しはまだ忘れてないさ。…スマブラで勝ったら、ハーゲンダッツ。買ってくれるんだろ」




 そういやそうだった。



 マルスを極めた俺は調子に乗って


『カービィで俺に勝ったらハーゲンダッツ買ってやるよ!』

 …なーんて間抜けにも言っちまった訳でして。



 見事にカービィに負けましたぁ!!


 スッゴいカービィって強いんだねぇ!!


 だってマルスしか使ったこと無いもん。


 …しかもよく考えればあのスマブラは直のモンだったんだよなぁ…





 ―ハーゲンダッツかぁ…


 高けぇなぁ…





「…牧場しぼりじゃダメ?」


「ダーメ。」





 …高っけぇなぁー…




「…てゆうか今何時?朝なの夜なの?」



 ウチは雨戸を閉める派なので外の様子は全く伺えない。


「…5時ぐらい。」

「…わお、スッゲェ早起き」



 直は伸びをして、ベットから下りた。


「もう起きちゃった方が良いよね。」


 俺は寝たい。



「じゃあにぃちゃんと出掛けてハーゲンダッツ買って貰うのは今日か」


 ちくしょう。


 直は嬉しそうに笑って言う。


 俺の財布は泣いてるぞ。



 電気をつけ、テレビゲームの電源を切った。


「…あぁ!!俺のレベルアップ!!」


 嘆く弟。



 セーブされてなければリセット状態になる。


「タクヤは5レベぐらい上がってたのに…。」




「レベルは自分で上げるから感動するんだ。」



 其れが分からない奴にRPGをプレイする資格は無ぇ。





「…もう着替えちゃおーかなー。どうせ今日だしね」

 ぐるる、と腹が鳴った。


「あれ、腹減ってんの?」



 ずっと食ってない割に冷蔵庫の中身に食欲を刺激されなかったからな。


「何か食う?テキトーに取って良いよ」



 そう言って菓子が詰まったダンボールを指差す。


 にじり寄って漁ってみた。


 が、やっぱり食いたいと思えない。


 直がパジャマから着替える気配がする。




「直ー、やっぱ俺いらない」


 …それよりさ、と振り向いて、




 上半身裸の直と目が合った。





 浮き出る首筋。






 ―ドクン―







 急に心臓が強く打つ。






「…なに?どうしたの?」







 俺は立ち上がり、





 直の首筋に―







 ―ズル、


「っ!?―痛っ…!!にぃ…ちゃ…っ!?」






 ―口いっぱいに、しょっぱい味を頬張る。





 ―ああ、美味い。





 ―もっと欲しい。






 腹に溜まってゆく感覚が気持ちいい。






 満たされるのは食欲。










 ―え…?






「……ッ!!?」




 俺は思わず飛び退いた。



「…ぁ…」




 がくりと直が崩れる。



 ―俺は…


 ―俺は今…何を…







 唇に触るとぬるっとした感触があった。






 血…?





 今…俺は…血を、飲んだのか?






 弟の血を…?







 ―『お前と私はヴァンパイア』









 ―…マジかよ






「…に…、にぃちゃ…」




 はっと現実に引き戻された。




 肩口を押さえた直。



 流れる、リアルで赤い、血。



 食欲が疼く。



「…な、直―」



「…なんだよ…!どーゆー…事だよ、今の…」




 血が止まらない。




 ふたつの感情。



 『やばい』と




 『飲みたい』。



 ―どうかしてる、俺。







「直…っ!!血が―」





「―にぃ、ちゃん…今、俺に…何した…」





 『やばい』の方が、兄としては大きい。




 妙な空腹感が後をストーカーしてるだけで。



「…い、いま…にぃちゃん…」




 ―心に刺さる




「…俺の、血―…吸ったん…だよ、な…」


 ―事実。





 吸った


 俺が飲んだ



 ―吸血、したんだ。



 否定できない。







 『お前と私は』




 …俺、は―









 ヴァンパイア






 ……―そう、か…







「…直、血―止めねぇと」




「―な、に…言ってん、だよ…」




 俺は直の首に出来た牙の痕を舐める。








 ―やっぱり、美味いと思う。




 …もう…戻れない







 苦い傷口が消えて、俺の舌はさらなる血を求める。


 ―余りに、美味くて。




「…―っ!?にぃ―っ!?」



 首筋を抜けて、鎖骨、胸筋、腹筋、浮き出た骨盤―


「―あぅ…!」



 ヒタリ、と



 ベルトの金具の冷たい感触に、



 はっと我にかえった。



「あ…直」




 顔を真っ赤に染めて叫ぶ。


「『あ…直』、じゃ無えよぉぉ―ッ!!」


 まぁ俺が悪いことは明確だ。



「ばかばかばかばか!!!!にぃちゃんのバカヤロー!!豆腐頭!!吸血コウモリ!!ばーかばーかばーか!!弟に何すんだよぉぉぉ!!!!」



 吸血コウモリ




 …否定できない俺が恨めしい。



 …全部、あの金髪野郎のせいだ。



「…あー…いやそのー」



 冷静に考えると俺がした事って近親相姦に近いような。



 しかも弟。


 俺は兄。




「…―ッっ!!どういう事なんだよ!!説明しろよ!!」



 そう言えば俺は金髪野郎に咬まれてヴァンパイアが伝染った。




「…っ、何だよ」


 俺はすでにヴァンパイア…な、訳で…



 直は―



「な、直!!」

 びくっと直の肩が震えた。



「な…、なんだよ…」




「何かおかしくないか!?」

「その言葉そっくりそのまま返してやるよ!!」




 あぁ!!そうじゃなくて!!


 俺は制服のシャツの襟を広げる。


 ボタンが簡単に弾け飛んだ。




「ななな、何っ…!?」


 突き出したのは自分の首筋。



「何か感じない!?」

「はぁぁ!?」

「いや…!!何か…こう…―ザワザワしないか!?」

「しないよ!!」




 …。




 …しない―のか…?


「気持ち悪いな、何だよにぃちゃん!!まさか変態の道に走ったのか!?もう何がなん何だか訳分かんねぇよ!!」


 しないって、事は―






 伝染って…ない…?







「……―よかったぁ~…」



 全身の力が抜けて、その場にへたり込んだ。


「一体…何なんだよ!?―さっきから、何かにぃちゃんおかしいよ!」




 ―…直夜、


 俺の弟



「―いや…」




 …―そうか



 俺、もう今まで通り暮らせないんだ




 …じゃあ、ガッコーは?


 部活は?友達は?家族は?




 …俺が今まで持っていた物は、守っていた物は…、一体…どうなるんだ―?




「…直、」



 少なくても、もう此処には居られない。




「俺が言う事、信じるか?」







「…人面犬じゃなければ」









 …限りなくそれに近いような










「…お兄ちゃん、吸血鬼になっちゃった。」










「に…にに、にににぃちゃん、ちょ…ちょ、チョイスが…ふふるふるっ、ふふふふ古い」









 ………そうだよなぁ…









 …信じられるわけ無ぇよなぁ…



 …俺だってさっきまでは信じちゃいなかったよ




 ―けど、


 今は信じてる



 直感的に、







 ―信じるしかないだろ



「…嘘だと思うか?」



「―そりゃあ…ねぇ」






 …まぁ…俺だって直に突然言われたら信じないし




 って言うか信じる奴なんて居るのか?






「…って言いたいんだけど…」



 なぬっ!?


 覆して、直はサラサラの頭を掻いた。



「俺―実際咬まれてるし…」




 …むむむ…



「…信じるしか―無いんじゃないの」




 …何だこいつ。



 サラッと認めやがって。


 (かたく)なに認めなかった俺がバカみたいじゃねぇか。






「信じるの?お前バカ?」


 八つ当たりした。


「…。…にぃちゃんよりは頭良いと思うよ」




 …。


 …俺は確かに直より勉強は出来ない。



 …だからって、いや、だからこそ、ムカつく。


「テメェ…兄貴にそういう事言って良いと思ってんのか」


「―にぃちゃんが俺の事貶(けな)すからだろ」


「…ぐぅぅ」



 そんな事言われちゃったら確かに直に非はないけど。



「…、悪かったよ…」




「うわぁ!?にぃちゃんがやけに素直だあぁ!!!!どうしちゃったのさ!?」



「…なんだテメェ。今まで俺が意地っ張りだったとでも言うつもりか?」


「うん。」


 即答かよ。

 コイツ…


「やっぱしハーゲンダッツ買ってやんねーぞ」


「うわぁぁぁぁ!!俺が悪かったよぉ!!…だからハーゲンダッツ買えやゴルァ!!買うっつっただろうが!!」


「態度豹変しすぎ!!」


「約束破ろうってのか!?あ~ぁ、だから大人は嫌なんだよ。」


「…お前と俺、年子なんだけど。…どこが大人だよ」










 …あれ、



 …何だろう





 何も無くした気になれない。






 …余りにも直が変わらな過ぎるからだ。






「…なぁ、直」




「…?今度は何さ?」







「―俺に距離置いたり、しないのか?」

「…?」




「…だって俺、吸血鬼なんだぞ。さっきだってお前咬まれてるんだし…また、俺、飲んじゃうかも知れないのに…」





 そうなる事を一番恐れてるのは、案外、俺なのかも知れない。



 吸血行為は必要以上に強く、現実を突きつける。




 ―自分が吸血鬼なんだと認めたくないのは、変わっていない。


 あまり快い事実でも無いし…。




「お前ホントに分かってんのか?」



 俺が責めると、直は拗ねたように唇を尖らせた。



「分かってるよ。俺だってバカじゃねーもん」


「わかってねーよ。ぜってーわかってねー。」


 ここぞと俺は直に詰め寄った。



「俺はもう人間じゃ無ぇんだぞ!!」










 言ってる自分が辛くなってくる。










 でも、兄貴としても当事者の意地としても、そこは我慢。










「もう、人としては―」

「―分かってるよ!!」


 言い終わる前に、直に遮られた。


「分かってるよ!!分かりたくなくても分かっちゃってんだよ!!」


 出来の良い弟が、まるで出来が悪いみたいに、ヒステリックに叫んだ。


「そんなのホントは分かりたくない…分かっちゃいたくない…。でも俺が受け入れなかったら、誰がにぃちゃんの現実理解してやるんだよ!多分俺以外信じる奴なんていないだろ!!」


 …俺…弟に気ィ使わせてたのかよ。


 なっさけねぇー…。


「…俺…バカなんだろ」


 …ホンっト馬鹿だよ。


 出来が良いっ言っても、やっぱ俺の弟だから


 カワイソーな事に大バカ野郎だよ。



 ―お前なんか大っ嫌いだ。


 兄貴のプライド、どうしてくれるんだよ。






「…人間じゃなくても、俺の兄貴だって事に変わりは無いじゃんか」



 …ちくしょー




 嫌いなんだからな!!



 嫌いっつったら嫌いなんだからな!!!!



「ちくしょー直め!!大好きだあぁぁ!!」

「ぐあぁ!何だよにぃちゃんむさ苦しい…」


「こんにゃろー!!こちょこちょしてやる!!!」


「くっ…!!ギャハハははは!!!!や…やめろよ―っ!!!!」




 …ふう。




「……で、早く服着ろよ」




 いつまでも裸で居られると押さえ続けてた自制心が外れ掛かってくるから。



「…はぁ…は…っ…、こんの…バカ兄貴…!」



 息も荒いまま、直は恨めし気にぎろりと睨んだ。


 俺は気づきつつも見て見ぬ振り。


 都合の悪いことは知らんぷりに限る。



 直が舌打ちをしたのが聞こえた。

 が、無視し続けると、ようやく着替えを続行し始める。



 …さて、今日の外出どうしようか。


 日光とか銀製品とかニンニクとか、十字架とか杭とか清水とか…一体、大丈夫なんだろうか。



 …まぁ清水とか杭はそこらへんには無いと思うが。


 ヘタしたら十字架のシルバーアクセとかあるからな…。




「ねー、にーちゃーん?」


 すでに着替えの九割を済ませた直が、靴下を履きながら呼んだ。


「あー?」



「そんなんなっちゃって昼間出掛けられるの?」


「…すげぇ。何で考えがシンクロしてんの?」



 ―それとも誰もが抱く疑問なのか?





「いや…実は俺も詳しいことは分かんないんだよな」


「え?何で?」





 何でって……



「なりたてホヤホヤだから?」



新米ピチピチヴァンパイアです!!


 …ピチピチ?





「…なんか分かんないの?直感的に。」



「…その時にならないと分かんない」



 血を飲みたくなるって事も今知ったぐらいだ。





「―なぁ、どんな感じ?」


「…は?何が?」


「吸血鬼ってどんな感じ?」






 …どうって……



「あんま変化無い」




 直は怪訝な顔をした。

「…えぇ?」



 だって何も変わらない。


 今まで通り、普段通り。

 だから余計信じ難い。


「…ふーん?」


 …さて、どうしよう。




 …親に何て言えば善いんだろう。



 直が言った通り、信じてくれる筈も無い。


 …憂鬱と言うよりリアルに困る。



「…うーん…。…ヘタに外出したりしてにぃちゃんに辛い思いして欲しくないし…」



 なんて兄想いの弟なんだ!!お兄ちゃん感激!!




 …じゃなくて、




「……何か…、…お前、順応早くない…?」



 …なぜそんなに当たり前に考えられる?




「…うーん、何でだろーねぇ?」




 性格の悪い女みたいに、弟は笑った。


 ―性格が悪いかという事に関しては、なんとも意見しかねますが?



「出掛けるのは日が暮れてからの方が良さそうだね」


「…良いのかよ?…夜更かし」



「…―いーよ。」


 …まぁ、良いなら良いんだけど…。



 ―僅かに、弟は悲しい様な困惑した様な、切なげな表情をした―様な、気が、した。



 真偽は定かではない。


 ―俺の気のせいかも。



「とりあえず…にぃちゃん着替えたら?」



 …ごもっともで。




 俺は直の部屋から出て、奥の自分の部屋に向かう。










 ―嬉しくない筈、無いんだ。


 あんなに望んだ家に帰ったんだから。





 ―のに、なぜか気分が重い。



 理解しきれない色んな事全てが、罪悪感に変換されている。




 更に、罪悪感は自己嫌悪に進化。




 ―そんな事詳しく分析しても、結局はテンションが上げられないって事で―




 …あー…もーヤダ。頭ん中ぐっちゃぐちゃ







 …全ては、紛れも無くあの変態金髪ブリーチの所為だ。








 ろくな説明をされなかったので、自分の事とかがなにも分からない。



 『今のお前は自分を知らな過ぎる』


 ………。


 『行くなら行け。後悔、しないのならな』




 ……後悔じゃねぇよ



 後悔、なんて…




「……………しちまってるん…だろーなー…」


 …後悔。





 そして『後悔』に後悔。



 のろのろとタンスの引き出しを開け、Tシャツを引っ張り出した。


 ―あ、直とペアルックの奴だ。




 …当時ダブルで反抗期真っ盛りだった俺と直は、やっぱりダブルでブチ切れて、散々喧嘩して、結果、俺はタンスの奥にペアルックTシャツを封印した。




 今でも両親には無性にイラつくが、直とは妙に和解が早かった気がする。



 …ったく、男兄弟でペアルックとか何考えてんだよ。


 考えれば分かんじゃん。気持ち悪りぃだろ、兄弟でお揃いとか。




 …まぁ…でも、そんな事親に言うのも…もう、無いのか…。


 母親を罵るのも、


 直と会えるのも―







 …何だよもう






 俺はTシャツの上にパーカーを羽織り、ジーパン履いて靴下履いて、アナログ腕時計を装備した。

 文字盤を視ると6時ちょっと過ぎ。



 …1時間も直と喋ってたのかよ。



 弟と居ると無駄に喋ってしまう。全くもって時間の無駄だ。


 ―どうせ、夜まではやることも無いのだが。





 雨戸の外はもう明るいのだろう。


 俺はぐちゃぐちゃになってるベットに倒れ込んだ。




 …金髪に二回目に咬まれたのも、ベットだったな。



「…畜生…何であんな奴の事、思い出すんだよ…」




 何だか瞼が重くなってくる。

 脳が、麻痺してくる。




 頭が全然廻らない。









 何だか気持ち良い…。








 ―気持ち良いを通り越して、俺は乱れたベットの上でうたた寝してしまった様だった。



 夢なんて観ない





 深く深く深く深く、







 闇の中に、眠った。








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