シラナイトコロノ、サクセンカイギ
「……クソッ!!」
バキリ、と、
鈍く音が響いた。
少女が腹立たし気に爪を噛んでいた。
マニキュアで着色、コーティングされた硬質の爪が、鈍い音で噛み砕かれた音。
「リラ、機嫌が悪そうだけど―…。
ふふ、当たり前だね」
そう笑う少年。
リラという少女が怒鳴った。
「クソっ!! あの女…下等生物の分際で調子コキやがって……っ!!」
殴打した壁が、粉々に打ち抜かれる。
「―キースもリラも、本当に使えないわ」
赤いドレスの女が、溜め息混じりに言った。
表情にも声音にも、感情の色は見当たらない。
切り落とされた膝上のスカートで、足を組み直した。
「所詮同じ穴の狢でしょう。互いに罵り合っているのが似合いよ」
「―黙れ!!」
リラが叫ぶ。
ジャケットの胸倉を掴み、女を壁に押し付けた。
彼女の後頭部が壁を強打し、鈍い音を奏でる。
それでも、女の表情は変わらない。
それがリラを余計に苛立たせた。
「――じゃあお前はどうだロスヴィータ。一度も出向いた事が無い癖に」
「私は前の戦いに参加しているもの。あなた達なんかよりもよっぽど使えたわ」
「……―っ」
リラが小さく舌を打つ。それを知ってか否か、ロスは更に彼女を嘲った。
「普段被っている仮面はいったい何処になくしたのかしら。
腹を立てると猫被りも出来なくなるの」
「っこの年増―」
少女が声を張り上げた、
―時、
「――やめなさい、リラ。言葉が過ぎますよ。
美しくない」
その声は優雅に微笑した。
「ロスヴィータも悪い。彼女を挑発するのだから」
二人の女は渋々、互いに距離を取り離れた。
ロスが眼を伏せ、膝を附く。長い睫毛が影を落とした。
「――申し訳御座いません」
リラも、ゆっくりと重く頭を下げた。
「―美しいね。自信の非を認め服従する様は実に美しい」
しかし、と覆し。
声が呆困ったような溜息を洩らす。
「彼等もせめてそのくらい美しければ。
――いや、でもそれは無理な話。現実、彼等は醜い。
―私は、美しくないものは嫌いですから。
……やはり滅ぼしてしまいましょう。我等が再び返り咲く為にも―ね」
リラとキースは妖艶に笑い、ロスも揃って服従と同意を示した。
「…しかし、困りものですね。タクヤと言う少年。無駄に運がいいのでしょうか。
―目障りな上に癪に障る存在だ。
消えて貰いたいが―それはもう諦めた方が良いのかな。執拗に固着するのは見苦しい」
声の主は、再び溜息。
「…仕方ない。彼とクリスティの愚属は諦めましょう。他の戦力などたかが知れたもの。
クリスティ、彼の愚属とて、私が勝てぬ筈もない。
我々は今暫く、彼等の出方を窺うとしましょうか、」
その案には、みな異議も無く賛成したようだった。
彼等の左胸には、真紅の薔薇が美しく刻まれていた。
―と、
―こんな事は、誰も知らない。