夢回帰―鬱々
一度、太陽が見えない曇った昼間に出掛けたことがある。
なんて事はない。
大した理由もない。
只の退屈と、ちょっとした興味本位。
―確か、それは新築されたデパートと言う店だったか。
…行ったは良いが、退屈だった。
並べられた衣服は他国の物の様だし、陳列された食品にも何の興味もない。
人混みはただ不愉快なだけで、その上私はどうやら目立つようで―
…そして、追い討ちを掛けるように消え去った曇天。
―私は苛立ったまま、展望室の出入り口で夜を待っていた。
―そう、確かその時だ。
べちょっ、という音とともに、―膝が冷たくなった。
『…―』
『―あ………』
足元で途方に暮れていた、幼児。
手には逆円錐形のモノの上に白い半固体が乗っかった何か。
そしてそれは私の膝にべっとりと接して―いや、既に浸透しながら寄り掛かっている。
『…何をする餓鬼』
不運しか重ならない日に、本当に私は苛立っていた。
『…あ…わ、わわわ―…。どどど…どうしよ…』
終いには泣き出す始末で。
良いから早くコレをどうにかしろよ、とか。
そして、言い知れぬ怒りに良く似た苛立ちとか。
もう何でも良いからコイツを喰い殺して仕舞おうか―とか。
…それは八つ当たりに近い殺意だったのかも知れない。
『…―』
口の中で小さく舌打ちをした、その時、
『―迷子のご案内です。白のTシャツにカーキの半ズボンの、藤堂、拓夜くん―』
女の声、アナウンス。
目下で泣いているこのガキも、白服に暗い緑のズボン。きっとこの色をカーキと呼んでいるのだろう。
『…―お母さんがお捜しです。お見かけの方は、一階、サービスカウンターまで―』
…お見かけの方は、きっと私で。
『…トウドウタクヤ…か』
『……ふぇ? …あれ…? おじさん何でおれの名前しってんの…』
…なんて最悪な日だ。
しらばっくれて立ち去ってしまおうか。
『…ち…、…立派な名字など名乗りおって…』
『…なぁ、おじさん。…アイスどうしよう…』
『―は?』
アイスとはこの忌々しい白い半液体状の物の事か。
『…知るか。自分の頭で考えろ。…というか、それより先に、私に何か言うことがあるんじゃないのか』
『…あ、そっか…。うんと…冷たくない?』
…違う、其処じゃない。
『―馬鹿者。まず先に謝るべきだろう』
『あ、そうだよな。ゴメン』
…思い切り、頭を抱えた私だった。
『…もういい。
早くサービスカウンターとやらに行け。母が心配しているらしいぞ』
『行きたいけどさ、おれ迷っちゃったんだよね』
確かに迷子だな。
『…分かった。黙ってついて来い。私も分からんがお前よりはましだ』
『わー、ありがとー。
…あ、ちょ、待って。おれオシッコしたい』
『………早く行け』
面倒な奴に出逢ってしまったと、当時の私は憂鬱になるのだった。
短くなってしまいました…。
ごめんなさい。中間テストが終わったら頑張ります。